2020年7月27日

「レッド・ミート」は体に悪い?世界で続く論争

「ワールド・エシカルフード・ニュース」担当 市村敏伸

エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が上がっているのでしょうか。
佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは「レッド・ミートは体に悪いのか?世界で続く論争」。皆さんは「Red Meat」という言葉をご存知でしょうか?この言葉、実は赤身肉という意味ではありません。このRed Meatをめぐり世界では大きな論争が巻き起こっています。
ニュースのまとめ翻訳に興味がある方は、ぜひリンク先(※英語)をご覧ください。

議論の絶えない存在
Red Meatって何?

昨今「肉を食べる」という食文化が、環境問題などをきっかけに本格的な見直しを迫られています。それは「肉を食べることをやめる」という短絡的なものではなく、食肉を取り巻く様々な要因を考え、植物性肉をはじめとした代替食品の可能性も踏まえながら、肉食文化とこれからの世界の共存のあり方を考えることにあると本連載では繰り返し確認してきたところです。

今年に入りコロナ禍を受けて世界の肉食事情はますます大きな転換点に入ろうとしていますが、ここで改めて理解しておかなくてはならないのが「Red Meat」(レッド・ミート)と世界で呼ばれるものの存在です。Red Meatという英語、日本語では「赤身肉」ということになりそうですが、これは誤訳。Red Meatとは、牛、豚、羊など哺乳類の肉を広く指す語で、赤身かどうかという肉の状態とは一切関係がありません。日本語では「赤肉」という訳語が一部で使用されています。

このレッド・ミート、議論を呼んでいる背景にあるのは、以前より指摘されるガンや心臓疾患との関係性。ハーバード大学をはじめ多くの研究機関でレッド・ミートの健康リスクは指摘され続けており、この問題は古典的な肉食批判の代表例と言ってもいいでしょう。しかし、最近ではEUが新食料政策のなかで「Red Meatの消費を控えること」を明確に打ち出し、この古典的なテーマをめぐって世界では議論が尽きません。今回は、そんなレッド・ミートをめぐる世界の議論の最新動向をお伝えします。

環境問題だけではない
肉食離れを進める健康リスク

レッド・ミートは健康を害するか?
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レッド・ミートの健康リスクは、約10年前からアメリカを中心に指摘されていますが、いまだに世界ではレッド・ミートの健康リスク評価をめぐって議論が交わされています。レッド・ミートは言うまでもなく重要な栄養素を多く含む食品であり、特にレッド・ミートから我々が日頃摂取している栄養素のうち重要と言われるのがビタミンB12。ビタミンB12は神経や血液細胞を健康に保つ役割をもち、欠乏すると末梢神経障害や貧血を引き起こします。そのため、ヴィーガンをはじめ動物性食品を摂取しない場合はこのビタミンB12をサプリメントで補う必要があります。

レッド・ミートには多くの栄養素が含まれる一方、心配されるのが心臓疾患やガンとの関係。動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸はコレステロール値の上昇によって心臓疾患のリスクを高めることが指摘されていますが、この飽和脂肪酸と心臓疾患との関連を疑問視する研究結果も数多くあり、レッド・ミートと心臓疾患の関係性はいまだ明確ではありません。

また、レッド・ミートの発がん性も長年にわたる研究で指摘されています。国際がん研究機関(IARC)による2015年の報告書によると、レッド・ミートの発がん性は動物実験上では十分な証拠が得られており、レッドミートは「ヒトに対しておそらく発がん性がある」と判断した上で、特にレッド・ミートの摂取量が多いほど大腸癌の発がん性は高まると指摘します。

ここで注意すべきは、レッド・ミートを大量に摂取することで心臓疾患や発がん性のリスクが高まるということ。したがって、肉類を比較的多く摂取する欧米では日本などに比べてこのレッド・ミートの健康リスクへの関心は高く、欧米での昨今の肉食離れの背景には環境問題への関心とあわせて健康リスクへの配慮があると考えられます。

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「バランスのとれた議論を」
農業界からは反論が

環境問題と健康リスクへの懸念から欧米で肉食離れ、とくにヴィーガンと呼ばれる完全菜食主義が広がるなか、農業界などからはこうした急進的な動きに対して反論の声が上がっています。

専門家が警鐘 レッド・ミートの摂取は健康に不可欠
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アイルランドの王立研究機関の研究者は、野菜や果実の品種改良において個体の人為的な選別で外見の均一性が重視された結果、農作物の栄養価は乏しくなっていると指摘。植物性食品では、過去50年間でビタミンをはじめとした主要な栄養価が50%以上下落しているとして、植物性食品に極端に依存する食生活に疑問を投げかけます。また、週に2〜4回程度の適度なレッド・ミートの摂取は心臓病やガンの予防に効果的であるとして、菜食と肉食のバランスをとることの重要性を指摘しています。

また、イギリスではレッド・ミートに対する極端なネガティブキャンペーンに対して、農業者や流通小売業者で構成される業界団体が大規模な対抗キャンペーンを実施しています。

レッド・ミートキャンペーン 1700万人に影響
202073 Farming UK

レッド・ミートの健康リスクに関するメディア上での誤った認識に対し、「よりバランスのとれた議論」を求めているこのキャンペーン。インスタグラムで数十万人のフォロワーを持つT Vタレントが料理をつくりながらレッド・ミートについて解説をしたり、若者層に影響力のあるインフルエンサーとコラボしてレッド・ミートを使った簡単なレシピを紹介するなど、SNSをフル活用した戦略でこれまでに累計1700万人へのアプローチに成功しています。

メディアなどでの肉食離れの推奨をめぐっては、以前本連載でもお伝えした、ニュージーランドの公教育カリキュラムでの肉類を摂取しない「ミートレス」の日の推奨に対して国内農家から強い反対論が主張されるなど、多くの国で対立が生じています。気候変動に与える畜産の影響や、レッド・ミートの健康リスクを冷静に分析しながら、社会にとっても人間にとっても持続可能な肉食文化を実現するべく、まさにバランスのとれた慎重な議論が各国で求められます。

2020年727日執筆

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プロフィール
市村敏伸(いちむら・としのぶ)
一橋大学法学部在学中。生まれながらの食いしん坊で、佳い食あふれる世の中に寄与するための行政的アプローチに関心を持つ。大学在学中はこれまで農業系学生団体に所属し、主に農業現場の課題のリサーチを行なってきた。食べることをこよなく愛し、一日3食の充実に執念を燃やす。
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