国内外のエシカルな食に関する話題は取り上げられることが多いですが、では、実際に我々・消費者は生活のなかでどのようなポイントを意識すれば"エシカル"になるのでしょうか?そんな常の食生活のなかでも意識できるエシカルについて、食品ロスジャーナリスト・井出留美さんに教えて頂きます。今回のテーマは「『欠品の多いスーパー』それ、実はエシカルかも?」です。
スーパーで常に欠品がない状態
"エシカル"としては問題アリ?
コロナ禍でマスクやトイレットペーパーが店頭からなくなり、買い物客がドラッグストアの店員に暴言を吐いたという報道がありました。
買おうとしていたものが欠品(品切れ)していたとき、あなたはどう思いますか?
食品業界には商慣習の一つとして「欠品ペナルティ」というのがあります。メーカーが欠品を起こすと、小売(コンビニ・スーパー・百貨店など)から「取引停止」と言われてしまう、あるいは、失った売上を補償するよう補償金を求められることです。
このルールは法律ではありません。
でも、小売業者、特に全国展開している販売力の強い小売業者は強い力を持っており、彼らが商談で選んでくれるかどうかで売上が決まるメーカーは、このルールに従わないといけません。
「取引停止」などと言われては、売上をごっそり失ってしまいます。生産計画は立てますが、足りなくなるのは御法度。だから多く作らざるを得ないという背景があるのです。
欠品しないコンビニやスーパーは、本当によいと言えるのでしょうか。
食品の保存温度は、人が暮らすのに適する温度とは異なります。ですから、コンビニやスーパーには冷蔵や冷凍のコーナーがあります。
でも、冷蔵・冷凍コーナー以外は、買い物する人の快適さに合わせて温度が設定されています。冬は暖房、夏は冷房。食品在庫がどんどん回転していけばいいですが、そうでない場合、欠品を防ぐために商品棚に長期間置いてある食品は、人の都合で決められた「適温」にさらされます。
欠品を防ごうとすれば、従業員の労力もかかります。たとえば午前10時開店の店で、朝から欠品しないためには、お客さんが来る前の早朝から棚に詰めなければなりません。朝から晩まで働き続ける状況は"エシカル"とはいえません。
欠品を防ぐコストは、食料品の販売価格に上乗せされているとも言えます。いつでもどこでも何でもある状況を作り出すために、消費者もコストを負担しているわけです。
では、企業や消費者はどうすればいいのでしょうか。
「あえて欠品を受け入れる」
その理由は何か
大手スーパーの「オーケーストア」は、「オネスト(正直)カード」の取り組みで知られています。品薄や欠品の理由を伝えるカードを売り場に掲示するのです。
たとえばこのような形です。
「きゅうりについて:大雨と曇天の影響で、生育不足や各産地の出遅れが発生しており、入荷量は2割減、相場は例年の5割高と高騰しています。代わりにカットサラダのご利用をおすすめします。相場が下がりましたら速やかにお知らせいたします。」
なぜ数が少ないのか、消費者が知り、理解すれば、納得した上で買う、あるいは買い控えすることができます。正直に伝えることで、もしかしすると消費者に買ってもらえる機会を失ってしまうかもしれません。それでも、その事実を伝えています。
絶対欠品しないよう、本部から指示が飛んでくる大手コンビニでは、棚に空きを作っていることがほとんどありません。それでも、オーナーの考え方によっては、売り切るように努力している加盟店もあります。
あるコンビニオーナーは、「自分の店では、卵と牛乳だけは欠品しないようにしている」と話します。「卵や牛乳は日常的に使うものだから」というのがその理由です。
また、「欠品を防ぐコストは半端ない」と語るのは、京都のスーパー「八百一本館」の店長です。ここでは、欠品した商品の棚にはお詫びカードが立てられています。
私が店舗に伺ったときには栗きんとんの棚で欠品になっていました。でもその時は5月。年末ならともかく、一瓶3,000円以上もする栗きんとんは、売り切れていてもかまわないですよね。商品によってメリハリをつけるというのも一案です。
結局、欠品を防ぐコストは消費者にも転嫁されているとお話しました。その上で、いつも棚がパンパンに詰まっている店を選ぶのか。それとも、ない理由を正直に伝えて欠品のある店を選ぶのか。皆さんはどうしますか?
福岡県柳川市の「スーパーまるまつ」は、創業当時から欠品を受け入れています。
二代目の社長は取材でこう語りました。「たとえば、海がシケていて魚が獲れない。そんなとき、無理に欠品を防ごうとすれば、古くて高くてまずい魚をお客さんに買わせることになってしまう。でも大手(スーパー)は数合わせで、どんな魚でも買っていく」
社長になった今でも、朝4時起きで、自分がおいしいと思うものを市場で仕入れて売っています。スーパー周辺には10店舗ほど競合スーパーがありますが、その中でもシェア15〜20%を誇り、地元のお客様に愛されているのです。
1982年、国際消費者機構は「消費者の8つの権利と5つの義務」を提唱しました。先日、台湾在住の日本人の方に聞いたところ「残念ながら、日本は権利ばかり主張するようになってしまった」と話していました。
本来、環境のことや他の人のことを考えて買うのが消費者としての責務なのです。
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