2021年11月 1日

肉税の最新動向 IPCC報告書リークから見えること

「週刊エシカルフードニュース」担当 市村敏伸

エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が盛り上がっているのでしょうか。
一橋大学在学中で、佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは「肉税の最新動向 IPCC報告書リークから見えること」。ニュースのまとめ翻訳に興味がある方は、ぜひリンク先(※英語)をご覧ください。

重要報告書に明記なるか
レスミートによる気候変動対策

ここ数回、この連載では国連食料システムサミットに関係する話題を取り上げてきました。今年9月は世界の主要国が集まるG20の農業大臣会合があり、国連でも食料システムサミットがありと、農業・食料の分野で国際的な重要イベントが続いてきましたが、今月末からまたしても注目の国際会議がイギリスで開かれます。

イギリスのグラスゴーで1031日から1112日にかけて開催されるのが、COP26と呼ばれる国連気候変動枠組み条約の締結国による年に一度の国際会議です。日本から岸田総理大臣、アメリカからはバイデン大統領も参加する重要会合で、温室効果ガス削減目標のパリ協定の実現に向けたルールの整備などが話し合われます。

その一方、COPでの議論をはじめ世界の気候変動政策に大きな影響を与える重要な報告書の作成も現在進んでいます。

国連の組織として気候変動について最新の知見を集約する「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)6年から7年おきに、評価報告書と呼ばれる各国への政策提言などをまとめたレポートを作成します。現在作成が進んでいる第6次評価報告書は来年中に公表される見込みで、今後数年の気候変動対策のトレンドを占うものとしてその内容に注目が集まります。

COP26を間近に控え、気候変動問題への関心がより一層高まる今月22日、英メディア・BBCは作成を進むIPCCの第6次評価報告書草案の内容についてリーク文書をもとに報道

それによると、今回の評価報告書ではいよいよ、肉類の消費を抑制させる旨の提言が盛り込まれる方針であることが判明しました。今回のエシカルフードニュースではこのニュースを具体的に見ていきます。

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レスミートに向かう欧州
対抗する畜産大国

環境保護団体・グリーンピースがリークした文書を報じたBBCによると、IPCCの第6次評価報告書の草案は「西洋諸国における一般的な食事に比べて、プラントベースな食事は温室効果ガス排出を最大50%削減する可能性がある」と言及し、かつ「牛肉は炭素排出の多い食品である」とも言及しています。

また、肉類の消費抑制のために、赤肉(牛肉、豚肉など)への課税と、週に数日肉類を食べない日を設けるミートレスマンデーの取り組みにも言及しているとも報じられています。もし最終的な評価報告書にこれらが盛り込まれれば、肉類の消費のあり方を見直す重大な契機となるでしょう。

こうした草案での肉類への言及について、強く反発しているとされているのがブラジルとアルゼンチンです。同じくリークされた文書によると、この二カ国は肉類を摂る食生活でも温室効果ガス排出は減らせると主張し、草案の該当文言の修正または削除を働きかけているとされています。

ブラジルとアルゼンチンは、どちらも世界有数の牛肉輸出大国で、自国の産業保護のための働きかけを強めていることは明らかです。一方、政府が率先して肉類の消費抑制、いわゆるレスミートを推奨する動きも出ています。

特に、政府によってレスミートの目標が明確に示されているのがイギリスとEUです。2021年7月にイギリス政府が発表したナショナル・フード・ストラテジー(国家食料戦略)では10年以内に肉類の消費量を30%削減することが推奨されており、EUも2020年5月に発表したファーム・トゥ・フォーク戦略のなかで赤肉と加工肉の消費を控えるよう呼びかけています。

もっとも、イギリスやEUでの肉類の消費抑制の呼びかけは健康問題も大きな要因であり、純粋に環境問題が背景とは言えません。ですが、こうした牛肉生産が盛んな国はこうしたレスミートの動向を警戒していると見られ、ブラジルやアルゼンチンが主張するように「環境負荷を減らしながら肉類を生産することは十分可能だ」というレスミート反対論も強まっています。

レスミート反対論の代表的な見解は、肥育技術の向上や品種改良によって家畜1頭あたりからとれる肉量が増加しており、単位肉量あたりの温室効果ガス排出量は以前より減少しているというものです。アメリカの畜産業界を中心にこうした意見が強く主張されるようになっており、IPCCの報告書でのレスミートへの言及をめぐっては今後も駆け引きが続くことになりそうです。

機運高まる
ドイツでの肉税導入

ところで、仮にレスミートを政府が推奨することになった場合、具体的にはどのような手法が採られるのでしょうか。

その候補の一つが、先のリーク文書でも触れられている肉類への特別な課税、いわゆる肉税の導入です。この連載では以前からヨーロッパを中心に検討が進んでいる肉税についてご紹介してきました。

現在のところ、この肉税を実際に導入している例はありませんが、近い将来にこれを導入する可能性が最も高いとされている国がドイツです。

このドイツでの肉税の動向は今年3月に「『肉税』に賛成?反対? 欧州での議論を追う」で詳しくご紹介したところです。ドイツでは最近も、連邦政府の農業担当大臣が畜産物への課税について「共感している」と発言したり、肉税の議論を先導してきた緑の党が先日の総選挙で躍進したりと、肉税導入に向けた機運は高まっているようにも見えます。

しかし、直近の世論調査の結果を見ると、ドイツでも肉税への理解が社会全体に広く行き渡っているとは言えないことも明らかとなっています。

イギリスの調査会社・YouGovは今年8月に実施した世論調査で、肉類に対して新たな課税がされることに賛成か反対か、アンケートを実施。この結果、ドイツでは賛成が28%、反対が48%。イギリスでは賛成が19%、反対が55%。フランスでも賛成が14%、反対が59%と、どの国でも反対派が多数を占めることが明らかとなりました。

それでも、調査を実施したヨーロッパ7カ国のうち、ドイツだけは反対が50%を切っており、やはりドイツでは、比較的、肉税への理解が得られているというのは興味深い結果です。

レスミートが本格的な社会問題となるなか、肉税は果たして導入されるのか。議論が進むドイツでの動向に今後も注目です。

2021年10月27日執筆

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プロフィール
市村敏伸(いちむら・としのぶ)
株式会社グッドテーブルズ所属。生まれながらの食いしん坊で、佳い食あふれる世の中に寄与するためのアプローチを探求中。大学在学中は農業系学生団体に所属し、主に農業現場の課題のリサーチを行なってきた。食べることをこよなく愛し、一日3食の充実に執念を燃やす。
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