2022年7月20日

一日100食限定のステーキ丼専門店 「佰食屋」が持続可能である理由

食品ロス問題ジャーナリスト 井出留美

食品ロスの問題は「どう無駄なく再利用するか」というリユース・リサイクルの話題が注目されがちです。しかし、食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんは、最も重要なことはリデュース、つまり余剰な食品をそもそも出さずに食品ロスを減らすことにあると言います。では、リユースやリサイクルではない、食品ロス対策とは一体なんなのでしょうか。今回は「飲食店での食品ロス対策」をテーマに取り組みの最前線を教えていただきます!

一日限定100食限定の飲食店
開業の裏にあった思いとは

1日100食限定でおいしい国産牛ステーキ丼を提供するレストラン、「佰食屋」をご存じでしょうか?とろけるようなお肉の味に惹かれ、地元の京都はもちろん、全国にファンがいます。

ランチ営業のみで、メニューは3種類。そして、飲食店にもかかわらず、冷凍庫はありません。お店で働いている人は、毎日18時までに退社でき、有給休暇も100%取得できます。まさに、あらゆる面で飲食店の常識を覆しているお店と言えるでしょう。

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佰食屋の国産牛ステーキ丼(佰食屋提供)

佰食屋は、その思い切った経営方針長時間労働が当たり前の飲食業界に新しい風を吹き込み、これまで数々の賞を受賞しました。

創業者の中村朱美さんは、全国から講演依頼がひきもきらず、テレビや新聞などのマスメディアに何度も取り上げられています。大手飲食チェーンの経営者が「うちの会社の方が、提供食数は億単位だし、雇用人数も万単位なのに(メディアに取り上げられるのは佰食屋)」とやっかむほどです。

すが、数が多いことを誇る価値観は、高度経済成長期の負の遺産であり、持続可能な社会への道を阻む要因なのではないでしょうか。

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中村朱美さん(佰食屋提供)

中村朱美さんは、もともと起業が目的でお店を立ち上げたわけではありません。結婚して、夫の作るステーキ丼があまりに美味しかったので、みんなにも食べてほしいと思った純粋な気持ちが動機でした。

そもそも、商売の原点は、自分がよいと信じるものを人に勧め、その商品やサービスとお金を交換するというシンプルなもので、食事の提供数や雇用人数を誇ることが目的ではないはずです。

そして、中村さんは夫が作るおいしいステーキ丼を食べてほしいいう一心から、脱サラして「佰食屋」を開業しました。

1日100食限定、ランチ営業のみ。このような経営方針を選んだのは、自身の幼いときの体験に基づきます。

父親がホテルのレストランのシェフとして働いており、母親は同じレストランで接客をしていました。飲食業界で働く経験のある両親からは、何度も「飲食店で働いたらあかんで。大変やから」と言われていました。毎晩のように夜遅く帰ってくる父親を、2つ年上の姉と待っていました。当時の願いは「家族全員で晩御飯を食べたい」だったそうです。

だからこそ、中村さんスタッフが持続的に働ける環境づくりを目指して、あえて提供数を減らし、営業時間もランチのみに絞っているのです。

食品ロスを徹底的に削減!
佰食屋の4つの取り組み

そして、佰食屋のもう一つの特徴は、食品ロスさない点にあります

この要因は、

1)メニュー数を3品のみに絞る
2)
100食限定にする
3)整理券制にする
4
食材の歩留まりを上げる

つです。

まず、メニューが多ければ多いほど、余分に食材を準備しなければなりません。そしてメニューが多い分、お客さんの注文も分散するため、注文されずにロスとなる食材が多くなります。そこで佰食屋は、メニューを3品のみと徹底的に絞っていますしかも、100食限定ですから、仕入れる食材の量はかなり抑えることができます。

また飲食店では予約のキャンセルによって、大量の食材廃棄が発生してしまいます。そこで、佰食屋は、朝の決まった時間に整理券を配布することで、お店に足を運んでもらいやすい工夫をしています。その結果、佰食屋のキャンセル率は0.1%を切るほどになりました。

さらに、食材の、部位ごとではなく、塊で購入し、歩留まり90%程度使うようにしていますミンチにする長時間煮込むといった面倒ことでも、店で手間をかけてやることで歩留まりを上げる、すなわち食品ロスを減らすことができます。

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塊で丸ごと購入する国産牛肉(佰食屋提供)

中村さんの幼い頃の思い出から約30年経ちました。はたして飲食業界の働き方は変わったのでしょうか。今でも飲食業界について報じられることと言えば、低賃金、朝から深夜までの長時間労働の問題です。現場では、土日祝や年末年始に休めない、子どもの行事に参加できないという声が聞かれます。

外食産業では、コロナ禍で営業がストップしたため、一時的に食品ロスは減りました。ですが、経済活動が正常化するなかで、これからはロスが再び増えるかもしれません。

中村さんは以前、テレビ取材で「夜営業もやれば、もっと儲かるんじゃないですか」という質問を受けたことがあります。それに対して、中村さんは「それは私たちの働き方ではありません」と答えました。

中村さんは「食品ロスゼロこそ、人生100年時代に必要な、持続可能な飲食店」だと語ります。

全ての飲食店が佰食屋のような働き方であれば、働く人たちは、どれほど幸せでしょう。そして、その幸せな気持ちは、来店するお客様にもきっと伝わります。

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プロフィール
井出留美(いで・るみ)
食品ロス問題ジャーナリスト。2016年の国会議員向け講演会をきっかけに食品ロス削減推進法の成立に貢献。『賞味期限のウソ』(5刷)ほか著書多数。第二回食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。
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