
国内外のエシカルな食に関する話題は取り上げられることが多いですが、では、実際に我々・消費者は生活のなかでどのようなポイントを意識すれば"エシカル"になるのでしょうか?そんな常の食生活のなかでも意識できるエシカルについて、食品ロスジャーナリスト・井出留美さんに教えて頂きます。今回のテーマは「缶詰の賞味期限って何で決まってる?意外と知らない缶詰のこと」です。
缶詰の賞味期限は何が基準?
食品ロス対策になる缶詰技術
先日、NHKの番組を見ていたら、昭和19年(1944年)に製造された赤飯の缶詰が2015年に香川県の蔵で発見されたと紹介していました。
この話題は以前に別の番組でも取り上げられていたのですが、この缶詰の菌検査をおこなったところ、なんと菌が検出されなかったというのです。71年前に作られた缶詰なのに!
食品の保存に詳しい、東京農業大学客員教授の徳江千代子先生によれば、缶詰の中身の食品の品質が保たれる期間は非常に長く、味の濃いものや果物のシロップ漬けなら15年も持つとのことでした。
でも、一般的に缶詰の賞味期限は3年間に設定されています。なぜなら、缶そのものの品質の保持期限が3年間だからです。缶詰の中身は真空調理していますので、外から危害が加わらない限り、実際には賞味期限の期間以上に長く持つのです。
ツナ缶の製造工場の社員によれば、ツナ缶は作り立てだと味がしみておらず、製造してから半年以上経った方がおいしいそうです。なので、社員の皆さんは賞味期限ギリギリのものや、賞味期限が切れたものをあえて選ぶのだとか。面白いですよね。
缶詰に限りませんが、「賞味期限」はおいしさの目安に過ぎません。賞味期限を過ぎたとしても、直射日光を避け、高温高湿の場所を避けるなどして適切に保管していれば、たいていの場合は食べられます。デンマークでは「賞味期限が過ぎてもたいていの場合は飲食可能」の旨の表示を牛乳などの食品に入れる等のさまざまな取り組みをおこない、5年間で25%も食品ロスを減らしています。
日本でも、食品を缶詰にすることで賞味期限が長くなる性質を利用して、食品ロスを減らす取り組みをしている企業があります。
京都に拠点を置くカンブライトは、規格外の農産物や魚介類などを缶詰にすることで、食品ロスの廃棄を防ぐ取り組みをしています。代表取締役の井上和馬さんのもとには、食材を無駄なく活かしたい思いを持つ方から、さまざまな相談が舞い込むそうです。
私も以前、カンブライトの明石のタコを使ったタコ飯の缶詰づくり体験に参加したことがあります。確かに、規格外の農水産物を活用することができる上に、数年単位で保存ができるとなれば、缶詰の製造技術は食品ロス対策にうってつけです。
世界に貢献する
日本の缶詰技術
食品ロス対策以外でも缶詰で社会に貢献している企業があります。
栃木県那須塩原市にある、パン・アキモトという会社は、1995年の阪神淡路大震災がきっかけでパンの缶詰を開発することになりました。
現社長の秋元義彦さんは震災の被害の光景に衝撃を受け、2日後にはトラックでたくさんのパンを運びました。しかし、数日後、現地からこんな連絡を受けたそうです。
「おいしいパンをありがとう。でも半分以上、捨ててしまったんだ」
その後の被災地からの連絡でも、「乾パンのように保存性があり、やわらかいパンはありませんか」と聞かれたそうです。そこから、秋元さんはパンの缶詰づくりを始めました。
長い試行錯誤の末、パンの缶詰が完成しました。賞味期限は37ヶ月。製造から2年以上経っても、ふわふわのままです。これなら、咀嚼ができず乾パンを食べることが難しい、高齢者や幼いこどもでも食べることができますね。
さらに秋元さんは、2004年のインドネシア・スマトラ島沖地震の際に、知り合いから「パンの缶詰を送ってほしい」と言われ、あるプロジェクトを思いつきます。
それは、パンの缶詰を災害時などに備えて備蓄しており賞味期限が切れるタイミングで新しい缶詰に買い替える予定のお客様から、賞味期限が切れる半年前に、備蓄されていた缶詰を回収。そして、賞味期限まであと半年の回収した缶詰を、世界中の紛争地帯や国内の被災地に届けるという仕組み。名付けて「救缶鳥(きゅうかんちょう)プロジェクト」です。
2009年9月9日、救缶鳥プロジェクトは本格的に動き出しました。
缶詰を提供してくれるお客さまの中には、企業や個人のほか、学校もあります。ある高校では、缶詰のメッセージ欄にメッセージを書き、それが海外の生活に苦しむ人々に届けられました。経済的に厳しい地域では、パンを食べた後の空き缶は、食器や容器として使うことができ喜ばれています。
こうした活用ができるのも、食品を長期間保存できる缶詰の製造技術があってこそですね。
冒頭に紹介したNHKの番組では、缶詰会社の経営者で政治家として外交にも大きく貢献した高崎達之助氏の言葉が紹介されました。
「缶詰は中身の見えないもの。それに携わる技術者は正直な、誠意のある人間でなければならない」
缶詰から世界に貢献するパン・アキモトの取り組みは、『世界を救うパンの缶詰』(菅聖子・やましたこうへい, ほるぷ出版)でも詳しく紹介されています。ぜひ手にとってご覧ください。
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