国内外のエシカルな食に関する話題は取り上げられることが多いですが、では、実際に我々・消費者は生活のなかでどのようなポイントを意識すれば"エシカル"になるのでしょうか?そんな常の食生活のなかでも意識できるエシカルについて、食品ロスジャーナリスト・井出留美さんに教えて頂きます。今回のテーマは「お肉の食品ロス」です。
分厚い豚肉は規格外?
お肉の源を考える
2021年2月23日に放送された、テレビ東京系「ガイアの夜明け」に出演しました。
この出演に際してのオンラインでの打ち合わせで「一次産品のロスは政府の食品ロスの推計値にカウントされていないんです」とお話したところ、スタッフの方は大変驚かれていました。そこで、番組の企画は「一次生産品の食品ロス」ということに決まりました。
番組の中で取り上げた食材の一つが、豚肉です。豚肉は、養豚場から出荷する際、業界団体が定める格付けがあり、これで売買価格が決まるそうです。格付けの決め手は、背脂肪(脂身の厚さ)や、肉質の締まり具合などです。
神奈川県のある養豚場では、300頭の豚を飼っています。ここでは、乳酸菌で発酵させた野菜を飼料にすることで、豚肉の脂に甘みを出し、おいしい肉に仕上げています。でも、一般的な豚肉の背脂の厚みが1.5センチなのに対し、ここの豚は2.5センチと分厚い。なので、店頭に出す前に、脂身を切り落とす手間が増えるため「規格外」とされ、値付けが下がってしまう、というのです。
これと同じような話を、「ターブルオギノ」の荻野伸也さんからも伺いました。豚肉用の豚は、基準体重が決まっていて、それより重い豚や軽い豚は値付けが下がってしまうというのです。たとえば、暑くて水ばっかり飲んでいて体重が増えてしまった「水豚」や、ご飯を食べずに痩せ細って、大きく育たなかった豚などがこれにあたります。
荻野さんは、そうした格付けが落ちてしまう豚のお肉を「加工してもらえないか」と頼まれました。そこで、それらの豚肉を仕入れて、ハムやソーセージ、パテなどのシャルキュトリーに加工して販売しています。
ブランド名は「ターブルオギノ」。日本全国の農家さんから、規格外品を集めて商品化し、お客様においしく食べてもらうことをコンセプトに掲げていらっしゃいます。ターブルオギノは、2012年から始めて、もう10年になる根強い人気を持つブランドです。
「規格外」というと野菜のイメージがありますが、野菜だけでなく、肉や魚、果物にも「規格」があります。荻野さんは、肉だけでなく、野菜や魚の規格外品も仕入れて、おいしい料理にして提供しています。
しかし、日本全国すべてのシェフが荻野さんのような取り組みをしているわけではありません。手間をかけてもそれに見合う儲けが少ないという理由で、料理に変えられることなく処分される肉もあるでしょう。
前述の養豚場の方は「はっきり言ってしまえば、肉屋さんの都合。肉屋さんが使いやすい肉を生産者に求めている」と話していました。どの養豚場の豚と比べても味は良いのに、肉屋の都合による規格があるがために、評価されないというのです。
どうすれば、規格外の美味しい一次生産品を活かすことができるのでしょう?
まずは、売り手の都合ではなく、生産者や食べる人のことを優先する、ということが大切ではないでしょうか。そうすれば、規格にかなったものが必ずしも良いものとは限らないことになります。
そして、生き物の命を考える。このことを特に大切にしなくてはいけません。
イタリアで250年以上続く有名なお肉屋を経営しているダリオ・チェッキーニさんという方がいらっしゃいます。ダリオさんは肉屋に併設してレストラン『オッフィチーナ』も経営されていて、Netflixの番組に出演もされています。この番組のなかで、屠畜場を訪れたダリオさんが屠殺される豚を見て涙を流す姿が印象的でした。
ダリオさんは、師匠からこう教えられたそうです。
「おまえが扱うのは命だ」
豚肉は、ただのモノではなく、命なのだ、ということです。
人間にもさまざまな身長や体重の人がいるように、豚にもさまざまなサイズがあるのは当然のこと。生き物や農産物は、規格通りに育つわけではありません。いま一度、規格そのものが何のために存在するのか、誰のためなのか、見直すべきではないでしょうか。
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