
皆さんはスーパーなどで卵を買うときに何を基準に商品を選んでいらっしゃるでしょうか?最近では「平飼い卵」とパッケージに書かれた商品も多くのスーパーで目にするようになり、「平飼い卵を選んで買っている!」という方もいらっしゃるかもしれません。
でも、「平飼いって普通の卵と何が違うの?」と聞かれると、うまく答えられないという方もいらっしゃることでしょう。そこで今回は、普段買っている卵の"裏側"の鶏の飼育環境のトピックについて、アメリカを中心に採卵鶏の飼育環境改善のための取り組みをされている、「ザ・ヒューメイン・リーグ・ジャパン」の上原まほさんにお話を伺います!
【聞き手:市村敏伸(エシカルはおいしい!! 編集部)】
鶏の習性って何?
日本のケージ飼いの現状とは
ーー今回は、「ザ・ヒューメイン・リーグ・ジャパン」代表の上原まほさんに、卵と鶏の飼育環境の問題についてお話を伺います。上原さん、まずは「ザ・ヒューメイン・リーグ」の活動について簡単に教えて頂けますか?
上原さん(以下、敬称略):ザ・ヒューメイン・リーグは2005年にアメリカで発足した、アニマル・ウェルフェア(家畜福祉)を広める活動を行う団体です。なかでも、卵用に飼育されている鶏(採卵鶏)の飼育環境改善に向けた、鶏卵を調達する大企業への働きかけを中心的な活動としています。
ーーありがとうございます。おそらく多くの人は実際に鶏を飼ったことがないと思うのですが、鶏のアニマル・ウェルフェアのためには、具体的にどのような環境が必要なのでしょうか?
上原:そうですね。まずは鶏の一般的な習性についてお話しましょう。
一般的に鶏は1日の活動時間の75%を地面を突くことに費やし、寝るときには地面から少し高いところにある止まり木で休み、外敵から身を守る習性を持っています。
また、砂浴びと呼ばれる習性を持つことも有名です。砂浴びとは、鶏が地面の砂に羽をこすりつけることで羽についている寄生虫などを落とし、体を清潔に保つための行動。これも鶏にとっては欠かせない行動の1つです。
さらに、雌鶏(めんどり)が卵を産む環境にも特徴があります。鶏は卵を産む際に周囲から閉ざされた環境を好み、安静な場所で産卵をします。この他にも、他の鶏と友情関係を築くことができたり、仲間のなかで序列付けをしたりする特徴を鶏は持っています。
ーーということは、鶏の習性にあわせて止まり木を作ってあげたり、砂浴びの環境を整えてあげたりすることが重要だと。
上原:その通りです。ただ、残念なことに現在の日本で一般的な採卵鶏の飼育環境はこうした配慮に沿ったものではありません。
現在、日本の採卵鶏の飼育環境として一般的なのはバタリーケージと呼ばれる方式です。この方式では、鶏を収容した小さなケージを積み上げて飼育が行われます。
400㎠ほどの1つのケージの中に2羽の鶏が収容されることが多く、高さも40cm以上45cm未満ほどしか確保されていないケージが一般的。1羽に与えられる飼育面積は、B5用紙1枚にも至らないことが多いのです。
このような飼育環境では地面を突いたり、砂浴びをしたり、止まり木で寝たりすることはできません。また、産卵のための安静な環境を確保できない場合も多く、狭い環境に複数の鶏を入れるため、鶏同士の力関係への配慮がないことも問題とされています。
ーーなるほど。だからこそ、飼育環境の改善が必要とされているのですね。
実はこれも「平飼い」!?
エイビアリーについて知ろう
ーー日本で一般的なバタリーケージは問題だとして、採卵鶏の飼育環境には他にどのような種類があるのでしょう?
上原:まず、ケージのなかに鶏を収容するかどうかで分けることができます。
さらにケージ飼いでも大きく2つの種類があって、1つは日本で一般的なバタリーケージ。もう1つはエンリッチドケージと呼ばれるものです。
「エンリッチド」とは"改良された"という意味で、バタリーケージに比べればスペースが広く、止まり木なども設置されているケージのことを指します。
もちろん、エンリッチドの方が多少は広くなっているのですが、これもケージのなかで鶏の行動を制限していることに変わりはありません。なので、我々はケージフリー、つまりケージ飼いではない採卵鶏の飼育環境の普及のために活動しています。
ーーケージフリーというのは、いわゆる"平飼い"のことでしょうか?
