
国内外のエシカルな食に関する話題は取り上げられることが多いですが、では、実際に我々・消費者は生活のなかでどのようなポイントを意識すれば"エシカル"になるのでしょうか?そんな常の食生活のなかでも意識できるエシカルについて、食品ロスジャーナリスト・井出留美さんに教えて頂きます。今回のテーマは「労働時間の75%は『捨てる作業』!? 真っ赤なリンゴの見えないコストを考えよう」です。
りんごをキレイにする作業
本当に必要なもの?
先日、テレビ東京が主催した「未来を変える高校生 日本一決定戦」の一次予選の審査員として参加しました。これは全国の高校生が参加した、「食」をテーマにしたプレゼンコンテストで、食品ロスをテーマにしたものも多数ありました。
テレビ局のスタジオでプレゼンテーションできるところまで残った4チームの中に、青森県の「無袋(むたい)リンゴ」をテーマにしたチームがありました。日本の多くのリンゴ栽培では、「有袋(ゆうたい)リンゴ」が一般的です。袋がけをして害虫から実を守り、かつ、見栄えを良くするのです。
ですが、実は、袋をかけない方が太陽の光を直接浴びるので、蜜が多く甘くなる。だからこそ「もっと無袋リンゴの良さを広めていきたい!」という内容でした。確かに、リンゴ農家さんが袋がけする手間や労力は相当なもので、無袋リンゴは、労働生産性の向上にもつながります。
日本のリンゴ農家には「葉とり」といって、葉っぱをとる作業があります。葉っぱをとることで、実の部分が太陽にむらなく当たり、まんべんなく、真っ赤に実るというわけです。でも、葉っぱをつけておくことで、育てる地域によっては、むしろ甘味が増すという調査結果も報告されています。
青森県弘前市にある、日本で最も古いリンゴ園「もりやま園」では、かつて、労働時間の75%以上を「捨てる作業」に使っていたそうです。
「75%の時間を使って捨てている」なんて、かなり衝撃ですよね。その「捨てる作業」とは主に3つ。「葉とり」のほかに、一部の果実に養分を集中させるために果実を間引く作業の「摘果(てきか)」、そして果実の収穫が終わった後に行う「枝の剪定」です。
しかし、海外のリンゴ農家を見てみると、誰も葉とりはやっていません。そこで、もりやま園では葉とりを止めました。
もりやま園では、他にもさまざまな改革に取り組んでいます。摘果で捨てられていた果実を活かし、世界初の摘果シードル「テキカカシードル」を3年がかりで商品化しました。
もりやま園代表の森山聡彦(としひこ)さんによると、摘果した果実は、通常のリンゴに比べて、抗酸化作用のあるポリフェノールが約10倍多く、酸味があるため、商品化には苦労されたそうです。
そうした苦労を経て商品化したテキカカシードルは、さまざまな賞を受賞し、全国のいくつもの店で採用されるに至りました。
もとはといえば、リンゴを大きく実らせるための「摘果」であり、色ムラなく真っ赤に実らせるための「葉とり」です。でも、リンゴはそんなに大きく実らせ、色むらなく真っ赤にする必要があるのでしょうか。
最近、日本への輸出量を伸ばしている海外のリンゴに、ニュージーランドの「JAZZ™」(ジャズ)というブランドがあります。甘酸っぱく、噛めばサクっとして噛みごたえがあり、一人でも食べやすい大きさです。
日本のリンゴより小ぶりで、葉とりもしていないので色ムラはありますが、味の良さや、ちょうどいいサイズ感で人気を博し、今では春から夏にかけて、うちの近所のスーパーではどこでも置かれるようになりました。私もJAZZ™が出回る時期を毎年楽しみにしています。
日本の産業の中でも、農業の労働生産性は、ほぼ最下位。森山さんは、現状を変えるべく、農業の労働生産性向上に力を注いでいます。農業だけでなく、日本全体の時間あたりの労働生産性は、G7(先進7カ国)において、1970年から50年以上、最下位です。この現状を認識して深刻にとらえ、変えようとしている人がどれだけいるでしょうか。
私たちは、食べ物の見た目の良さや、大きさがそろっていることに目を向けがちです。でも、今は、食べ物も、人の働き方も持続可能性が問われる時代。食べ物の見た目の良さや規格の裏側にある労働生産性や廃棄の問題に、もっと目を向ける必要があるのではないでしょうか。
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