2022年1月11日

2022年、代替肉はどうなる?カギを握るのは、マクドナルドの存在

北海道大学大学院 市村敏伸

エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が盛り上がっているのでしょうか。
一橋大学在学中で、佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは「2022年、代替肉はどうなる?カギを握るのは、マクドナルドの存在」。ニュースのまとめ翻訳に興味がある方は、ぜひリンク先(※英語)をご覧ください。

2021年、代替肉業界は
"失速の年"だった?

みなさま、新年明けましておめでとうございます。2022年も本連載では、世界のエシカルな食にまつわる情報を読者の皆様にお届けします。今年もどうぞ、エシカルフードニュースをよろしくお願い致します。

さて、2022年最初のエシカルフードニュースは、久しぶりに代替肉の話題です。

本連載では繰り返し扱っている話題ですが、代替肉は2020年のコロナ禍でその売り上げを世界的に大きく伸ばし、昨年は日本でもメディアに取り上げられることが多くなりました。

昨年、2021年を振り返ると、日本では代替肉の知名度が大きく広がったように感じますが、世界的な代替肉業界の事情を見ると、実は"失速の年"だった感も否めません。

本連載では昨年7月に「代替肉は健康食品に?アフターコロナの代替肉事情」の記事のなかで、日常生活がコロナ禍から日常に戻るなかで、代替肉が「結局はベジタリアンなどの一部の消費者層向けのニッチな商品になるのでは?」という可能性を指摘しました。

そして、その後、やはり大手代替肉メーカーが苦戦を強いられているという情報も入ってきています。

アメリカ最大手の代替肉メーカーの1つであるビヨンド・ミート社は202111月、2021年第三四半期の売上高が1億600万ドル(約117億円)で、前年比12.7%の増収だったと発表しました。しかし、同社は事前に売上高を1億2000万ドルから1億4000万ドルと予測しており、実際の売上高が想定を下回る結果となりました。また、この発表を受けて、同社の株価は一時20%下落。業界関係者の間では大きな話題となりました

こうした成長鈍化の傾向は代替肉業界全般に見られています。以下のグラフは英紙フィナンシャル・タイムズが作成した、米国での代替肉売上高の昨年からの推移を示したものです。

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このグラフが示すように、2021年の4月以降、米国の代替肉市場の売上高は昨年比マイナスの状態が続いています。つまり、市場の成長速度は明らかに鈍化しているのです。

この背景には2020年の成長率があまりにも大きかったということもありますが、やはり代替肉という商品の目新しさが薄れてきたことが大きな要因と考えられます。では、2022年も代替肉の市場ではこの傾向が続くのでしょうか。

ここで、2022年以降の代替肉の再浮上のカギを握っている存在として注目したいのが、ファストフードチェーン、特に"業界の王者"でもあるマクドナルドでの取り扱い拡大の行方です。

代替肉市場、成長のカギは
マクドナルドにあり

ファストフード業界では、2019年という比較的早い段階でバーガーキングが米国市場で代替肉バーガー「インポッシブル・ワッパー」の販売を開始しました。また、日本でもファストフードチェーンでの代替肉バーガーの取り扱いは広がっており、その模様は以前の本連載のレポート記事でも詳しくお伝えしました。

このように、ファストフード業界における代替肉の取り扱いは以前から拡大していましたが、やはり本命として注目されているのが、業界でもダントツの売上高を誇るマクドナルドの動向です。

マクドナルドは202011月に同社初の本格的な代替肉ブランド「McPlant」の立ち上げを発表しました。その詳細は本連載記事もご確認いただければと思いますが、この発表後、マクドナルドはスウェーデン、デンマークの一部店舗で試験的に代替肉バーガーの販売を開始。そして、昨年10月には、ついに米国内の一部店舗での試験販売を開始しました

