2020年3月17日

五島の魚プロジェクト 未利用魚でフィッシュハム!

フードジャーナリスト 佐々木ひろこ

「五島のフィッシュハム」というスタイリッシュなパッケージの商品が、昨年11月より食品スーパーの「マルエツ」の冷蔵棚に並んでいます。これは、長崎県は五島で揚がる「未利用魚」――獲れても流通しづらい魚――を商品化することで、島の課題を解決しようというプロジェクトから生まれた商品です。このハムの開発に至るまでのバックストーリーを、「シェフス・フォー・ザ・ブルー」発起人の佐々木ひろこさんが、キーパーソンとして製品づくりに関わった浜口水産の濱口貴幸さんとTポイント・ジャパンの瀧田希さんに聞きました。

捨てられている魚を活用して
離島の海を支えよう

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美しい五島の海。

五島列島は、長崎県から西に100㎞の地点にある、大小140もの島々からなる列島です。東シナ海に広がる広大な大陸棚のなかに位置し、周りを取り囲むのはプランクトンが豊かな美しい海。暖かい海流、黒潮と対馬海流が、南方から様々な種類の魚を運んでくれることでも知られています。そんな環境にあって、もちろん漁業が中心産業である五島ですが、獲った魚を輸送する際の距離(時間)とコストという離島独特の構造的な問題も抱えています。浜口水産は、その五島で練り物などを作る水産加工会社。その4代目として家業を営む濱口貴幸さんは言います。

「クエやタイ、イトヨリなど、高級魚種なら輸送費を払って大都市に運んでも利益を得られるため売れますが、そもそも高値がつかない魚種は水揚げしても売れない。だから、船や港から捨てられている魚もすごく多いんです」

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浜口水産の濱口貴幸さん。

そんな「未利用魚」※に付加価値を与え、商品化することで地域の問題に貢献しようというプロジェクトが、2018年6月に立ち上がりました。中心となったのはTポイント・ジャパン。7000万人の会員が利用するTカードのインフラや購買データを活用し、地域の課題に役立てることを目的とした「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」の対象として、五島の未利用魚に白羽の矢が立ったのです。

Tポイント・ジャパンの総合企画室プロデューサー、瀧田希さんは言います。

「地域の課題のなかでも一次産業をテーマにリサーチした結果、課題が大きくかつ企業として取り組むことに意義がある分野は漁業だと思ったんです。そこで内閣府などにヒアリングを重ねるうちに、離島、特にこの五島の問題に着目しました」

※「未利用魚」とは:人気がなくて捨てられる魚以外にも、小さすぎる魚、産卵期などおいしくない時期の魚、鮮度が落ちやすい魚、サイズが揃わない場合、獲れる量が不安定で流通に乗らない魚など、様々な「未利用魚」がある。

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五島の代表的な未利用魚は、アイゴ、ブダイ、ニザダイ、イスズミなど。

「もったいない」「面白そう」
がモチベーション

「Tカード...」の特徴は、社会のさまざまな立場の人や事業者が共同でこの課題に取り組み、プロジェクトを進めるという独自のスキームにあります。今回のメンバーは、実際に商品を加工する地元事業者として五島の水産加工会社「浜口水産」、でき上がった商品を販売する流通企業として食品スーパーの「マルエツ」、商品開発にアドバイスを行う食のプロフェッショナルとして森枝幹シェフ、五島とのつながりを取り持つ行政機関として五島市役所、そして消費者の代表、かつ社会へのインフルエンサーとして、T会員7000万人のデータから選び出された12人の「魚介好きで食にこだわりのある」方々でした。

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「まずプロジェクトメンバーで五島を訪問し、フィールドワークを行うことからスタートしました。漁や市場を視察し実情を学び、このプロジェクトで目指す未来について議論のうえ、これから作っていく商品のコアアイディアを決めたんです」(瀧田さん)

