2021年5月28日

レスミートを考える 前編「ヨーロッパがレスミートで目指す未来」

北海道大学大学院農学研究院准教授 小林国之

ヨーロッパでいま、「レスミート」が大きな食のトレンドとなっています。レスミートとは、文字通り、お肉の消費量を減らしていきましょうというもの。もともと、ヴィーガンやヴェジタリアンなどの菜食主義の食習慣もあるヨーロッパですが、いまやEUや英国政府などもレスミートを推進しており、お肉にまつわる問題意識は政策にも影響を与えつつあります。では、ヨーロッパはなぜレスミートにこだわるのか?そして、その動きは日本にも影響するのか?今回は、そんなレスミートに関する問題について、ヨーロッパのエシカル事情に詳しい北海道大学の小林国之先生にお話を伺います。

【聞き手:市村敏伸(エシカルはおいしい!! 編集部)】

アニマル・ウェルフェアと
アニマル・ライツは、どう違う?

ーー小林先生、前回のネオニコチノイド系農薬に続いて、今回のテーマは「レスミート」です。今回も、中学生にも分かるようにこのテーマについてのご解説、よろしくお願いします!

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png小林先生(以下、敬称略):そうだ、「中学生にも分かるように」でしたね(笑)。今回もなるべく分かりやすくお話しします。よろしく。

ーーまず、「レスミート」とは何か?という部分を簡単に教えてください。

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png小林:牛や豚などの家畜を屠殺して作られるお肉を「畜肉」と言いますが、レスミートはこの畜肉を食べる量を減らそうという流れのことを指しています。

この理由は後でお話しますが、最近ではEUなどヨーロッパの各国政府も、お肉に代わって野菜や豆類などを積極的に食べる食生活を推奨しています。

このレスミートの流れによって、畜肉にかわる"新たな肉"、いわゆる代替肉の開発もヨーロッパでは盛んです。日本でも目にすることが増えた大豆ミートなどのことですね。

ーーなぜ、ヨーロッパではレスミートが推し進められているのでしょうか?背景を教えてください。

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png小林:これにはいくつか要因があります。

まずは環境問題EU2008年に、1990年比で温室効果ガス排出量を20%削減する目標を掲げました。

畜産業は、牛の消化過程で発生するメタンなど多くの温室効果ガスの発生源となっていて、全排出量のうち約15%を占めると言われています。なので、環境対策として畜産業を抑制する方向となっています。

ただ、最も大きな要因は健康問題だと思います。牛肉や豚肉は食べ過ぎによる発ガン性リスクが指摘されています。ガンだけでなく、ヨーロッパで問題になっている高血圧、糖尿病、肥満などの健康問題も、お肉の食べ過ぎが原因のひとつと理解されています。

ある統計によると、現在のEUの一人当たり年間肉類消費量は約68kgで、日本が約33kgですから、日本のほぼ倍の量のお肉を食べていることになります(編集部註:農林水産省食料需給表より)。

ーー「動物が可哀想だから」というのは背景になっていないのでしょうか?

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png 小林:動物への配慮というのは背景のひとつだと思います。ただ、「動物が可哀想だから食べない」という話とは別の問題です。

動物への配慮と言っても、それは「家畜が苦しまないようにすること」への配慮であって、これは一般にアニマル・ウェルフェアと呼ばれるものです。一方で「動物の殺されない権利」を認める運動は、アニマル・ライツと呼ばれています。

ヨーロッパには長い畜産の歴史がありますし、キリスト教のカトリックでは、動物は人間のために存在しているという説が長らくとられてきました。ですので、アニマル・ライツは広い支持を得られていません。

重要なのはアニマル・ウェルフェアの方です。「お肉は食べる。でも動物が苦しまない工夫はしましょう」ということで、お肉を大量生産するための動物に負担がかかる飼育はやめようということですね。

ーーなるほど。レスミートが目指しているのは、「お肉を食べなくなる未来」ではなくて、お肉の適切な消費のあり方というわけですね。

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png 小林:そうですね。EUの政策や、そのベースになっている国連食糧農業機関(FAO)のレポートなどを見ても、「お肉を適切に食べましょう」と言っていて、決して「食べるな」とは書いてませんからね。

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レスミートで進む
畜産の「原点回帰」

ーーレスミートが目指す先が「お肉の適切な消費」だとすると、この動きは畜産業にどのような影響を与えるのでしょうか?

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png 小林:消費者の健康問題や環境問題、あとはアニマル・ウェルフェアへの関心に寄り添うために、飼育する牛などの頭数を減らしながら、持続可能な畜産業を目指すことになるでしょう。

例えば、家畜に与える飼料。ヨーロッパは現在、家畜飼料の穀物をブラジルなど外国から輸入していますが、なかには森林伐採された土地で生産されたものもあります。なので、輸入した穀物に依存せず、昔ながらの草地を利用した畜産に戻っていくと思います。家畜を使って草地を適切に維持・管理することは炭素を空気中に放出しないという意味でもとても大切なことです。

ーー輸入穀物が多くなかった時代は今ほどお肉を食べていなかったでしょうから、そうした環境重視の動きはレスミートの流れとも合致しますね。

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png 小林:ただ、草地重視などの伝統にただ回帰するだけではないとも思います。牛から出るメタンを抑える添加剤を開発したり、環境負荷が少ない品種を開発したりと、最新の科学技術を活かす部分も大きいでしょう。

なので、昔ながらの伝統的な畜産業と現代的な科学の知見をあわせたものが、これからのヨーロッパの畜産業となると考えています。

以前のネオニコチノイド系農薬の時にもお話しましたが、現在のヨーロッパでは持続可能な食料生産というのは大前提になっています。畜産業もこれに沿って発展していくということですね。

ーーなるほど。ヨーロッパがレスミートを通じて目指す未来についてはよく分かりました。ただ、実際に消費者はこの動きに対応できるのでしょうか?後編では、消費者の側からみたレスミート事情、さらにヨーロッパでの動きが日本に与える示唆について、小林先生に伺っていきます。

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プロフィール
小林国之(こばやし・くにゆき)
1975年北海道生まれ。北海道大学大学院農学研究科を修了の後、イギリス留学。助教を経て、2016年から現職。主な研究内容は、農村振興に関する社会経済的研究として、新たな農村振興のためのネットワーク組織や協同組合などの非営利組織、新規参入者や農業後継者が地域社会に与える影響など。また、ヨーロッパの酪農・生乳流通や食を巡る問題に詳しい。主著に『農協と加工資本 ジャガイモをめぐる攻防』日本経済評論社、2005、『北海道から農協改革を問う』筑波書房、2017などがある。
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