このMcPlant、代替肉のパテの供給元をめぐっては「マクドナルドが自社開発するのでは?」という噂も当初はありました。しかし、2021年2月にはビヨンド・ミート社がマクドナルドと3年間のサプライヤー契約を結んでおり、しばらくはビヨンド・ミートが独占的に供給を行う見込みです。

代替肉市場の鈍い成長に悩むビヨンド・ミートとしては、マクドナルドでの取り扱い拡大は重要なポイントです。そして、マクドナルドとしても、今後代替肉の取り扱いを増やしていくことが重要と思われます。

というのも、最近、欧米ではマクドナルドのサプライチェーンにおける環境負荷を追及する論調が強まっているためです。

「マクドナルドは温室効果ガス削減のために必要なことから逃げている」と題してマクドナルドによる環境負荷の責任を厳しく追及した英紙ガーディアン掲載の記事によると、マクドナルドによる年間の温室効果ガス排出量は、ノルウェーなどのヨーロッパ諸国の年間排出量に相当するとも言われます。

その大きな原因は、やはり牛肉生産における牛の消化過程からのメタンの排出です。温室効果ガスの一種であるメタンの排出はこれまでも大きな環境問題として注目されていましたが、2022年以降はこの問題により大きな注目が集まる可能性があります。

その背景にあるのが、昨年開催されたCOP26にて、初めてメタン単独の削減目標が示されたことです。「グローバル・メタン・プレッジ」と呼ばれるこの枠組みでは、2030年までにメタンを2020年比で30%削減することが目標として掲げられました。

これを受けてメタンの主要な発生源である畜産業の環境負荷を問う声がこれまでより一層強まる可能性があります。現に、大手投資ファンド・コラーキャピタルの創業者が主宰する、投資家ネットワーク「FAIRR」は、COP26でのメタン削減目標を受けて、新たなレポートを公表。ここでは、マクドナルドをはじめ、メタン排出の多いグローバル企業の多くが、そもそもサプライチェーン上でのメタン発生量を把握していないことが批判されています。

ということで、グローバル・メタン・プレッジをきっかけに環境負荷への批判が一層強まるなか、マクドナルドが重視する可能性が高いのが、代替肉の取り扱い拡大というわけです。成長への起爆剤としてマクドナルドとの提携を重視したいビヨンド・ミートと、サステナビリティへの取り組みを進めたいマクドナルド、この両者の関係の行方が2022年以降の代替肉市場全体を占う重要な動きとなるでしょう。

注目のビヨンド・ミートと
マクドナルドの関係の行方

しかし、マクドナルドと代替肉業界の提携拡大はそう簡単なものではないと考えられています。

それは、マクドナルドほどの巨大チェーンへの安定的な供給体制を代替肉メーカーが確保できるのか、という懸念が大きいためです。かつて、ビヨンド・ミートのライバル社であるインポッシブル・フーズのパトリック・ブラウンCEOは2019年のインタビューのなか「生産キャパシティ上、マクドナルドとの提携は現実的ではない」とコメントしています

こうした課題に対しては、ビヨンド・ミートも着々と対策を進めています。同社は昨年12月、大手食肉メーカーのタイソン社の元役員2名が新役員として入社することを発表。この役員はそれぞれ、COO(最高執行責任者)とサプライチェーン責任者に就く予定で、特にCOOに就任するダグ・ラムゼイ氏はタイソン社で長年、マクドナルド担当の責任者を務めていた人物です。

今回の役員就任はマクドナルドとの関係強化とサプライチェーンの強靭化を念頭に置いたものと見られており、ビヨンド・ミートの代替肉を使ったMcPlantの取り扱い拡大などにつながるか、今後の動きが注目されています。

2022年の代替肉業界にとって重要なマクドナルドでの動向、今年の要注目トピックとなることは間違いなさそうです。

2022年16日執筆

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プロフィール
市村敏伸(いちむら・としのぶ)
1997年生まれ、一橋大学法学部卒業。大学在学中にライター活動を開始し、現在は北海道大学大学院農学院に在籍中。専門は農業政策の形成過程に関する研究。
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