
今や、多くの人が食品ロスの問題に関心を持っていることでしょう。食品ロスは「もったいない」だけではなく、環境問題としても重要です。では、食品ロスを減らすためには、一体どのような取り組みが社会に広がらなくてはならないのでしょうか。食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんのナビゲートで、我々がお手本とすべき食品ロス削減の"最前線"をご紹介します。
IKEAの食品ロスを半減
ウィノウビジョンとは何か
2022年9月、ニューヨークで開催された食品ロス削減の会議に出席しました。
そこで、企業の成功事例として紹介されていたのが「イケア」です。ちなみに日本語読みでは「イケア」ですが、海外では「IKEA(アィキァ)」のように発音します。
この会議のなかで、イケアのチーフ・サステイナビリティ・オフィサーのカレン・フルグ(Karen Pflug)氏が強調していた成果が「食品ロス50%削減の目標を、ついに2021年に達成した」ということでした。
イケアは、どのような方法を使って、食品ロス削減を達成したのでしょうか。
イケアは、2017年に「2020年8月までに食品ロスを半減させる」という目標を掲げ「Food is Precious(食べ物は貴重)」という取り組みを掲げました。この時点で、イケアは次のように語っています。
「私たちは、2020年8月までに、食品ロスを50%削減するという目標を達成するために、順調に歩みを進めています。Winnow Vision(ウィノウビジョン)を使った初期段階から感じているのは、AIがその目標を、より早く、より正確に達成するのに役立つということです」
この「ウィノウビジョン」とは何でしょう?
これは、Winnow Solutions(ウィノウソリューションズ)という会社が2019年に発表した「食品ロス削減ツール」です。飲食店やホテルなどの厨房に、計測器としてAIを導入するというものです。イケアは、このAIツールを、各店舗の厨房に導入したのです。
厨房で発生する客の食べ残しなどの生ごみ量のデータは、この「ウィノウビジョン」によって正確に計測できます。
ウィノウビジョンは、単純に「量」を量るだけではありません。食品ロスを発生させることにより、何ドル分の経済損失を起こしているのか、その損失金額も換算します。失った金額を示すことにより、機器を使う厨房の当事者は「お金を失っている」「コスト削減しなくては」というモチベーションが上がります。
「計測」と「見える化」
では、ウィノウビジョンはどのように廃棄される食品を計測しているのでしょうか。
ウィノウビジョンでは食品ロスの重さを量ると同時に、設置されたカメラで生ごみを撮影します。そして、撮影した画像から、どのような食品が捨てられたのか情報を取得します。
具体的には次のような流れです。
1.ごみ箱の内容物の撮影:カメラでごみ箱の内容物をとらえ撮影。写真は必要な部分だけにトリミングする
2.変更点の検出:前回撮影した写真との違いを検出する
3.食品認識:食品認識モデルを使い、捨てられた食材を分類する
ウィノウビジョンの計測精度は80%以上とのことで、より多くのデータが収集されればされるほど精度は高まっていきます。
ウィノウビジョンは今でこそ立派な計測器ですが、開発当初はごみ箱の上にカメラを取り付け、粘着テープで巻いただけのものだったそうです。このシステムが食品ロス削減に力を発揮することがわかると、ハードウェアが改善され、洗練されたデザインへと進化していきました。
ウィノウビジョンを取り入れた企業は、食材のコストを年間で平均2〜8%削減できているとのことです。
イケアは、当初予定していた2020年8月に目標を達成することはできませんでしたが、翌年2021年には食品ロス50%削減を達成することができました。カレン氏の説明によれば、導入したお店同士、あるいは国同士で削減量を競い合い、互いに成果をあげていったそうです。
たとえばイケア・ノルウェー(IKEA Begen)では、導入して最初の12週間で食品ロスの廃棄が45%削減されました。これは年間126,200ユーロの節約になり、29.660食分の料理を節約したことになります。
食品ロスを減らすための具体的な方法はいくつもあります。その一つが「測る(量る)」「見える化する」ことです。ウィノウの事例は「計測」と「見える化」が、食品ロス削減の成果に確実に結びつくことを教えてくれています。
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