2021年10月20日

容器包装が食品ロスを減らす!? プラ容器の意義を考える

食品ロス問題ジャーナリスト 井出留美

国内外のエシカルな食に関する話題は取り上げられることが多いですが、では、実際に我々・消費者は生活のなかでどのようなポイントを意識すれば"エシカル"になるのでしょうか?そんな常の食生活のなかでも意識できるエシカルについて、食品ロスジャーナリスト・井出留美さんに教えて頂きます。今回のテーマは「容器包装が食品ロスを減らす!? プラ容器の意義を考える」です。

容器包装ゼロに向け
国内外で進む取り組み

2021731日、京都にオープンした、斗々屋(ととや)京都本店は、使い捨ての容器包装を一切使わないお店です。日本では20207月からレジ袋有料化になりましたが、斗々屋は有料・無料問わず、使い捨ての容器は提供していません。

食品ロスも基本的にゼロ。スーパーで売れ残りそうなものは惣菜や夜の飲食で調理し、それでも余ったら、真空の瓶詰め加工にして12年、常温で保存できるようにしています。環境先進国である欧州に倣った「ゼロウェイスト」が徹底している店です。

日本初!ごみも食品ロスも出さない京都のスーパー「斗々屋」その工夫と最新鋭の量り売りシステムとは?
Yahoo! ニュースより

スクリーンショット 2021-10-13 17.27.49-2.jpg

筆者撮影

使い捨てのプラ包装削減の観点から、いつも講演でご紹介しているのが、米国のApeel Sciencesの技術です。

Apeel使用の有無を果物で比較した動画

植物性由来の、味もにおいも色もない抽出物をスプレーすることで、野菜や果物の日持ちを2倍に延ばすことができます。米国やドイツではすでに市場へ導入されており、食品ロスを減らすだけでなく、使い捨てプラスチックのごみを削減することができます。

食品ロス削減にもつながる
容器包装がある意義とは?

野菜や果物などに関しては、Apeel Sciences社のような技術が提供される一方、容器包装があったほうが、賞味期限が延びるものもあります。

たとえば、醤油は、「押して出す」容器にすることで、賞味期間を90日間まで延長することができました。キユーピーは、製造方法や容器包装を改良することによって、7ヶ月だったマヨネーズの賞味期限を12ヶ月まで延長することを実現しました。

食品ロスの観点だけでなく、使いやすさの面からも、容器包装の削減ばかりにこだわらないほうがいい、という主張もあります。

スウェーデン・カールスタッド大学サービス研究センターのヘレン・ウィリアムズ博士の研究チームは、「プラスチック包装を排除してゼロにすることが食品ロスを減らすとは限らない」という趣旨の論文発表しました。

ヘレン博士は、ひき肉のパッケージを例に挙げました。日本のスーパーでよく使われているのは、トレイに入れてラップをかける方法です(写真右)。一方、サラミソーセージのように、トレイを使わずにくるんで両端を金具で留める方法もあります(写真左)。

スクリーンショット 2021-10-11 15.43.05.jpg

ヘレン・ウィリアムス博士提供

容器包装を減らすという観点からすれば、左の容器は6g、右は21gで、左の「サラミソーセージ」式の方が、3分の1以上、容器包装を削減することができます。

賞味期限で見ても、右が9日間、左が16日間なので、左の方が賞味期間は長いです。

すが、ひき肉の使い切りやすさを比べると、どうでしょう。左は5gから10gくらいのひき肉がどうしてもへばりついてしまい、食品ロスになってしまいます。

容器包装をリサイクルする時も、左は洗うのがとても大変です。また、右はプラスチックだけですが、左はプラスチックと金具なので分けなければなりません。

ヘレンさんの導いた結論は「容器包装材が少ないこと=食品ロス削減ではない」「適切な量と形の容器包装を使うことで、むしろ食品ロスを減らすことができる」ということでした。

ちなみに、私は最近、時間のあるときには肉屋さんに買い物に行っています。木から作られた経木(きょうぎ)ではないのですが、紙で作ってワックスが敷かれた「紙経木」にひき肉などを包んでもらっています。これだとプラスチックも使わず、かつ使い勝手も良いのでオススメです。

スクリーンショット 2021-10-13 17.29.32.jpg

肉屋さんで購入した肉(筆者撮影)

一見、無駄と思えても
角度を変えれば見え方が変わる

菓子メーカー2社に、容器包装の削減を呼びかけた女子高生の署名運動が、2020年、話題になりました。

確かに、容器包装の削減という観点からだけ見れば、個包装は、ただごみになるだけですよね。

でも、個包装があることで、クッキーやビスケットが湿気ってしまうのを防ぐことができます。世帯人数の少ない家族が大袋で買っても大丈夫。テレビや講演の楽屋など、大勢の人が一人ひとり別々の空間に入るケースでは、個包装の菓子が便利です。

高校生「プラ過剰包装やめて」広がる署名 "個包装"にも利点、多様な視点生かすには
Yahoo! ニュースより

私自身は、できるだけペットボトルの使い捨てを防ぐべく、マイボトルを使ったり、炭酸水を作る機械を買ったり、備蓄水を使い終わって空いたペットボトルは白米や玄米を保存する容器として再利用したりしています。レジ袋は買わないで、エコバッグを使っています。

でも、一方で、醤油はプラ容器で賞味期限の長いものも便利に使っています。消費期限が迫ってきて値引きしているプラ容器入りの惣菜も買っています。その代わり、食品トレーやプラ容器、牛乳パックなどはすべて洗ってリサイクルに出しています。出したからといって済む問題でもないな・・・とはいえ、容器包装を全部排除するのも難しいな・・・などと、常に葛藤しながら暮らしています。

容器包装の問題に限らず、社会問題の背景には複雑な事情や都合がありますですから、私たち消費者も、様々な観点からものを見て総合的に判断することが大切ではないでしょうか。あなたはどう考え、どのように暮らしていますか?

※本サイトに掲載の文章の部分的な引用を希望される場合は、サイト名・記事タイトル・著者を明記の上でご利用ください。また引用の範囲を超える文章の転載・写真の二次利用については編集部の許諾が必要です。

プロフィール
井出留美(いで・るみ)
食品ロス問題ジャーナリスト。2016年の国会議員向け講演会をきっかけに食品ロス削減推進法の成立に貢献。『賞味期限のウソ』(5刷)ほか著書多数。第二回食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。
井出留美の記事一覧

最新記事

人気記事