2021年6月 7日

レスミートを考える 後編「日本でレスミートは必要なのか?」

北海道大学大学院農学研究院准教授 小林国之

ヨーロッパでいま、「レスミート」が大きな食のトレンドとなっています。レスミートとは、文字通り、お肉の消費量を減らしていきましょうというもの。もともと、ヴィーガンやヴェジタリアンなどの菜食主義の食習慣もあるヨーロッパですが、いまやEUや英国政府などもレスミートを推進しており、お肉にまつわる問題意識は政策にも影響を与えつつあります。では、ヨーロッパはなぜレスミートにこだわるのか?そして、その動きは日本にも影響するのか?今回は、そんなレスミートに関する問題について、ヨーロッパのエシカル事情に詳しい北海道大学の小林国之先生にお話を伺います。

【聞き手:市村敏伸(エシカルはおいしい!! 編集部)】

持続可能な食のあり方は
"世界共通"ではない

ーー前編のお話を伺って、レスミートによってヨーロッパが目指している方向性はよく分かりました。でも、実際にお肉の消費を減らしていくとなると、食文化との兼ね合いも難しい問題になるように思います。

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png小林先生(以下、敬称略):そうかもしれませんね。とあるイギリスの大学では学食で肉類の提供をやめることになり、そのことで大きな議論になっていました。

ただ、安いお肉を大量に消費するという食生活はつい最近になって登場したもので、ヨーロッパでも本来の食文化ではありません。ですから、環境に負荷をかけてまで安いお肉をたくさん作って食べるというのを止めることは、むしろ本来の食文化のあり方を見直すきっかけにもなるように感じています。

ーー前編で、レスミートによって畜産業が原点回帰するというお話がありましたが、食文化も原点回帰するかもしれないということですか。

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png小林:そうなる可能性はありますね。

この意味で興味深いのが、EUのレスミート政策のもとにもなっているFAO(国連食糧農業機関)の指摘です。FAOはレポートのなかで、食生活はさまざまな社会文化的な要因によって形作られているということを前提に議論を展開しています。

つまり、性別や年齢、あるいは宗教、民族的な要因を踏まえながら、あるべき食のあり方ということを考えるということですね。

ーーたしかにレスミートを考えるにしても、その前提である食のあり方は、民族や地域、もっと言えば、ひとりひとり違いますよね。

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png小林:そう。なので、FAOが言っているのは、「何を食べるか」という問題は、民族はもちろん、所得をはじめとした様々な社会的要因によって、見え方が変わる。したがって、この答えは決して一様ではないということです。

FAOはこのことを、「パーソナル・フードシステム」という言葉でも説明していて、住んでいる地域や社会的な環境に応じて、ひとりひとりが「自分が何を食べるか」という問題と向き合うべきとしています。

ーーなるほど。「持続可能な食を目指す」と一口に言っても、具体的にどうやって実現するかは地域や人によって異なるというわけですね。

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png 小林:例えば、イタリアやスペインなど、地中海沿岸の地域には野菜やオリーブオイルを多用した地中海料理という伝統があります。なので、そういう地域では、お肉を食べ過ぎているからその量を減らして、菜食中心の地中海料理の食文化の伝統に立ち返るというのが、持続可能な食の実現に向けた答えとなるかもしれません。

ですが、それはたまたま、地中海料理の伝統があるイタリアやスペインがそうなのであって、世界中どこでもお肉の消費を減らすことが正解になるとは限りません。

日本でレスミートは必要か?
必要なのは「考えること」

ーーそう考えると、「欧米でレスミートが盛り上がっているから」といって、日本でレスミートが必要とは限らないということになりそうです。

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png 小林:最近、日本でも代替肉製品を見かけることが多くなりましたが、個人的には、日本で代替肉の議論をすることには疑問を感じています。

前編でも触れましたが、EUの一人当たり年間肉類消費量は日本の約2倍です。本来、代替肉というのはそういった肉類消費量が非常に多い人たち向けに、レスミートを進めるためのものであって、そこまでお肉を食べない日本人が今すぐに切り替える必要はないでしょう。

もちろん、世界的な食の動向を知るというのは大切ですが、お肉以外に改善すべき点が現在の日本の食にはたくさんあるように感じます。

ーー持続可能な食に向けて、日本ではレスミートよりも必要なことがあるということですね。具体的にはどのような問題でしょうか?

スクリーンショット 2021-03-22 15.28.59.png 小林:そうですね、例えば水産資源の問題でしょうか。乱獲による水産資源の減少が問題になっているなか、安い価格で大量に魚介類を消費している現状をどう変えていけばいいのか等の議論は、もっと日本で行われてもよいのではと思います。他にも、主食であるコメの消費減をはじめ、日本の食にまつわる論点が多くあります。

繰り返しになりますが、持続可能な食の実現方法は国や地域によって違います。

お肉の消費量が多いヨーロッパではレスミートがひとつの解となりましたが、同じ方程式が日本でも通用するとは限りません。日本は日本で「何をどう食べるべきか」を真剣に考えなくてはいけないのです。

もちろん、それを考えた結果、レスミートという結論が出てくる可能性もあります。日本は工業畜産大国アメリカの食肉業界の最大顧客ですからね。

日本の国土で暮らしていく上で、何を食べていくべきなのか。ヨーロッパのレスミート動向から得られる教訓は、この問いを考えることの大切さではないでしょうか。

ーー単純な欧米への追随ではなく、日本人の食の現状を踏まえて、持続可能な食に向けて必要なことを考えていかなくてはいけないですね。小林先生、今回もとても興味深いお話をありがとうございました。引き続き、ヨーロッパの食のキーワード解説、よろしくお願いします!

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プロフィール
小林国之(こばやし・くにゆき)
1975年北海道生まれ。北海道大学大学院農学研究科を修了の後、イギリス留学。助教を経て、2016年から現職。主な研究内容は、農村振興に関する社会経済的研究として、新たな農村振興のためのネットワーク組織や協同組合などの非営利組織、新規参入者や農業後継者が地域社会に与える影響など。また、ヨーロッパの酪農・生乳流通や食を巡る問題に詳しい。主著に『農協と加工資本 ジャガイモをめぐる攻防』日本経済評論社、2005、『北海道から農協改革を問う』筑波書房、2017などがある。
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