作る商品を『フィッシュハム』と定めたのは、スーパー利用者をアルコールの購買行動で分類し、データを分析した結果「プレミアムビールをよく飲んで、洋風の素材を買って料理する人」というターゲット層向け商品ならばプロジェクトメンバー全員の希望にも沿っているし、味を決めやすいね、と話し合ったことからだそう。その後東京で何度もセッションを行い、試作と試食、議論を重ねながら商品の仕様を固めていきました。

濱口さんがこのプロジェクトに参加することを決めたのは、たくさんの魚を日々捨てている現状について、ずっと「もったいない」と思っていたからだと言います。

「本当にもったいないし、何か面白そうだ、と思ったこともありますね。ですが、参加してみたらとんでもなく大変で......。魚の内訳はブダイをメインにシイラ、トビウオなどを季節によって合わせることにしましたが、なかなか味付けがまとまらなかったんです。洋風の商品は初めてだったので。暗闇のトンネルを走っているような6か月を過ごした後、やっと五島産の塩レモンと魚醤、白ワインと、黒コショウをはじめ各種スパイスを合わせる今の配合に行きつきました」

減る一方の五島の魚
島に広がる危機感

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ただし、五島の漁業が抱える問題は未利用魚だけではない、と濱口さんは言います。ほとんどの魚が、どんどん獲れなくなっているのです。五島地区の総漁獲高は、平成29年~30年に8万5千トン。ところが、平成6年には約24万トンも獲れていました。※

※平成4年のデータ:平成17年度 長崎県水産白書
平成29~30年のデータ:第65次九州農林水産統計年報

関連記事はこちら→「はじめてのエシカルQ&A」日本人が食べている魚の自給率はどのくらいでしょう?

「獲りすぎ、気候の問題、湾岸整備のしすぎなど理由は色々あると思いますが、とにかくどんどん減っていますね。先代の父が話していましたが、30年前はマイワシを2トン買ったら1トン(おまけで)ついてきたくらい。それが次第に獲れなくなり、次にカマスも、アジも、ウルメイワシも、サンマ、スルメイカもと......。だから、捨てられてきた魚にも価値を見いだそうという今回のプロジェクトは魅力的に映りました」

海のことを、私たち消費者は知りません。これは五島に限らず日本の海すべてに共通する問題ですが、一見青く美しく見える海から、それと気づかぬうちに魚がどんどん消えているのです。今回のフィッシュハム開発のプロセスから学んだ濱口さんは、今後他の未利用魚を使った商品も作ろうと、仕入れる手はずを整えはじめました。未利用魚の利用は地域経済をすぐに大きく変えるほどのインパクトはないけれど、漁師の生活や海の環境に少しの余裕と好影響をもたらし、消費者に海の現状を知らしめることだけでも大きな意味があるはずです。

「マルエツさんで試食サービスをしていたら、ある主婦の方が『これおいしいじゃない。この魚って捨ててたの? もったいない!』って言ってくださったんですよね。プロジェクトを通じて、それを知っていただける場を作れただけでも意味があったなと思いました」(瀧田さん)

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スーパーマーケットの「マルエツ」にて。陳列は練り物や鮮魚ではなく、「お酒に合うおつまみ」のセクション。

魚をミンチにした後に水洗いして血や脂を流し、絞ってから製品化する業務用冷凍すり身とは異なり、新鮮な地元の魚を使ったすり身には旨味がたっぷり含まれています。だからこそ、化学調味料無添加でつなぎもなし。保存料なども使いません。100%五島の未利用魚で作ったフィッシュハムをおいしく食べて、五島の漁業と海の未来を応援しませんか?

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東京の直売店、浜口水産 豪徳寺店の店頭。「ばらもん揚げ」をはじめ店内で揚げる練り物も大人気。

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つなぎや保存料は全品不使用。地魚使用の商品には化学調味料も不使用。中央左にはフィッシュハムが。

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プロフィール
佐々木ひろこ(ささき・ひろこ)
食文化やレストランをメインフィールドに雑誌等に寄稿するフードジャーナリスト。2017年にChefs for the Blueを創設し、後に社団法人化。代表理事として東京のトップシェフ約30名とともに海洋資源の保全に向けた啓蒙活動に取り組み、様々なイベントを実施している。
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