2021年6月11日

学校給食とプラントベース その現状と課題を考える

北海道大学大学院 市村敏伸

エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が上がっているのでしょうか。
一橋大学在学中で、佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは「学校給食とプラントベース その現状と課題を考える」。ニュースのまとめ翻訳に興味がある方は、ぜひリンク先(※英語)をご覧ください。

未来の食にどう影響するか
給食のプラントベース対応

日本でも最近はスーパーなどでよく目にする大豆ミートなどのプラントベースの代替肉。いち早くこの代替肉の普及が始まった欧米では、すでにプラントベースを学校給食などに取り入れる動きも広がっています。

学校給食は子供たちの味覚形成や食嗜好に大きな影響を与えるもので、その国や地域の将来の食文化の形成において重要な意味を持ちます。

日本でも戦後の食糧難の時代にアメリカが学校給食向けにパンと脱脂粉乳を提供したことが、パンや乳製品を多く消費する食生活への変化、いわゆる「食生活の多様化」に大きな影響を与えたと言われます。

ですから、一部の欧米各国で最近見られる学校給食のプラントベース対応の動きも、今後の食文化の変容を占う重要な動向となるかもしれません。

各地で進む
プラントベース給食のいま

一口に学校給食でのプラントベースの導入と言っても、その対応の程度にはグラデーションがあります。

例えば、米国の一部の学校区などでは数年前からプラントベースで、かつ乳製品や卵も一切使用しないヴィーガン対応の食事が、メニューの一部として提供されています。

単一の学校区(幼稚園から高等学校までの複数の学校を一括して運営する行政区)としては全米最多約110万人の生徒を抱えるニューヨーク市の公立学校では、2019年から毎週月曜日に給食で肉類を提供しない「Meatless Mondays」の取り組みが実施されています

また、ニューヨーク市に次ぐ学校区の規模を誇るカリフォルニア州ロサンゼルスの学校区でも、2017年から試験的にヴィーガンメニューの提供を開始。その動向を紹介する記事によると、提供されるメニューは学校ごとに異なっており、ヴィーガン・チリやヴィーガン・テリヤキバーガーなど、種類も豊富なようです。

こうしたヴィーガンメニューを選んで食べる生徒が、もともとヴィーガンであったとは限りません。この学校区での試験提供の統計によれば、平均して生徒全体の13%がヴィーガンメニューを選択し、多い時ではその割合は50%にもなったとされています。

今年に入ってからは、大手代替肉メーカーのImpossible Foods(インポッシブル・フーズ)も、学校給食へ自社商品の提供を開始すると発表。5月から、カリフォルニア州、ワシントン州、オクラホマ州の一部の学校区で、タコスやミートソーススパゲティなどのメニュー提供を開始しました。

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米国では生徒の健康面への配慮がプラントベース給食導入の大きな動機となっていますが、一方でヨーロッパでは環境面への配慮から給食での肉類の提供をなくしていく動きが出ています。また、ヨーロッパでは学校給食を完全にプラントベース化する取り組みが見られることも特徴です。

英国・オックスフォードの中学校は、昼食時に1種類のベジタリアン対応の食事のみを提供する学校として2019年に開校しました。この中学校の校長は「一般論として、若者の持続可能性への関心は高まっており、彼ら彼女らは同時に行動を起こすことにも関心を持っている」とコメントしており、この給食提供が環境への配慮の結果だと説明します。

また、これまで紹介した例とは事情が異なりますが、今年2月、フランス・リヨン市が市内約200校の学校給食で肉類の提供を停止すると発表したことも大きな話題となりました。

リヨン市によると、今回の決定はコロナ対策の一環とのこと。従来は複数のメインディッシュから料理を選択するシステムが採られていましたが、この方法では配膳に時間がかかりすぎ、食堂で求められる2mのソーシャルディスタンスとの両立が困難であるとリヨン市長は説明します。

そこで、ベジタリアンの生徒もそうでない生徒も食べられる、ベジタリアン対応のメニューに提供を一本化するとしたわけですが、このリヨン市の決定への反応を観察すると、プラントベース対応給食の提供の難しさが見えてきます。

プラントベース給食への批判
"強制"が持つ問題点

給食での肉類の提供を停止するリヨン市の決定に対して、フランス政府は強く反発しています。とりわけ、リヨン市のグレゴリー・ドゥセ市長が環境保護政党の左派「緑の党」所属であることも反発が強まっている要因です。

ジェラルド・ダルマナン内務大臣は、この決定が「農家と食肉業者に対する容認し難い侮辱である」と厳しく批判した上で、「多くの子供たちは学校でしか肉を食べることができない」とコメント。さらに、ジュリアン・ドノルマンディー農業・食料大臣も「子供たちの健全な生育に必要なものを提供するべきで、肉はその一部だ」と今回の決定を批判しています。

こうした政府側からの強い批判には大統領選を来年に控えたフランスでの政治的事情も関係しているでしょうが、プラントベース給食の"強制"にはイデオロギー的な批判が強まることを示したとも言えるでしょう。

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また、イデオロギー的な側面以外からも、強制的なプラントベース給食は批判にさらされています。

先の英国・オックスフォードの中学校では、1種類のベジタリアン給食のみを提供したところ、野菜中心の給食が口にあわないため給食を食べずに空腹のまま帰宅する生徒が続出。こうした事態が栄養摂取の観点から問題視され、学校側はマカロニ&チーズなど、肉類を使わないメニューのオプションを増やす方針に切り替えました。

給食という子供自身による食事選択の自由が制限された環境のなかで、特定のイデオロギーにあわせた食事の提供に限定することは、それぞれの子供の多様なバックグラウンドを無視することに繋がりかねません。

そう考えると、米国での事例のように、プラントベース対応の食事のオプションを豊富に取り揃えるという方向性が現状では最も適切なプラントベース給食のあり方かもしれません。

なお、プラントベース食・レスミートについては、北海道大学・小林国之先生の連載『ヨーロッパのエシカル事情』でも取り上げています。ご興味のある方はこちらの記事もご覧ください。

2021年68日執筆

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プロフィール
市村敏伸(いちむら・としのぶ)
1997年生まれ、一橋大学法学部卒業。大学在学中にライター活動を開始し、現在は北海道大学大学院農学院に在籍中。専門は農業政策の形成過程に関する研究。
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