食品ロスの問題は「どう無駄なく再利用するか」というリユース・リサイクルの話題が注目されがちです。しかし、食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんは、最も重要なことはリデュース、つまり余剰な食品をそもそも出さずに食品ロスを減らすことにあると言います。では、リユースやリサイクルではない、食品ロス対策とは一体なんなのでしょうか。今回は「回転寿司での食品ロス対策」をテーマに取り組みの最前線を教えていただきます!
回転レーンをあえて回さない!
売上アップの食品ロス対策
回転寿司というと、お手頃価格で食べられるイメージがあります。気軽に行ける外食店として日本では人気ですね。
回転寿司店でアルバイトしている大学生に聞いたとき、衝撃を受けたのは「何回転かすると、レーンに残っている寿司は全部捨てる」という話でした。通常、回転寿司では、数回転しても客にとってもらえなかった寿司は、ネタが乾いてしまうので廃棄することが多いそうです。
回転寿司店でのアルバイト経験のある大学生に聞くと「寿司を表現できないほど捨てた」「お寿司を1日10貫、茶碗蒸しを3つくらい捨てた」「白米は残ってしまった分、毎日捨てている」「ネタ、シャリなどを大量に廃棄」「乾いているものやオーダーミスをしたものはすぐに捨てた」「お客が残すものやレーンで回っても誰も取らなかったお寿司を1日でゴミ袋3袋分」といった声が聞かれました。回転寿司店の現場ではかなりの量の廃棄が発生していることが伝わってきます。
そんな中、回転寿司チェーンの「魚べい」を運営する元気寿司(株)は「できたてをお客様に提供したい」という思いから、回転レーンを「まわさない」店舗を2012年、東京都渋谷区に開店させました。最近では回転レーンに寿司が回っていない店も増えたように思いますが、今から10年前に、すでにそのような取り組みを始めていたとは先進的ですね。
回転レーンを動かさない代わりに、魚べいでは注文を受けてから握るようにしました。お客さんはタブレットで寿司を注文します。そして、店は注文を受けてから寿司を握り、専用の特急レーンで握りたての寿司を提供するスタイルに変更しましたこの工夫によって、食品ロスが削減されたことはもちろん、なんと売り上げも伸ばしたのです(2017年5月10日付、朝日新聞)。
2019年3月12日付のAsagei Bizの記事によれば、元気寿司では1店舗あたり毎月4,000皿発生していた廃棄量が激減し、年間約1億円相当の食品ロス削減に成功したと報じられています。そして「まわさない」スタイルへの転換で、売上は平均で2割アップしました。その結果、2013年以降、元気寿司は「回るタイプ」の店舗を一つもオープンさせていません。
仕入れ量の予測で
常に新鮮な寿司を提供できる?
元気寿司は食材の仕入れ面でも転換を図りました。以前は「まぐろ150皿」など、売れそうな量を店員が感覚や勘で準備していたところを、当日の注文データを翌日以降の食材準備に活用し、売り切れる量の食材だけを仕入れるようにしたのです。その結果、売れ残り廃棄される寿司を削減することができるようになりました。
さらに、次のようなメリットも生まれました。
・注文量から正確な使用量を割り出すことができるので、回転レーンで回っている寿司の廃棄だけでなく、寿司になる前のバックヤードでの食材廃棄も削減できるようになりました
・時間帯別に商品の販売数を把握できるので、朝の準備段階で、昼までに使い切れる量だけを準備することが可能になり、どの時間帯でも仕込んですぐの新鮮な状態の商品を提供できるようになりました
こうしてみると「回らない回転寿司」の形態に変えたことで、食品ロスも減り、売上も上がり、商品の品質も向上し、店にとっても顧客にとっても良いことづくしのように見えますね。「回転寿司をあえて回さない」というように、今までの固定観念や先入観を崩してみることで、飲食店にとっては新たな道が開けるかもしれません。
参考情報
「元気寿司」が売上好調!"回らない回転寿司"時代の到来か(Asagei Biz、2019/3/12)
「回転しない寿司」路線から6年 元気寿司が思い知った"意外な効果"(昆清徳、ITmediaビジネス、2019/3/4)
飲食店バイトで捨てる食べ物 大学生170名に聞いてみた結果は?(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2018/1/14)
飲食店でバイトする学生はどんな食べ物をどれくらい捨てているのか(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2017/5/1)
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