2021年8月 3日

代替肉のチキン戦争勃発? 世界の代替肉最新動向

北海道大学大学院 市村敏伸

エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が盛り上がっているのでしょうか。
一橋大学在学中で、佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは「代替肉のチキン戦争勃発? 世界の代替肉最新動向」。ニュースのまとめ翻訳に興味がある方は、ぜひリンク先(※英語)をご覧ください。

代替卵が日本でも販売開始!
世界の代替肉事情のいま

昨年から今年にかけて、日本のスーパーでも大手ハムメーカーなどが販売する代替肉商品を目にする機会が増え、代替肉を使ったバーガーを取り扱うファストフード店なども多くなってきました。

昨年12月に掲載した代替肉バーガー特集記事には今でも多くのアクセスを頂いており、「代替肉に興味がある方が増えてきていることを実感しています。日本ではプラントベースの動物性食品の代替品というと、ハンバーガーパテタイプのものが多くなっていますが、最近ではパテタイプ以外の注目の代替食品が日本でも販売されていることをご存知でしょうか?

その注目のジャンルとは、ズバリ、卵です。卵はこれまでも米国メーカーのイート・ジャスト社などが開発してきましたが、ついに日本メーカーも相次いでこの代替卵の販売をスタートしました。

今回、植物性の代替卵を開発したのは大手食品メーカーのキューピー。キューピーは大豆を原料にスクランブルエッグタイプの代替卵商品「ほぼたま」を開発し、今年6月から業務用に販売を開始しました

さらに、日本の有力代替肉メーカー・ネクストミーツ社も植物性の代替卵液の販売を近く業務用向けに開始する予定としています。このネクストミーツは、日本では珍しくチキンタイプの代替肉も販売しており、代替卵液の発表のプレスリリースでは、このチキンタイプの代替肉も使えば、「ヴィーガン親子丼」も調理可能とアピールされています。

日本では卵が代替食品の世界で話題になっている一方、世界、特にアメリカの代替食品の世界でホットなテーマとなっているのが、このチキンタイプの代替肉です。これまで代替肉の開発が進んでいなかったチキンタイプの分野に大手メーカーが相次いで参入しています。

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代替肉の"チキン戦争"

アメリカでは、ビヨンド・ミート、インポッシブル・フーズという代替肉業界のパイオニアである2社が、今年7月に相次いでチキンタイプの代替肉商品の販売を発表しました。

ビヨンド・ミートは7月から、チキンテンダー(細くスライスしたムネ肉のフライドチキン)タイプの商品を飲食店などで販売を開始すると発表。実は、同社は創業間もない2012年からチキンタイプの代替肉を販売していましたが、商品のクオリティ不足を理由に2019年に販売を中止していました。

新たな研究開発の末に今回の再販売となったわけですが、前回のチキンタイプでは原材料に大豆パウダーや小麦などを使用していたところ、今回は原材料にソラマメを使用するなど、大幅に改良を加えた商品となっています。

この新しくなったビヨンドミートのチキンタイプの代替肉、すでに米国内のレストランなどで販売が開始されており、日本にも展開している中華レストランチェーンのパンダエクスプレスではオレンジ風味の甘辛いタレとあわせたオレンジチキンとして提供されています

このビヨンド・ミートによるチキンタイプ代替肉の発表直後、同じく大手代替肉メーカーのインポッシブル・フーズも今秋からのチキンナゲットタイプの代替肉商品の販売計画を発表。同社の商品は肉汁感を再現するために人工的に合成したタンパク質「ヘム」を使用する特徴がありますが、今回のチキンナゲットタイプではヘムを使用せず、大豆をベースにひまわり油などを原材料に使用しています。

このチキンタイプの代替肉への相次ぐ参入は最近のアメリカでの鶏肉人気を反映したものと言えそうです。

近年、アメリカでは鶏肉の消費量の拡大が顕著になっており、牛肉、豚肉、鶏肉の消費量全体に占める鶏肉消費の割合をみると、1990年では39%だったのが、2020年では50%にまで伸びています。こうした鶏肉人気を背景に、アメリカではマクドナルド、バーガーキング、KFCをはじめ大手ファストフードチェーンが昨年から今年にかけて相次いでチキンバーガーの新メニューを発売しています。メディアではその模様が「チキンサンドイッチ戦争」(Chicken Sandwich Wars)などとも揶揄されており、代替肉の世界でも"チキン戦争"が勃発するのか、その動向に注目です。

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3Dプリント代替肉が商業化

最後に米国、日本以外での代替肉の注目動向についても見てみましょう。

今回取り上げるのはイスラエルからのニュースです。イスラエルはユダヤ教由来の動物愛護意識の高さから代替肉の研究開発が盛んで、完全菜食主義者であるヴィーガンの人口割合は世界一高いとも言われています。

そんなイスラエル、数多くの有力な代替肉や細胞培養肉のメーカーがひしめいていますが、なかでも3Dバイオプリンターで代替肉を生産しているのがRedefine Meat(リディファイン・ミート)社です。

同社は植物細胞を3Dプリントして生産した代替肉を昨年から国内のレストランなどで試供しながら商品のプラッシュアップを進め、いよいよ今年からイスラエル国内で本格的な業務用の商業展開をスタートさせます。

展開する商品はラムケバブ、牛挽肉、ソーセージなどをイメージした5種類。今後はヨーロッパにも販路を拡大させ、2022年中には米国とアジアでも販売が開始される予定とのこと。同社が今年1月に実施した肉類を消費する一般消費者向けのブラインドテイスティングでは90%以上の参加者から普通の肉と遜色ないとの評価を得たという結果もありますが、今後"3Dプリント肉"を社会がどう受け入れるのか、その行方が注目されます。

2021年730日執筆

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プロフィール
市村敏伸(いちむら・としのぶ)
1997年生まれ、一橋大学法学部卒業。大学在学中にライター活動を開始し、現在は北海道大学大学院農学院に在籍中。専門は農業政策の形成過程に関する研究。
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