2021年12月20日

レジを通らず捨てられる食品たち 1/3ルールを知ろう

食品ロス問題ジャーナリスト 井出留美

国内外のエシカルな食に関する話題は取り上げられることが多いですが、では、実際に我々・消費者は生活のなかでどのようなポイントを意識すれば"エシカル"になるのでしょうか?そんな常の食生活のなかでも意識できるエシカルについて、食品ロスジャーナリスト・井出留美さんに教えて頂きます。今回のテーマは「レジを通らず捨てられる食品たち 1/3ルールを知ろう」です。

「レジを通らなかったお弁当」
消費期限はまだなのに、なぜ?

以前、ある知り合いから「この前、夜遅くコンビニに行って、一個だけ◯◯弁当が残ってたからレジに持ってったら、レジに通らなくて『これは売れません』って言われて。でも(消費)期限はまだ残ってる。あれはなんでなの?」と質問されました。私が食品ロスを減らす活動をしているから、何か知っていると思ったのでしょう。

この場合、お弁当はなぜレジを通らなかったのでしょうか。

これは、賞味期限や消費期限よりも前の日付「販売期限」が設けられており、この販売期限が過ぎると売ることができないからです。といっても、このルールは法律ではありません。食品業界が独自に定められたルールで、これに従わないと取引ができない、いわゆる「商慣習」です。

大手コンビニでは、下の写真のようなバーコードを読み取る機械があります。店員さんが商品棚に並んでいる商品のバーコードを読み取ると、「賞味期限が◯月◯日以前の商品は廃棄」などと、廃棄を指示する文言が出てきます。

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大手コンビニで使っている機械(筆者撮影)

このように商慣習で決められているのは販売期限だけではありません。

販売期限のもっと手前に「納品期限」というものあります。食品メーカーは、納品期限までに店に納品しなければなりません。それより遅れてしまうと、コンビニやスーパー、百貨店などの小売店からは、納品を拒否されてしまいます。

作ってから間もない、できる限り新しい商品を店に並べてお客様に売りたい、という理由から、製造から一定期間を「納品期限」に設定しているのです。これに、ちょっと遅れてしまったために、数千ケースが納品できなくなったという事例も実際にありました。

拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)にも書いた事例ですが、海外で製造してい加工食品日本に持ってきた段階で納品期限を過ぎてしまっていた、というケースした

もちろん、飛行機で運べばすぐなのですが、非常にコストが高くなってしまいます。そこでメーカーは船で運ぶのですが、船だとコストが安い反面、日数がかかってしまいます。それで納品期限に少しだけ遅れてしまった、というわけです。

そのメーカーの人は、納品できなくなった加工食品の販売を、泣く泣くあきらめざるを得ませんでした。とはいえ、捨てるのはもったいないですから、ソーシャルメディアで呼びかけて、サンプルとして無償で受け取ってくれる人を募ったのです。私も手を挙げて、400個ほどの商品を受け取り、無償で配布して廻りました。

うした「販売期限」や「納品期限」のことを、食品業界では「3分の1ルール」と呼んでいます。

製造から賞味期限までの期間を3分の1ずつに分け、最初の3分の1を「納品期限(あるいは納入期限)」とし、次の3分の1を「販売期限」としています。たとえば賞味期限が6ヶ月のものあれば2ヶ月ずつということになります。これに遅れてしまうと、「納品ができないまたは販売ができないということになるのです。

海外でも納品期限はありますが、米国では納品期限は2分の1、フランスなど欧州では3分の2などと、日本よりも余裕を持った納品期限になっています。

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流通経済研究所の調査によると、かつてはこの1/3ルールの影響で年間1,000億円以上のロスが発生していました。しかし、その後はルールの見直しが進み、少しずつロスが減ってきています。

災害時でも必要?
1/3ルールの実態

2012年10月から、農林水産省や流通経済研究所、食品業界などがこのルールの緩和に動き出しました。飲料や菓子などについては、納品期限を3分の1から2分の1伸ばすとい取り組みがされるようになったのです。

京都市では、販売期限ではなく、消費期限・賞味期限ギリギリまで販売する実証実験を行いました。その結果、食品ロスは10%減り、売上は5.7%上昇しました。納品期限の緩和と並行し、販売期限の緩和に動く企業もあります。でも、すべてではありません。

2021年7月にあるメーカーの経営陣に聞いてみたところ3分の1どころか、今でも5分の16分の1といった短い納品期限を課してくる小売はいらっしゃいますよ」とおっしゃっていました。緩和に動き出してから10年が経つというのに、そのような状況なわけです。

この1/3ルールは非常時であっても、もちろん適用されています2018年の西日本豪雨の時、道路が寸断された影響でトラックが止まってしまい、あるコンビニでは商品が到着したのが販売期限の1時間ほど前になってしまいました。その結果コンビニのオーナーさんは売るがないまま、大量の食料品を捨てざるを得なかったのです。

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食品ロスは世界中で発生している自然災害を引き起こす一因にもなっています。

食品ロスは、その生産や輸送の段階で温室効果ガスを発生させており、地球の温室効果ガス排出量のうち、食品ロスが占める割合は810%も言われています

世界の気象災害による経済的損失は、日本円にして400兆円にものぼります。杓子定規業界の商慣習に従うことで失うものはとても大きいのではないでしょうか。

限られた資源から作られた食べ物を人間が決めたルールで捨てるのは、食べ物に関わったすべての命を無碍にすることです。

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プロフィール
井出留美(いで・るみ)
食品ロス問題ジャーナリスト。2016年の国会議員向け講演会をきっかけに食品ロス削減推進法の成立に貢献。『賞味期限のウソ』(5刷)ほか著書多数。第二回食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。
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