2020年12月 2日

マクドナルドが代替肉に本格参入 McPlantの狙いを読み解く

北海道大学大学院 市村敏伸

エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が上がっているのでしょうか。
一橋大学在学中で、佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは「マクドナルドが代替肉に本格参入 McPlantの狙いを読み解く」。ニュースのまとめ翻訳に興味がある方は、ぜひリンク先(※英語)をご覧ください。

ついにマクドナルドが
代替肉を"本気"で始める

米国時間の2020119日、米・マクドナルドは、同社初の本格的な代替肉ブランドとなる「McPlant」を立ち上げ、代替肉を使用したハンバーガーや朝食メニューなどについて、2021年より発売を開始すると発表しました。大手ファストフードチェーンでは、これまでにバーガーキングやKFCなどが植物性肉(プラントベース)を使用した代替肉ブランドを立ち上げていましたが、マクドナルドは本格的な代替肉分野への参入に踏み切っていませんでした。その外食産業の世界的ジャイアントが、ついに沈黙を破ったと業界内で大きなニュースになっています。

むろん、マクドナルドがこれまで代替肉分野で一切アクションを起こしてこなかったわけではありません。同社は昨年、カナダ国内の一部の店舗限定で、植物性肉を使用した「P.L.T.バーガー」の試験販売を実施P.L.T.は、Plant-based(プラントベース)、Lettuce(レタス)、Tomato(トマト)の頭文字をとったもので、商品の要となるパテには、エンドウ豆をベースとした代替肉開発で知られるビヨンド・ミート社製のものを使用しました。

当初、28店舗のみでの試験販売を、今年に入り52店舗まで拡大した同社でしたが、今年6月、この試験販売の中止を突然発表します。インターネット上では実際に購入した顧客から、パティの風味が不十分で、風味を補うためのソースを多用し過ぎているなどの問題点が指摘されており、試験販売で得たフィードバックをもとに再度代替肉分野への参入を図るものと見られていました。

このようにMcPlantの発表以前から代替肉を取り扱っていたマクドナルドですが、今回のMcPlant"本格的"な参入と言われる所以は、これまでにないマクドナルド側の姿勢の本気度にあります。そのマクドナルドの本気度を紐解くヒントとなるのが、McPlantというブランドタイトルです。

McPlantの発表を伝える米国のニュース番組

McPlantの言葉の重み
コロナ禍が与えた影響とは

マクドナルドには多くのメニューがあるなかで、その商品名に注目すると「マック」(Mc)という表記が使用されているものとそうではないものが混在していることが分かります。この点について、マクドナルドは公式見解で、「Mc」の冠がつく商品は「マクドナルドブランドの価値と独自性を高めるもの」に限って使用されると説明します。

つまり、昨年から今年にかけて試験販売をしたP.L.T.バーガーの名称を捨て、McPlantという「Mc」を冠した新たなブランド名で代替肉分野に参入することの意味は大きく、P.L.T.バーガーの販売から得た知見などは活かされるとしても、同社の戦略上での代替肉ブランドの位置づけは大きく変化したと見るべきでしょう。

こうした同社の方針決定の背景には、コロナ禍での代替肉市場の急速な成長があるものと考えられます。すでに本連載ではたびたび触れているように、欧米では、屠畜場や食肉加工場で新型コロナウィルスの感染拡大が相次いだ結果、食肉供給が不安定となり、食肉価格が高騰。その結果、消費者の間で代替肉への関心が高まり、コロナ禍で代替肉市場は活況に沸きました。

マーケット調査会社の米・ニールセンによると、昨年同月比で、今年3月の植物性肉の売上高は231%増と、新型コロナウィルスの感染拡大と並行して代替肉市場は急速な成長を見せ、この傾向は夏に入っても変わらず、7月の売上高も90%増と高い成長率を維持しています。

