
今や、多くの人が食品ロスの問題に関心を持っていることでしょう。食品ロスは「もったいない」だけではなく、環境問題としても重要です。では、食品ロスを減らすためには、一体どのような取り組みが社会に広がらなくてはならないのでしょうか。食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんのナビゲートで、我々がお手本とすべき食品ロス削減の"最前線"をご紹介します。
「賞味期限切れ」は本当に危ない?
あるテレビ番組で「賞味期限切れ」特集を放映していました。街の人50人に「賞味期限切れの食品を買いますか?」という質問をしたところ、26名が「買わない」と答えました。
その理由として「お腹を壊すから」というのがありました。
賞味期限は「おいしさのめやす」に過ぎませんが、「期限」と言われると、品質が切れる日付だと勘違いしている人もいるようです。
本当に気を付けるべきは「消費期限」の方です。おにぎりや弁当、惣菜、サンドウィッチ、調理パン、生クリームのケーキなど、日持ちしない食品に表示されます。時間の経過とともに品質が急激に劣化しますので、表示の日時を守ることをおすすめします。
一方、「賞味期限」は「おいしさのめやす」ですから、適正な方法で保管してあれば、期限を過ぎてもすぐに食べ物を捨てる必要はありません。このように賞味期限で食品を捨ててしまうという悩みは海外でも同じです。
食品ロスを25%削減!
デンマークの「賞味期限の注意書き」
賞味期限への理解を深めることを目的に、デンマークでは2019年に「賞味期限と消費期限の書き方キャンペーン」が実施されました。キャンペーンを主催したのは、食品ロスを減らす活動をしている「Too Good To Go」や、活動家のセリーナ・ユールでした。
「Too Good To Go」は、期限が迫ってきた商品や時期を過ぎてしまった季節商品などを、スマートフォンのアプリを通してお手頃価格で販売する取り組みを続けています。デンマークで始まった取り組みは、今では欧州14か国、米国にまで広がりました。
Too Good To Goは、2019年のキャンペーンで各食品に表示されている賞味期限の横に「賞味期限が過ぎてもたいていの場合は飲食可能」という文言を入れました。本当は賞味期限表示そのものを変えたかったのですが、変えるためにはEU全体で法律を変えなければならず、それには年月がかかり過ぎるのでこのような方法をとったのです。もちろん事前に政府(食料庁)に連絡し、表現についてはお墨付きをもらっておきました。
Too Good To Goは15の食品メーカーと話し合い、ユニリーバやカールスバーグ、乳業メーカーのアーラフーズなどが「賞味期限が過ぎてもたいていの場合はおいしく飲食できます」と表示を追記する、と約束してくれました。
下の写真はこのキャンペーンの文言を初めて掲載した小規模農業のオーガニック牛乳、Thise(ティーセ)の商品です。商品パッケージの1面を使って「目でみて、においを嗅いで、味を確かめて、食べても大丈夫か自分自身で確認しましょう」と呼びかけたのです。
デンマークでは、このような取り組みや、規格外のトマトをケチャップに加工してスーパーで販売するなどによって、5年間で25%の食品ロスを減らすことができました。
こうした賞味期限についての注意書きは、ほかの国にも広がりました。たとえば隣国のスウェーデンでは、牛乳や飲むヨーグルトの賞味期限表示の横に「過ぎてもたいていの場合は飲食可能です」という表示が入るようになりました。
このような取り組みを、たびたび日本でも紹介していたところ、日本でもチャレンジしてくれる人があらわれました。管理栄養士の松井順子さんです。勤めていた食品関連企業が製造している食品の賞味期限表示のところに「おいしいめやすです」と表示を入れたのです。
Too Good To Goに取材したとき、対応してくださったニコラインさんは、「法律や決まり、人々の誤解、そういったものを変えないと、食品ロスはなくならないと思っています」と話してくれました。
法律を変えたり新たに制定したりするには長い年月がかかります。だからこそ、今できることをやる。それによって、人々の意識が変わり、行動が変わり、成果に結びつくのです。
日本では、賞味期限と消費期限の違いは中学校の家庭科で履修します。受験科目ではないので、なんとなくスルーしてしまうのかもしれません。でも、生きている限り、食品を購入して消費していく私たちは、賞味期限についての正しい理解をすべきではないでしょうか。そのためにも、デンマークの取り組みは日本のわたしたちにとっても参考になる事例です。
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