2021年5月 8日

食卓にエシカルな魚を届ける、トップシェフたちの活動「うみとさち」

フードジャーナリスト 佐々木ひろこ

2021年2月、持続可能な水産物を首都圏のスーパーで販売する注目の取り組みが行われていました。「うみとさち」と名付けられたこの取り組みは、持続可能な水産養殖として「ASC認証」の取得漁業者が生産した真鯛を、首都圏のトップシェフたちのレシピつきで販売するもの。この活動は、「エシカルはおいしい!!」にも寄稿して下さっている佐々木ひろこさんが代表を務めるChefs for the Blueが提供しているとの情報が入ってきました! 編集部この取り組みについて、そしてChefs for the Blueが見ている今と未来について、佐々木さんに伺いました。

【聞き手:市村 敏伸(エシカルはおいしい!! 編集部)】

一般の消費者にも届けたい
持続可能な水産物の選択肢

ーー「うみとさち」の取り組みについて伺う前に、Chefs for the Blueとは何か。読者のために簡単にその概要を教えてください。

スクリーンショット 2021-05-08 8.45.12.png佐々木ひろこさん(以下、敬称略):Chefs for the Blueは、2017年に設立した料理人のネットワークです。現在、参加しているのは日本を代表するトップシェフ約30名です。主にイベントやメディアを利用しながら、持続可能な海の利用方法について、料理人の立場から考えを発信しています。

フードジャーナリストの私は団体の代表として、プロジェクトの企画やマネジメント、シェフたちの活動サポートなどを行なっています。

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ーー今回、「うみとさち」とのコラボでは、Chefs for the Blueに所属するシェフたちがサステナブル(持続可能)な水産物を使ったレシピの提供をされたと伺っています。今回のコラボはどのような経緯で始まったのでしょうか?

スクリーンショット 2021-05-08 8.45.12.png佐々木:直接のきっかけは、「うみとさち」を運営しているウミトロンさんからお声がけを頂いたことです。ウミトロンさんは、テクノロジーの導入によって持続可能な水産養殖を実現しようとしているITスタートアップ企業なんですが、東京都の助成先企業に選ばれ、スーパーマーケットでのサステナブルな養殖魚の販売実証を行おうとしていて、そのプロジェクトでコラボしませんかとお話を頂きました。

コラボの内容としては、ASC認証(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会が認証した、持続可能な方法で養殖された水産物)を取得した愛媛県の養殖漁業者による真鯛を使った、家庭で作れるレシピの提供やイベント共催がメインです。

ーーおそらくChefs for the Blueにはコラボのお誘いも多いと思いますが、今回ウミトロンさんとのコラボに至った決め手は何だったのでしょうか?

スクリーンショット 2021-05-08 8.45.12.png佐々木持続可能な海の利用について講演やイベントをすると、消費者の皆さんは「で、私たちは明日から何をすればいいんですか?」ということを、当然の疑問として持たれるんです。

長い間、私たちはこの問いに明確にお答えできることができずにいました。というのも、日本のスーパーにはサステナブルな水産物のオプションがとても少ない。したがって、「これを買ってください!」というご提案がなかなかできないんです。

持続可能な水産物の重要性を発信していながら、消費者への具体的な提案はできない。この矛盾をずっと抱えていました。

ーー確かに、いち消費者としては、具体的な解決策が欲しいと思ってしまいます。

スクリーンショット 2021-05-08 8.45.12.png佐々木そうですよね。もちろん、最近では一部のスーパーで認証水産物の取り扱いがありますが、これらはほぼ外国産です。私たちは日本の海を変えていきたいので、できれば国産の魚をオススメしたい。そう考えていたところ、今回の「うみとさち」は愛媛県産真鯛とのことだったので、「これはやってみよう」となりました。

ーーつまり「一般の消費者でも買える、サステナブルな国産魚」という点がポイントとして大きかったということですね。

スクリーンショット 2021-05-08 8.45.12.png佐々木そうですね。日本の海が変わることのひとつのきっかけになり得ますから。

例えば、このASC認証の真鯛が売れれば、他の養殖事業者さんが認証取得に興味を持ってくれるかもしれないし、消費者から認証魚が買いたいという声が多くなれば、販売する側にも変化が出るかもしれません。

ーーレシピ開発のなかで、とりわけ気を使った部分などはありますか?

