2023年4月20日

大手スーパーも導入するWhywasteとは一体なに?スウェーデンで見てきたそのスゴさ

食品ロス問題ジャーナリスト 井出留美

今や、多くの人が食品ロスの問題に関心を持っていることでしょう。食品ロスは「もったいない」だけではなく、環境問題としても重要です。では、食品ロスを減らすためには、一体どのような取り組みが社会に広がらなくてはならないのでしょうか。食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんのナビゲートで、我々がお手本とすべき食品ロス削減の"最前線"をご紹介します。

コストと食品ロスを一気に解決
Whywasteとは一体なにか?

これまで世界各地を取材のために訪問しました。なかでも、今でもなつかしく思うのが、スウェーデンのゴットランド島です。映画『魔女の宅急便』に登場する街のモデルとなった、世界遺産の街・ヴィスビーがあります。

このゴットランド島に、大手スーパーチェーン・COOP(コープ)があります。COOPは、スウェーデン国内で最もサステイナブル(持続可能)な食品スーパーチェーンとして、2019年に表彰されました。

このCOOPが導入したアプリがWhywaste(ワァイウェイスト)です。このアプリは、B to B(企業間)で使われるもので、販売期限を自動的に管理することができるのです。

賞味期限が8日間の精肉や、賞味期限が30日間のソーセージやベーコンなどは、賞味期限ぎりぎりまで販売すると、お客さんが買って使おうとしたときには期限が切れてしまっている可能性があります。そこで多くのスーパーでは、賞味期限や消費期限の手前に「販売期限」を設けて、販売期限が過ぎたら商品棚から撤去しているのです。これはスウェーデンだけでなく、日本も同様です。

ところが、この販売期限を管理するのはとても大変です。スーパーマーケットには数千のアイテムがあるので、商品棚の期限を1つ1つ確認するのは、多くの時間や労力を費やし、従業員にとって大変な手間となっています。

そこでCOOPは、Whywasteを導入しました。これを使えば、アプリで全商品が管理できるので、どの商品が販売期限に近くなったか、すぐにわかるようになります。チェックマークがついているものは、まだ販売期限が来ていないもの。チェックとは別のマークがついていると「販売期限が来ています」「賞味期限が近いです」ということを示します。

そのため、従業員はすべての商品棚をまわって全商品を確認する必要はありません。チェックマークではないマークのものだけを見に行って、値引き作業をすればよいのです。

そして、販売期限が来ているものや賞味期限が近づいているものを見つけたら、今度は値引きの値段設定ができます。

COOPでは、このアプリを導入することによって、毎日1時間の労働時間を節約でき、一人あたり一日で5,000円の人件費節約となりました。

ゴットランド島にあるCOOPのマーカス・ウォルグレーン店長によれば、以前はマニュアルに基づいて商品を1個ずつチェックしていたものの、ミスを防ぐことはできなかったそうです。販売期限切れに気づかず、商品を捨てざるを得ないこともありましたが、Whywasteを導入したおかげで、今では捨てるものがほとんどないとのこと。

さらによいのは、値引率を一律ではなく、商品によって変えることで利益率が高くなったこと。すべてを「50%引き」にする必要はありません。夏だったら、バーベキューやグリルで使われるソーセージはよく売れるので、50%引きではなく20%引きにしても、お客さんに買ってもらえます。そうすれば、値引率を低くした分だけ利益を増やすことができます。

もちろん、食品ロスは以前の半分に減らすことができました。

COOPでは、Whywasteのアプリを、消費者向けのアプリであるKarma(カルマ)と連携させています。Karmaは、スウェーデンのスタートアップが開発したアプリで、スウェーデンを中心に、英国も含めて150以上の都市で展開されています。

Whywasteで値引きした情報が、そのままKarmaのアプリに届きます。すると、Karmaに登録しているユーザーは「あ、ここで肉が安くなっている」と見つけて、その場でオンライン決済をする仕組みです。利益のうち、約5%はKarmaを通じて社会貢献活動をおこなうチャリティへ寄付されます。

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マーカスさん

マーカスさんに、ちょっといじわるな質問もしてみました。

「値引きして店頭で売って、さらにKarmaと連動してアプリでも売って、それでも売れ残ったらどうなるんですか?」

さて、どうなるのでしょう?その答えは、拙著『北欧でみつけたサステイナブルな暮らし方 食品ロスをなくすためにわたしたちにできること』(青土社)を読んでみてください!

ちなみに、日本では株式会社スコープがWhywaste Japanを立ち上げ、有効期限管理ツール「セマフォー(Semafor)」というアプリ名で販売を始めています。今ではクイーンズ伊勢丹をはじめとした10企業で導入されているとのこと。食品小売業の方は、ぜひチェックしてみてくださいね。

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写真:株式会社ワンプラネット・カフェ

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プロフィール
井出留美(いで・るみ)
食品ロス問題ジャーナリスト。2016年の国会議員向け講演会をきっかけに食品ロス削減推進法の成立に貢献。『賞味期限のウソ』(5刷)ほか著書多数。第二回食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。
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