2020年10月25日

「You are what you eat」から「what you eat shapes our future」へ

北海道大学大学院農学研究院准教授 小林国之

あなたはあなたが食べたものからできている。食べるものはあなたの体を作るだけではなく、あなたの心、人間性も作り上げる。だから、食べることにもっと関心を払いましょう。----こうした考え方をより拡げていくと、私たちが日々食べるものが、私たちの未来を形作ることにもつながる。そして、1人1人の人間として、食べることに対して、より能動的に取り組むことが、よりよい未来を形作りことにつながる。北海道大学大学院農学研究院准教授の小林国之さんからの記事です。

今の食の問題の多くを、消費者の嗜好・選択の問題に帰してしまう傾向に対して、『フード・ポリシー』の著者でもあり、近著『Feeding Britain』を著したティム・ラング氏は批判的な指摘を行なっている。日々何を食べるのかということは、極めて個人的な嗜好の領域にあるように考えられがちだが、自由に選んでいるように感じられて、我々はフードシステムにしっかりと埋め込まれている。そうしたフードシステムをそのままにしておきながら、個人の選択肢、個人の意志に食の未来を委ねてしまうということは無責任でもあるという指摘だ。

今のフードシステムを批判する視点の一つは環境負荷である。

ラング氏の著書でも紹介されている論文にPoore et al.2018)の"Reducing food's environmental impacts through producers and consumers"がある。日常的に食べているものがどの程度環境に負荷を与えているのかを定量的に明らかにした研究である。いわゆるメタ研究とよばれるもので、多数の既存の論文からデータを収集してそれらを統合することで新しい分析結果を得るというものである。

1530の関連しそうな論文を集めて、そこから必要に応じて筆者が詳細なデータを集めるなどして、実際には570の研究結果を元にして、世界の食料生産が環境に与えるインパクトを明らかにしたものだ。世界119カ国、38,700の商業的な農場、40の農畜産物(世界のタンパク質カロリー生産の90%をカバー)のデータを用いた分析だ。

食品のカテゴリー毎に、一定の数量を生産する際の環境への影響を試算した一覧が掲載されている。タンパク質100g、でん粉質1000kgcalあたり、油脂1リットルあたり、果物1kgあたり、アルコール1ユニットあたりなど。それぞれについて温室効果ガス、使用する農地の面積、富栄養化、酸性雨、水の量を試算している。

これをみると、同じタンパク質100gを作るとして牛肉は温室効果ガス平均約50kg/CO2eqに対して豆腐は2kg、使用する土地面積からみると牛肉は約170/年だが豆腐は約2㎡だ、などがわかる(p.2)

そして生産現場では、より少数の生産者が生産のより大きな部分を占めるという構造に変化してきている。そのことが当然だが環境負荷にも影響し、全作物では25%の生産者が環境負荷の53%の影響をもたらしている。(p.988)。環境問題でよくやり玉に挙げられる牛肉について見ると、環境負荷が大きい上位25%の生産者が、全体の温室効果ガスの56%を排出し、土地面積は61%を利用している(それぞれ13億トンのCO2eq95,000haの土地、主に草地だ)。

人間が食事を選ぶ時に、このリストを片手に持ちながら、レストランで、ファーストフード店でメニューを選ぶように、地球に優しい品目を選ぶというような未来はくるのだろうか。地球のことを考えるとそれが正しい姿のように思うが、なかなか簡単なことではない。また、食事をそういう判断基準だけで選んでしまうと、かえって、課題の一面だけを捉えてしまい問題を複雑化してしまうことにもつながる。

現在の食の「豊かさ」をもたらしているフードシステムの功罪を認識しながら、農業、流通における経済的な効率性という視点からだけではなく、持続的で豊かな食のあり方という視点から、未来の食を考える時期に来ているのだろう。

その際には、自分の地域の土地というものを土台に考えていく必要がある。日本には和食という食文化がある。それはかつて、自分達が暮らしている地域の土地から取れるものを最大限利用する創意工夫の結果としてうまれ、地域毎に様々な食文化がうまれた。

現在の日本の食の状況は全く違っている。世界中から食料を集めて、ある意味で自由気ままな食文化を楽しんでいる。そうした中で、日本の食文化の伝統を維持しようといっていう行政の取り組みはどこかちぐはぐな感じがしてしまう。

むしろ取り組むべきは、グローバル化した世界のなかで、日本という土地の上で何を作り、何を食べるのか、ということを改めて考えていくことだろう。その延長線上にこれからの日本食の伝統文化の継承があり、あらたな食文化も生まれるのではないか。


(参考文献)
Tim Lang, "Feeding Britain Our Food Problems and How to Fix Them", Imprint: Pelican Published: 26/03/2020, ISBN: 9780241442227, Length: 608 Pages

Poore et al., "Reducing food's environmental impacts through producers and consumers", Science 360, 987-992 (2018), 1 June 2018

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プロフィール
小林国之(こばやし・くにゆき)
1975年北海道生まれ。北海道大学大学院農学研究科を修了の後、イギリス留学。助教を経て、2016年から現職。主な研究内容は、農村振興に関する社会経済的研究として、新たな農村振興のためのネットワーク組織や協同組合などの非営利組織、新規参入者や農業後継者が地域社会に与える影響など。また、ヨーロッパの酪農・生乳流通や食を巡る問題に詳しい。主著に『農協と加工資本 ジャガイモをめぐる攻防』日本経済評論社、2005、『北海道から農協改革を問う』筑波書房、2017などがある。
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