2020年9月 9日

食品ロス問題 世界のニュースから見える動き

「ワールド・エシカルフード・ニュース」担当 市村敏伸

エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が上がっているのでしょうか。
一橋大学在学中で、佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは「食品ロス問題 世界のニュースから見える動き」。近年、日本でも課題認識が広がりつつある食品ロスの問題ですが、なぜ食品ロスはそもそも問題なのか、そしていま世界ではどのような課題と対策が議論されているのか。その動向をお伝えします。
ニュースのまとめ翻訳に興味がある方は、ぜひリンク先(※英語)をご覧ください。

なぜ問題なのか?
食品ロスと気候変動

近年、日本でも恵方巻きの廃棄問題などを切り口に課題認識が広がりつつある食品ロスの問題。「エシカルはおいしい!!」では、好評の連載「はじめてのエシカルQ&A」で食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんが解説されている通り、世界では生産された食料の3分の1が廃棄されていると言われ、日本でも、都民の年間食事量とほぼ同じ量の643万トンが1年間で食品ロスとして廃棄されているのです。他国の食品ロスの現状に目を向けると、EUでは、農業の現場から家庭での廃棄まであらゆる段階での食品ロスを合計すると、その量は年間約9000万トンに上ると推計され、これは1人あたり年間173kgの食料を廃棄しているのと同じ計算です。

ところで、食品ロスはなぜ問題なのでしょう。
井出さんによると、食品ロスが世界でこれだけ発生している一方で、世界では8億もの人々が飢えや栄養不足に悩まされていると言います。そして、食品ロス問題は実は環境問題としての性格も持ちます。あらゆる食品は原材料となる農産物や水産資源、あるいは生産に必要なエネルギーなしには作ることができません。すなわち、食品を廃棄するということはそうした資源やエネルギーを浪費することにつながります。

食品ロスと環境問題との関連について、先日、国連環境計画(UNEP)から興味深い報告書が公表されました。各国政策担当者向けに公表された今回の報告書は、2015年締結のパリ協定に基づく各国の温室効果ガスの削減目標通知期限が今年迎えることを踏まえ、フードシステムの改革による気候変動対策の推進を提案するもの。それによると、地球上の温室効果ガス排出量のうち、9%は小売業者や消費者によって廃棄される食品に因るものと推計され、あらゆる食品ロスの削減で、陸上からの温室効果ガス排出は6%改善される余地があると指摘されています。こうした試算をもとに、UNEPは各国に対して気候変動対策として食品ロス問題に取り組むよう呼びかけており、削減目標通知を今後に控える各国の動向に注目が集まります。

食品ロス問題は倫理的課題であるだけでなく、深刻な環境問題でもあり、その対策に各国が連携して取り組まなくてはいけません。そして、いま世界ではどのような課題と対策が議論されているのでしょうか。世界各地のニュースから見えるその動向をお伝えします

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コロナ禍で食品ロスは
世界規模で深刻な問題に

2020年、世界を揺れ動かした新型コロナウィルスの感染拡大は、食品ロスの問題にも多大な影響をもたらしました。ロックダウン期間中、多くのレストランが閉鎖され外食産業から食材の需要が大幅に減少したアメリカでは、出荷先を失った農産物の廃棄が一時深刻な問題となりました。米紙・ニューヨークタイムズによると(リンク先有料記事)4月初旬の段階で全米では1日あたり1400万リットルの牛乳が廃棄され、ある食品加工工場では1週間で75万個の鶏卵が廃棄されるなど、コロナ禍による第一次産業の現場での食品廃棄が相次ぎました。

こうした食品廃棄が深刻な問題となる一方、アメリカではコロナ禍による失業で日々の食料の確保に苦しむ人々が増加していきます。失業者などに無料で食料を配布するフードバンクには人が殺到し、あるフードバンクでは食料を求めて2km近くにわたって車が渋滞するなど、各地のフードバンクの逼迫した様子が、ニューヨークタイムズをはじめ(リンク先有料記事)各メディアで連日報道されました。これを受けて、多くの農家が廃棄予定だった余剰農産物をフードバンクへ寄付しましたが、フードバンクには大量の生鮮食品を貯蔵するための冷蔵庫など設備が不足しており、結果的にフードバンクに寄付された農産物も廃棄される運命に。コロナ禍のアメリカでは大量の食品ロスが出る一方で、多くの人々が食糧難に陥るという、極めて矛盾した状況が広がりました

