2021年9月20日

売れ残り品の値引きを考える 「新鮮さ」が一番大切か?

食品ロス問題ジャーナリスト 井出留美

国内外のエシカルな食に関する話題は取り上げられることが多いですが、では、実際に我々・消費者は生活のなかでどのようなポイントを意識すれば"エシカル"になるのでしょうか?そんな日常の食生活のなかでも意識できるエシカルについて、食品ロスジャーナリスト・井出留美さんに教えて頂きます。今回のテーマは「売れ残り品の値引きを考える 『新鮮さ』が一番大切か?」です。

セブンが値引きシステムを導入
その意義は一体どこに?

コンビニエンスストア最大手のセブン-イレブン・ジャパンが、売れ残り商品を店の判断で値引きできるシステムを導入しました(2021年8月29日付日本経済新聞)。

実は、この動きには非常に大きな意義があるのですが、その背景を少し確認してみましょう。

ちょうど年前20209月、公正取引委員会から、コンビニ店舗あたり年間平均468万円分の食品を捨てているという統計発表されました。この統計は前回の記事でも引用しましたが、の金額は民間給与取得者の平均年収436万円(令和元年度)を上回ります。これだけ廃棄が発生している背景には「コンビニ会計」という特殊な会計システムがあり、値引きして商品を売り切るよりも廃棄した方が本部の収益には都合が良いことも前回の記事で指摘しましたですが、コロナ禍で10万人以上が雇い止めになり、一日の食にも事欠く人が大勢いる昨今、そんなことは看過されるべきではないでしょう。

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ポプラ鬼子母神店の店頭(筆者撮影)

大手コンビニの中でも、ローソンは以前より値引きOKという姿勢を示していました。私が出演した食品ロス問題のドキュメンタリー映画『もったいないキッチン』にもローソンが登場しています。ファミリーマート20217月から事前に必要だった伝票処理を取りやめて、値引額とバーコードが印字されたシールを貼るだけで値引きできるようになりました(2021831日付朝日新聞より)。

ここで冒頭のセブン-イレブンの話に戻りましょう。全国で55,000を超えるコンビニエンスストアのうち、セブン-イレブン・ジャパンの店舗数は20,000を超え、全体の3分の1以上を占めています。そのセブン-イレブンが、売価を変えずに廃棄する方針から、値引きしてでも売り切るという選択肢をこれまでより能動的に認めたのです。こ意義とても大きいと言えます。

とはいえ、スーパーやデパ地下では、長年、当たり前のように期限接近食品を値引きして売り切る努力をしてきています。知り合いのスーパーの経営陣は「廃棄は悪。売価変更してでも売り切る」と、ずっと前から話していました。今回のコンビニの商慣習の変更は、業界としては大きな進歩ですが、マイナスだった状態がようやくゼロ地点までたどりついたに過ぎない言えるかもしれません。

「値引き」は最良の策か?
"新鮮"の価値を問い直そう

ここで改めて考えたいのが、「値引き」は最良の策であるかどうかということです。もちろん、値段を変えてでも売り切るほうがいいのですが、食品関連企業にとっては、定価で売り切れるのが一番いいはずです。

なぜ、値引きせざるを得なくなるのか。それは「必要数より作り過ぎているから」です。

もちろん、工業生産において、需要と供給の差をゼロにするのは困難です。だからといって、コンビニのように、1店舗1年間でビジネスパーソンの平均年収を上回るほどの額の食品を捨てるのは許容範囲を超えているでしょう。

高度経済成長期は「大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄」の時代でした。その栄光を知る世代は、その慣習を捨てられないかもしれません。でも、資源が枯渇し、世界の食品産業や食品ロスが気候変動の一因となり、地球の持続可能性が喫緊の課題であるいま、適量作って適量売り、適量買うことで廃棄を最小限にする努力が必要です。

そのためには、我々・消費者も態度を改めないといけないところがあることも分かっています。

経済産業省は民間企業と協働して電子タグの実証実験を毎年行っています。そのつとして、20211月から2月にかけて、生鮮食品に電子タグをつけ、鮮度に応じて値段を変えてネットスーパーで販売する「ダイナミック・プライシング」の実証実験が行われました。

「ダイナミック・プライシング」は需要に合わせて値段を増減させる仕組みです。航空券やホテル・旅館の価格などではおなじみです。年末年始やゴールデンウィーク、お盆の時期には需要が増えるので値段が上がり、オフシーズンには値段が下がります。

今回の実証実験は生鮮食品で行いました。面白いのは、出荷したての鮮度が新鮮なものは、標準価格(定価)よりも高くし、そこから鮮度が落ちるごとに値段を下げていったことです。「値引き」はありますが、定価よりも「値上げ」するというのは珍しいのではないでしょうか。

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2021年1月から2月にかけて実施された実証実験の様子(筆者撮影)

その結果、消費者の中には、どんな食品でも必ず「出荷したて」のものを買う人がいらっしゃいました。値段が高くても構わないから、とにかく鮮度が最も高いものを選ぶという姿勢です。

今回の実証実験は、鮮度が問われる生鮮食品でしたが、加工食品の中には、作りたてより、むしろ時間が経ってからの方がおいしいものもあります。たとえば缶詰は、製造してから半年以内は味がしみておらず、半年以上経ってからの方がおいしいそうです。ツナ缶の製造工場で働く人たちは、賞味期限ぎりぎりか、過ぎたものを意図的に選ぶということがNHKのテレビ番組でも紹介されていました。

肉も熟成させますし、寿司にも「熟成寿司」というのがあります。発酵食品などはその際たるものでしょう。食べ物はすべて作りたてがおいしいとは限りません。そのことを知れば、買い物で、なんでもかんでも奥に手を伸ばして日付の新しいものを引っ張り出すことも少なくなるのではないでしょうか。手前の期限が近づいたものが売れ残ってしまうと、店がコストを負担するだけでなく、わたしたちが市区町村に納めた税金も使われて処分されるのです。

料理の本はたくさんありますが、「買い方」の本は多くありません。でも、中学校の家庭科では、どのように選び、どのように買うかを考え、実践する内容になっています。子どものロールモデルとなる我々も、値引や大量生産せざるを得ない背景、価格設定のあり方について考えるべきではないでしょうか。

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プロフィール
井出留美(いで・るみ)
食品ロス問題ジャーナリスト。近著『食品ロスをなくしたら、1ヶ月5000円の得!』(マガジンハウス)『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書、4刷)。第二回食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018受賞
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