スクリーンショット 2021-05-08 8.45.12.png佐々木一般の消費者の方々にASC認証魚を知って頂きたいので、簡単に作れるレシピというのは心がけました。

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調理時間は漬け込み時間を除いて15分間以内、使う食材は3つまでと決めました。食材も普通のスーパーで手に入るものしか使っていません。

ーーとにかく一般の消費者を強く意識されたわけですね。実際に販売してみて、お客さんからの反応などは聞いていらっしゃいますか?

スクリーンショット 2021-05-08 8.45.12.png佐々木私たちは直接販売に関わっていませんので、お客様の声を聞いているわけではありませんが、売れ行きは好調と聞いています。

特に、とあるスーパーの小田原店では真鯛の一日の売上記録を抜いたそうです。魚が豊富な小田原で、愛媛の魚がよく売れるというのは、やや複雑な気持ちもありますが...(笑)。

エシカルに向かうシェフたち
その原動力は、社会

ーーChefs for the Blueの活動では、これまで消費者向けのイベント等に重点を置かれていたと思いますが、これからは今回のような商品開発の取り組みも増やしていく予定ですか?

スクリーンショット 2021-05-08 8.45.12.png佐々木:私たちの活動のゴールは、「日本の海を持続可能にし、食文化を未来につなぐこと」です。そのためには、科学的な知見に基づき、サステナブルな漁業が行われる必要があります。

生産者の行動が変わるためには、流通・消費も含めすべてのステークホルダーが変わっていかなくてはいけません。そのため私たちの活動も徐々に広げていく必要があると感じています。その方法は、今回のように消費の場を作ったり、生産者のサポートをしたりと広げる必要があるでしょう。

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私たちも、最初はシェフ同士の内輪の勉強会から始まり、徐々に外部に向けて発信できるようになりました。そのなかでシェフたちの使命感も次第に高まってきて、インフルエンサーとして社会を変えていくことを意識することが増えたように思います。

ーーシェフの皆さんのモチベーションを高めた原動力は何だったのでしょうか?

スクリーンショット 2021-05-08 8.45.12.png佐々木:やはり、社会が認めてくれている感覚でしょうか。

4年前の活動を始めた当初は、有名シェフを揃えたのにも関わらず、イベントへの取材がゼロだったんです。それが、この数年で大きく変わりました。

グループに所属しているシェフのひとり・石井真介シェフがサステナブルなシーフードに特化したレストラン「シンシア ブルー」をオープンしたときには、2ヶ月で数十件の取材がきたんです。もちろん活動を続けるのは大変ですが、シェフたちもそれだけの価値があると実感していると思います。

ーー社会がそのように変化したのには、なにかきっかけとなる出来事があったと思われますか?

スクリーンショット 2021-05-08 8.45.12.png佐々木:うーん...どうでしょうね...。

ひとつは、SDGs抜きには考えられなくなっているという世情があるということかもしれません。例えば、ジェンダー問題が昨今ここまで話題になるのも、ひと昔前までは考えられなかったですから。

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SDGsには目標が17個あるわけで、誰しも関わりのある目標があるはずです。ですから、世の中をより良くしていくという流れは止まらないと思いますね。

あとは、これがブームに終わらないことを願うばかりです。

ーーそうですね。サステナブルな水産物への関心がブームに終わらないよう、これからも持続可能な海のあり方について、佐々木さんにはぜひ「エシカルはおいしい」も使って、発信を続けていただきたいと思います!

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プロフィール
佐々木ひろこ(ささき・ひろこ)
食文化やレストランをメインフィールドに雑誌等に寄稿するフードジャーナリスト。2017年にChefs for the Blueを創設し、後に社団法人化。代表理事として東京のトップシェフ約30名とともに海洋資源の保全に向けた啓蒙活動に取り組み、様々なイベントを実施している。
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