また、農産物の廃棄については、コロナ禍の現下に限らず一部で深刻な事態となっていることが報じられています。英紙・ガーディアンによると20167月から20196月にかけての三年間でイングランドおよびウェールズ地方だけで、3900万羽以上のブロイラー(食用若鶏)が病気への罹患などを理由に、屠畜場での受け入れを拒否されていたことが明らかとなりました。これは英国食品基準庁の統計から明らかになったもので、当該地域だけでも1日あたり35000羽以上が屠畜場での受け入れを拒否されている計算となります。高い病気の罹患率の背景には、筋肉の急速な成長による過剰な酸素要求などが指摘されており、専門家は「英国の家禽飼育において、劣悪な飼育環境が一般化していることが浮き彫りとなった」とコメント。

屠畜場での受け入れを拒否された鶏は食肉処理されておらず「食品ロス」には含まれないため、今回のイギリスでの問題は一般的な食品ロス問題とは性質が異なるものの、貴重な農産物が我々の口に届くことなく廃棄されている観点からは倫理的にも環境的にも深刻な問題であることに変わりなく、家庭や小売店頭で発生する食品ロスだけでなく、こうした農産物の問題にも目を向けることが必要です。

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世界で進む対策
その最新動向

農産物から、家庭やスーパーなどの店頭での食品廃棄まで、サプライチェーンのあらゆる分野において対策が必要となる食品ロス問題。世界ではいま、どのような取り組みが進んでいるのでしょうか。

以前、本連載でもお伝えした、農場(ファーム)から食卓(フォーク)まで"Farm to Fork"政策(通称、F2F)による包括的なフードシステム改革を進めるEUは、加盟各国に対してサプライチェーンの各段階で発生するロスのモニタリングと改善策の実施を呼びかけています。また、2023年までには法的拘束力のある削減目標も定められ消費者にわかりやすい消費期限や賞味期限の表示基準が今後作成される見通しです。

国際的な大企業による食品ロス削減に向けた連携も進んでいます。70カ国400社以上の食品メーカーや小売企業で構成される国際団体「The Consumer Goods Forum」(CGF)は、今年8月、食品ロス削減に向けたプロジェクト「Coalition of Action on Food Waste」の立ち上げを発表。プロジェクトには、ネスレやケロッグなどの世界的な食品関連企業14社が参加し、各企業のサプライチェーンで発生する食品ロスを調査、および2030年までを期限とする削減目標に取り組むとしています。CGFは、農産物の認証制度GAPの国際的な管理枠組みであるGFSIの運営でも知られており、日本からもイオンやローソンなどが参加する同団体が、食品ロス分野でも国際的なリーダーシップを発揮できるか注目が集まります

大企業による国際的な連携の一方で、それぞれの企業による独自の食品ロス削減に向けた取り組みも進んでいます。イギリスのベーカリーチェーン「Gail's」は、店頭で売れ残ったパンを分解し、再度焼成させた「Waste bread」を発売。同チェーンでは他にも、売れ残りのバゲットをクルトンにして再度販売するなど、食品ロス削減の取り組みを進めており、将来的には「パンの廃棄ゼロを目指したい」としています。
また、ベルギーとフランスの共同研究チームは、パッケージを開けずに食物が腐敗しているかを判別する装置を開発。家庭からのフードロス削減には各家庭で適切に食物の腐敗の度合を判断することが必要で、この装置ではシリコンセンサーを使って、食べ物が腐敗する際に発生する揮発性の化合物を検知し、パッケージを開封せずとも腐敗しているか判別が可能となります。実用化にはさらなる研究が必要で、研究チームは今後5年以内での一般販売を目指すとしています。

倫理的な問題にとどまらず、近年進行する気候変動との関連も強く指摘される食品ロス問題。コロナ禍によって多くの人々がその深刻さを実感し、農産物から家庭での食品廃棄に至るまで様々な場面で食品ロスが発生するなか、求められるのは政府から一般企業、そして消費者に至るまで、様々なレベルでの多様な対策に他なりません。食品ロスの実態を適切に把握し、それぞれが可能な範囲から対策を進めることが食品ロス対策の第一歩となるでしょう。

2020年97日執筆

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プロフィール
市村敏伸(いちむら・としのぶ)
一橋大学法学部在学中。生まれながらの食いしん坊で、佳い食あふれる世の中に寄与するための行政的アプローチに関心を持つ。大学在学中はこれまで農業系学生団体に所属し、主に農業現場の課題のリサーチを行なってきた。食べることをこよなく愛し、一日3食の充実に執念を燃やす。
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