食品ロスの問題は「どう無駄なく再利用するか」というリユース・リサイクルの話題が注目されがちです。しかし、食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんは、最も重要なことはリデュース、つまり余剰な食品をそもそも出さずに食品ロスを減らすことにあると言います。では、リユースやリサイクルではない、食品ロス対策とは一体なんなのでしょうか。今回は「スーパーでの食品ロス対策」をテーマに取り組みの最前線を教えていただきます!
食品ロス削減で売上もアップ!
スーパー・ハローズの事例
岡山を拠点に中国・四国地方でスーパーマーケットを展開する「ハローズ」という企業があります。ハローズは、持続可能なフードバンクへの商品提供の仕組み「ハローズモデル」を開発し、同業他社や食品メーカーへの普及に貢献したことで、令和2年度の「食品ロス削減推進大賞 内閣府特命担当大臣賞」を受賞しました。
ハローズが目指しているのは、食品の廃棄率削減です。値引き販売もしながら、できる限り売り切る努力をしています。その甲斐あって、2016年には0.8%だった廃棄率は、2020年には0.5%まで削減できました。商品管理室長の太田光一さんは「一般的なスーパーであれば廃棄率は1%ほどです」と語ります。
私自身も、かつてあるスーパーの営業部長に廃棄率を聞いたことがあります。その時の答えは、なんと20-30%!。
これは2月3日の節分に販売する恵方巻の廃棄率です。しかし、その方は「他の惣菜も廃棄率はこれくらい」と話していました。
食品ロスの講演や執筆をしていると「食品ロスを減らすと経済が縮むから減らしちゃいけない」とおっしゃる方がよくいらっしゃいます。「食品ロス削減は理想論であって、たくさん作って余ったら捨てるほうが、経済合理性があるのだ」という理屈です。
では、ハローズの廃棄率削減の取り組みも経済的な合理性がないのでしょうか?ハローズの廃棄率と売上高・粗利率の関係を見てみましょう。
2016年から2020年にかけて、ハローズの廃棄率は右肩下がりに下がっています(下記グラフ左)。それに対して、売上高と荒利率は右肩上がりに上がっていることが分かります(下記グラフ右)。
グラフ:ハローズ提供
このように、食品ロスを減らす(Reduce)一方で、利益を拡大させることは可能です。食品ロスの削減と経済の縮小は必ずしも結びつかないのです。
フードバンクへの提供強化
「ハローズモデル」とは?
ハローズは、2015年からフードバンクへの食品提供を始めています。提供しているのは、ラベルが汚れたり、包装不良だったりなどで販売できない食品です。現在は、岡山県・広島県・香川県・愛媛県・兵庫県・徳島県の全99店舗が、子ども食堂やホームレス支援団体に提供しています。
毎日引き取りに来る団体には、青果物や精肉加工品、デイリー食品や惣菜、菓子などを提供しています。最近では冷凍食品やアイスクリームなどを提供することもあるそうで、毎月の提供数量は20トン(元売価換算で2,000万円相当)となっています。
当初はフードバンクに提供する食品は、ハローズの物流センターに集約して、各フードバンクに取りに来てもらっていました。しかし、フードバンクへの提供量が増えたため、フードバンク施設の近くの店舗へ直接引き取りに来てもらう「ハローズモデル」に変更しました。このモデルにすることで、フードバンク側の負担が軽くなったそうです。
環境配慮の原則では「3R」(スリーアール)が重要と言われています。
3Rの優先順位は、最優先がReduce(リデュース:減らす)、次がReuse(リユース:再利用)、最後がRecycle(リサイクル:再資源化)です。
ハローズでは、値引き販売をしながら、フードバンクへの提供でReuse(リユース:再利用)することにより、Reduce(リデュース:減らす)に繋げています。
全国のほとんどの小売店は「販売機会ロス」を優先し、商品が足りなくなることを恐れ「食品ロス」対策は二の次になっています。「リデュース:減らす」が最優先で、最もコスト削減・エネルギー削減できるということを心に留めていただきたいと思います。
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