2022年5月10日

お菓子づくりからエシカルな買い物を考える 後編「エシカルなチョコレートってなに?」

株式会社グッドテーブルズ 井上真貴

食べることが楽しい「今日」をつくり、食べたいものがあたりまえに食べられる「明日」をむかえるために。日々の生活の中でできるちょっとした工夫を紹介します。

各社が独自の取り組み
チョコレートのエシカルな調達

前編では乳製品と砂糖について、エシカルに買い物をするために必要なことを考えました。後編では、チョコレートについて考えてみましょう。

チョコレートについては、明治、森永製菓、ロッテの大手3社を考えてみます。

チョコレートの主原料はカカオですが、ロッテなどはチョコレート製品にパーム油(アブラヤシからとれる油)を使用しており、今回はカカオとパーム油の調達状況について整理します。

カカオの持続可能な調達といえば、有名なのはフェアトレード・インターナショナルによる認証マークの取得です。しかし、日本の大手3社はそれとは異なる独自の取り組みを行っています。

明治は、メイジ・カカオ・サポートという取り組みを行っています。

おいしいチョコレートをつくるためには、高品質なカカオ豆の安定供給が必要です。そのために、明治が独自にカカオ農家やそのコミュニティーの生活を支援しています。具体的には、井戸や学校備品の寄贈などに取り組んでいます。

さらに、明治は森林保全活動の一環としてアグロフォレストリーミルクチョコの販売をしています。

アグロフォレストリーとは、農作物と一緒に自然の生態系に適した樹木を育てる農法です。農地拡大のための森林伐採が問題となっていますが、アグロフォレストリー農法では、森林をつくりながら作物を栽培することができます。アグロフォレストリーミルクチョコでは、この農法で育てられたカカオ豆が使用されています。

また、明治は、NPOInternational Cocoa Initiativeにも、2021年10月に加盟しました。これは2002年に設立されたNPOで、西アフリカのカカオ産地で児童労働撲滅のための活動を推進しています。

こうした活動の結果、明治は2020年度に調達したカカオ豆の約40%がサステナブルカカオとなりました。また、今後の目標として、サステナブルカカオ豆の調達比率を2023年度までに65%以上、2026年度までに100%にすることが掲げられています。

森永製菓は、1チョコ for 1スマイルという活動を行っています。カカオ生産国の子どもたちの教育環境整備を支援する活動です。年間を通して行う寄付に加え、特別月間に森永チョコレートの対象商品(「ダース」等)の売上1個につき1円を寄付します。

この1チョコ for 1スマイルで、2021年9月2日から10月9日の特別月間には、2千万円以上の寄付金が集まりました。さらに、2008年の開始からの寄付金総額は約2億7千万円に達しています。

また、森永製菓はココアホライズン認証カカオの使用を2020年度より一部で開始しました。ココアホライズンは、カカオ生産者の生活を改善し、子どもと自然を保護するプログラムで、スイスのチョコレートメーカーであるバリーカレボー社が設立したNPO・ココアホライズン財団が運営しています。

ロッテも、Fair Cacao Project(フェアカカオプロジェクト)という、独自の持続可能な調達活動を行っています。

このプロジェクトでは、購入するカカオ豆の生産地域を指定し、そこからの調達分には、「フェアカカオ」として一定の割増金(プレミアム)を上乗せして支払います。そして、その割増金は、地域における児童労働のモニタリングなどに使用されています。このプロジェクトでは、地域ごとに異なる課題について、その地域に合った支援を行うことが目指されています。

こうした活動の結果、ロッテは2020年度に、調達するカカオ豆の11%をフェアカカオに切り替えました。今後は、2023年度までに調達に占めるフェアカカオの割合を20%以上にし、2028年度までには50%以上にすることを目標としています。

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エシカルなパーム油に不可欠な
RSPO認証とは?

最後に、チョコレートの原材料であるパーム油についても、少し確認してみましょう。

持続可能なパーム油の調達では、RSPO認証と呼ばれる認証制度の利用が重要となります。明治、森永製菓、ロッテの日本の大手3社も、RSPO認証を取得したパーム油の調達拡大を目指しています。

このRSPO認証とは一体どのようなものなのでしょうか。

そもそも、アブラヤシからとれるパーム油は、食用油だけではなく、生活用品としても使用される安価な油です。そのため、私たちの生活に欠かせないものとなっていますが、アブラヤシの生産地拡大のために、熱帯雨林が破壊されていることが問題となっています。さらに、児童労働や低賃金労働などの劣悪な労働環境もパーム油の生産では問題視されています。

そこで、RSPO認証では、人にも環境にも優しくパーム油を使い続ける方法が示されています。

少し細かい話になりますが、RSPO認証には4種類あります。アイデンティティ・プリザーブド(ldentity Preserved:IP)、セグリゲーション(Segregation:SG)、マス・バランス(Mass Balance:MB)、ブック・アンド・クレーム(Book& Claim:B&C)の4つです。

IP認証は、単独の認証農園で生産・搾油された認証油を使っていることを示します。他のパーム油とは完全にわけられて、製造・加工・流通し、最終製品製造者まで受け渡されます。そのため認証油を生産した農園を特定することができます。

SG認証は、複数の認証農園で生産・搾油された認証油を使っていることを示します。認証油が最終製品製造者に至るまで、非認証油とは混ぜ合わされることはありません。生産農園を1つに特定できないことがIPと違う点です。

MB認証では、製造過程で認証油と非認証油が混合されています。そのため、購入したパーム油に含まれる認証油の数量が保証されています。

最後のBC認証は、生産者を金銭的に支援していることを保証するクレジットモデルです。上記3つの認証モデルとは異なり、非認証油を使用していますが、RSPOクレジットを購入することで、生産者の支援を行います。

なお、これら4つの認証の中でも、最も好ましいとされるのはトレーサビリティがはっきりしている、IP認証とSG認証です。

このように、一つ一つの材料の背景を考えることが、エシカルな食材調達への第一歩です。今回は食材調達をメインで取り上げましたが、地球温暖化防止や食品ロス削減の取り組みなど、企業ごとに多様な活動が行われています。エシカルな取り組みの中から何を一番重視するかは、過去の記事、『何をすれば「エシカル」?』 にあるように、最終的には自分次第であり、多様な考えを理解することが大切です。そして、『今日は「良い選択」ができた』という達成感が暮らしをちょっぴり楽しくするはずです。

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プロフィール
井上真貴(いのうえ・まき)
慶應義塾大学在学中。おいしいもの食べることが生きがいで、持続可能な食料システムの実現に関心を持っている。慶応大の学生と株式会社SEE THE SUNとのプロジェクトにも取り組んでいる。
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