2021年7月10日

代替肉は健康食品に? アフターコロナの代替肉事情

北海道大学大学院 市村敏伸

エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が盛り上がっているのでしょうか。
一橋大学在学中で、佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは「代替肉の健康食品に? アフターコロナの代替肉事情」。ニュースのまとめ翻訳に興味がある方は、ぜひリンク先(※英語)をご覧ください。

コロナ禍で一気に知名度が高まった代替肉
どうして? そしてどうなる?

2021年が始まって、はや半年以上が経ちました。昨年、2020年はまさに全世界でコロナ禍の一年であり、それによって食の世界にも様々な影響がありました。なかでも、注目すべき変化の一つが代替肉という食品が一気に知名度を高めたことです。

本連載では昨年62日付の記事「コロナがもたらす 植物性肉の時代」にて、当時まだ始まったばかりのコロナ禍によって、米国を中心に代替肉の存在感が急速に高まっている状況をレポートしました。

当時の状況を改めて振り返ると、新型コロナウィルスの感染が世界中で広がるなか、欧米各国の屠畜場や食肉処理施設で相次いでクラスターが発生。この背景として、移民系労働者らが働く劣悪な労働環境の存在が指摘され、各国で食肉業界の労働環境問題が社会的な関心の的となりました。

それと同時にクラスターが発生した屠畜場などが操業を停止したことで、肉類の需給状況が逼迫。店頭でも一時的に肉類が品薄となり、その状況がメディアでも盛んに報じられていました

畜肉のこうした状況を受けて、代わりに存在感を増したのが大豆やエンドウ豆などの植物性原料から作られたプラントベースミートと呼ばれる代替肉でした。

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上のグラフはマーケットリサーチ会社のNielsenのデータをもとに、webメディアのフードダイブが作成したもので、20201月から20207月にかけての畜肉(左)と代替肉(右)の昨年比での売上の変化を示したものです。

これを見ると、コロナ禍によるロックダウンが本格化した3月には畜肉も前年比40%増と大きく売上を伸ばしましたが、代替肉は231%増という驚異的な伸び率を見せました。

代替肉そのものは、共に2011年創業のリーディングカンパニーであるビヨンド・ミート社、インポッシブル・フーズ社を中心にコロナ以前から販売がされていたものの、やはり多くの人に代替肉という食材の存在が認知されたきっかけは、コロナ禍であったと言えるでしょう。

コロナ禍といういわば非常事態が追い風となってその存在が知られることになった代替肉ですが、ワクチン接種が進んでいる欧米各国で少しずつ日常が取り戻され、それと同時に代替肉の目新しさも徐々に薄れているようです。

その存在がとりわけ珍しいものではなくなるなか、代替肉の市場は今後どのような展望を見せるのでしょうか。日常生活がノーマルに戻るにつれて、人々の"肉事情"もノーマルに戻るのでしょうか。

最近になって、代替肉業界の関係者や専門メディアの間では、こうした代替肉の今後をめぐる予測が盛んになりつつあります。以下では、そうした議論の現状について少しご紹介します。

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代替肉ブームの後、
プラントベースは生き残るのか?

結論から言えば、代替肉の市場シェアがこのまま順調に拡大するのかはまだ不透明というのが現状です。なぜなら、代替肉は物珍しさから買い求められているケースがまだ多いと考えられるためです。

少し前の調査ではありますが、201912月に米国で1000人を対象に行われた小規模なアンケートによると1000人のうち66%が日常的に肉類を食べていると回答し、さらに1000人のうち49%がプラントベースミートなどの代替肉を食べたことがあると回答しました。

代替肉を食べた動機については、「新しい食品を試すため」という回答が41%と最も多く、物珍しさから購買に繋がっているケースが多いことが明らかとなりました。ここで問題となるのが、コロナ禍が去り、代替肉の目新しさがなくなった後に代替肉の購買につながる要因は何かという点です。

一般的に代替肉は畜肉に比べて、環境への配慮と健康の2つの側面でより優れていると言われます。したがって、代替肉の今後のセールスポイントも主にこの2点であり、特に重要になるとされるのが"健康的な食品"としてのアピールです。

代替肉業界の関係者の間では、最近、各商品の栄養面での差別化がますます重要になるという論調が高まっています。その背景には、環境負荷の観点がブランドの差別化に結びつきにくいという事情もあるのかもしれません。

代替肉は環境配慮と健康面で強みを持っているわけですが、一般的に多くの消費者が最も重視する食味の観点では畜肉と大きな差がついているようです。

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上のグラフは米・カンザス州立大学の研究チームが2020年9月に米国で3000人を対象に行ったアンケート調査の結果の一部です。ここでは牛肉を使ったハンバーガーとプラントベースミートについて、味や価格など様々な項目で比較を行い、それぞれの項目で牛肉と代替肉のどちらが優れているかを示しています。

これによると、左端のTaste(味)やその右隣のPrice(価格)の項目では、牛肉が圧倒的に有利に認識されています。また、アンケート回答者の68%を占める日常的に畜肉を食べる消費者は、代替肉に比べて牛肉が多少高値であっても、食味の観点などから牛肉を選択することも明らかとなりました。

したがって、今後も多くの消費者は引き続き畜肉を主に消費し、菜食主義者やフレキシタリアン(日によって動物性食品を摂取しない食習慣をとる人々)など、健康や環境負荷に配慮する一部の消費者層が代替肉を買い求めるという構図になる可能性が高そうです。

そして、コロナ禍で生産キャパシティを増やした代替肉メーカー各社が商品の差別化に向けて、栄養面や健康面を重視した商品開発を進めれば、代替肉がさらにニッチな食品となる可能性もあります。これはいわば、「代替肉の健康食品化」と言えるかもしれません

一方で、1990年代後半以降に生まれた「Z世代」と呼ばれる、環境意識が高い世代の台頭によって、将来的に代替肉の置かれている状況は再び変化する可能性もあります。

ですので、今後の代替肉は健康に気を遣う層の取り込みを着実に図りながら、一方で将来的なシェアの拡大に向けて、美味しく、かつ買い求めやすい価格で提供できるように開発を進める必要があるでしょう。代替肉の普及に向けたハードルはまだまだ高そうです。

2021年78日執筆

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プロフィール
市村敏伸(いちむら・としのぶ)
1997年生まれ、一橋大学法学部卒業。大学在学中にライター活動を開始し、現在は北海道大学大学院農学院に在籍中。専門は農業政策の形成過程に関する研究。
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