上原:正確に言うと「放牧」もケージフリーに含まれますが、数は少ないです。そのため、「ケージフリー=平飼い」となってしまっています。ですが、ここには一般的にイメージされている"平飼い"以外の飼育環境も含まれているんです。
「平飼い」という言葉を文字通りに理解すれば「平らな地面で鶏を飼育すること」になりますよね。つまり、この下の写真にあるような環境です。このように平たい地面で、管理がしっかり整っていることが理想の飼育環境と言えます。
しかし、実は「平飼い卵」として販売されている鶏卵には、「エイビアリー」と呼ばれる飼育環境で育てられた鶏の卵も含まれています。
ーー「エイビアリー」ですか。あまり聞き慣れない言葉ですね。
上原:そうですよね。でも、現在は「平飼い」のなかにエイビアリーも含まれているので、 読者の皆さんにもぜひエイビアリーのことを知って頂きたいです。
エイビアリーとは、下の写真のような多段的な環境で鶏を飼育することです。一見すると、人工的な環境でアニマル・ウェルフェアへの配慮が足りないような気がするかもしれませんが、これも立派なケージフリーです。
ーーたしかに、平地で鶏を飼っている方が自然な印象は受けますね。
上原:そうですね。ただ、大量に鶏卵を使用する企業としては、エイビアリーでないと鶏の羽数が担保できないですし、エイビアリーには"エイビアリーならでは"の特長もあります。
それは、高い所で休むことを好む鶏に、垂直運動ができる環境を確保してあげられるという点です。エイビアリーだと、色々な環境が同じ鶏舎のなかにあって、鶏の行動の多様性を保つことができるのです。
あとは、エイビアリーに砂浴びができる環境をつけてあげ、飼育密度に配慮してあげると鶏にとってはより良い環境になるのではと思います。
ちなみに、下の写真の鶏舎は、ウィンターガーデンやベランダと呼ばれる庭がついたエイビアリーですね。
ーーなるほど!エイビアリーでもアニマル・ウェルフェアは実現できるのですね。エイビアリーや平地で育った鶏の卵というのは一般的に販売されているのでしょうか?
上原:そうですね。最近、大手スーパーでは平飼いの卵の取り扱いが増えていますので、一般の方々もお買い求め頂けると思います。特に、エイビアリーは飼育できる羽数も多いので、これからはエイビアリーの卵が増えてくるのではないかと思います。ちなみに、エイビアリーの場合、「平飼い(エイビアリー)」とパッケージに表記されています。
ただ、エイビアリーには注意が必要な部分もあります。
それは、エイビアリーでも、ケージの扉を閉めることによってエンリッチドケージになってしまうものがあるという点です。これはコンビやハイブリッドと呼ばれているタイプで、EUなどではケージフリーとして認められていないのですが、日本ではこれでもケージフリーとして販売されてしまっています。
いま、世界では鶏卵の調達にあたりケージフリーであることを条件とする「ケージフリー宣言」をする企業が増えていて、ネスレなどのグローバル企業でケージフリー宣言を出した企業は100を超えました。
さらに、EUは2027年までに全ての家畜でケージ飼いを廃止する方針を打ち出しており、日本もこのような世界的な潮流への対応を進めなくてはいけません。
ーー日本でケージフリーが広まっていく兆しのようなものは感じていらっしゃいますか?
上原:先ほどもお話したように、最近は大手スーパーでのケージフリー卵の取り扱いが増えていますし、2021年に入ってからは日清や味の素などの大手食品企業もアニマル・ウェルフェアに関する指針を発表しており良い傾向にあると思います。
大手食品企業が今年に入ってから続々とこのような指針を出しているのは、投資先としての国際的な評価基準にアニマル・ウェルフェアに関する要件が入ったことが影響しているとも言われています。このように投資の側面から変化が広まることも重要ですが、より大切なのは消費者からの声によって変化を起こしていくことです。
アメリカでは、ケージフリーの義務化が州法によって定められている州が9つあり、このほとんどは住民運動が制定のきっかけとなりました。我々、ザ・ヒューメイン・リーグは企業に対してケージフリー卵への転換を働きかけていますが、ぜひ消費者の皆様にも卵とアニマル・ウェルフェアの問題に関心を持って頂ければと思います。
ーー「エシカルはおいしい!!」でも引き続き、卵とアニマル・ウェルフェアの問題を取り上げていきたいと思います。本日はありがとうございました!
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