こうしたコロナ禍による代替肉市場の急成長とあわせて、マクドナルドの本格的な代替肉分野への参入の背景となっているのが、相次ぐファストフードチェーンによる同分野への参入です。マクドナルドのライバルであるバーガーキングは、代替肉メーカーのインポッシブル・フーズとコラボした代替肉バーガー「インポッシブル・ワッパー」を2019年から米国内で販売しており、フライドチキン大手のKFCも、2020年から代替肉メーカーのビヨンド・ミートとコラボした代替肉フライドチキン「ビヨンド・フライドチキン」の販売を米国の一部地域で開始しています。

代替肉市場が小売、ファストフードともに盛り上がりを見せるなか、2021年からの参入を発表した今回のマクドナルドの動きは鈍いようにも見えます。しかし、今回のMcPlantの発表は、今後の代替肉市場の世界的な拡大にとって、大きな転換点となるかもしれません。カギとなるのは、McPlantが使用するパテの供給体制についてです。

代替肉の世界的拡大への序章?
McPlantと代替肉のPB化

すでに述べたように、マクドナルドは、これまでビヨンド・ミートから供給を受ける形でP.L.T.バーガーの販売を進めてきました。したがって、今回のMcPlantにおいても、ビヨンド・ミートからのパテの供給を受けるものと考えられてきましたが、マクドナルド側は現時点でパテの供給元について明言を避けています。

さらに、マクドナルド側は「McPlantの生産は、マクドナルドのために、そしてマクドナルドによって、独占的に行われる」と説明しており、ビヨンド・ミートなどの外部メーカーに頼らず、自社での独自の代替肉開発に乗り出すことも示唆しています。これは、「Mc」の冠が「マクドナルドブランドの独自性」に貢献する商品に付されるという方針とも合致する流れと言えるでしょう。

代替肉開発の独自路線の背景として考えられるのが、マクドナルドほどの巨大チェーンへの安定的な供給体制を、新興ベンチャーであるビヨンド・ミートなどが確保できるのかという現実的な問題です。ビヨンド・ミートのライバルであるインポッシブル・フーズのパトリック・ブラウンCEOは、2019年1月のロイター通信とのインタビューのなかで「生産キャパシティ上、マクドナルドとの提携は現実的ではない」との見方を示しており、既存の代替肉メーカーの供給体制への不安が、マクドナルドが独自開発へと踏み切る要因となったと見られ、これはグローバルにMcPlantを展開したい同社の意向の現れとも言えるでしょう。

現在、代替肉分野で先行するファストフード各社は、商品名に提携先の代替肉メーカー名を冠しており、販売対象も一部の国や地域に限られるなか、こうした状況はビヨンド・ミートなど一部のメーカーによる代替肉市場の寡占であるとも指摘されます

しかし、今後グローバルに代替肉商品を展開するにあたって、供給体制や自社のブランド戦略上、マクドナルドのような代替肉の独自開発を進める企業が増加し、代替肉のプライベートブランド化が加速することも予想されます。つまり、今回のMcPlantは、ファストフードにおけるグローバルな規模での代替肉の提供モデルの1つとなり得るでしょう。

本連載では以前にも指摘したように、ステーキなど、代替肉による高いクオリティの再現が求められる分野とは異なり、ファストフード商品と代替肉との親和性は高く、ファストフード分野は世界的な代替肉市場の成長を牽引する役割を果たすと予想されます。

そのファストフードのなかで、現在、一部の国や地域に限られている代替肉の提供をいかにグローバルに拡大していくのかが、代替肉市場全体の今後の成長にとって大きな課題となるなか、マクドナルドによるMcPlantの生産販売モデルはその解決策となる可能性があります。2021年発売開始予定のMcPlant、いまだ販売予定地域などは発表されていませんが、この世界的大企業の新たな取り組みは代替肉の未来を占う重要な動向となりそうです。

2020年121日執筆

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プロフィール
市村敏伸(いちむら・としのぶ)
1997年生まれ、一橋大学法学部卒業。大学在学中にライター活動を開始し、現在は北海道大学大学院農学院に在籍中。専門は農業政策の形成過程に関する研究。
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