
羅臼昆布は、2年の歳月をかけて知床で育まれた自然の恵み。羅臼の漁師は、昆布が太陽を浴びて栄養たっぷりに育つように、手間をかけて育てます。水揚げしたら漁師の仕事は終わりかと思いきや。仕事はまだまだ続くというのです。引き続き、北海道・昆布大使の松田真枝さんの案内で、羅臼漁港にある昆布漁師の仕事場へ。
【昆布のテロワールを訪ねて】
解説・松田真枝(昆布大使)
撮影・柿本礼子 編集・神吉佳奈子
羅臼昆布は手をかけるほどに
おいしくなる
昆布漁の見学のあと案内いただいたのは、通称昆布倉庫とよばれる羅臼漁協の水産物鮮度保持施設。
「羅臼昆布は、出荷まで100日もの時間をかけて出汁昆布に仕上げます。おてんとさまに当てて日入れをし、シワを伸ばしては熟成。これを何回も繰り返します。一つでも欠けると羅臼昆布にならない。その工程の多さが昆布のおいしさに結びつくんです」。昆布漁師の井田一昭さんが背丈ほどもある羅臼昆布を広げながら、説明してくれた。
羅臼の漁師は、天日干しのことを日入れという。海の中で育つ間、間引きをしたり雑草をとり、太陽をしっかり当てて大きく育てた羅臼昆布は、採取したあとも太陽の光を何回も当てて仕上げるという。一年を通して日照時間の短い羅臼で、昆布漁師にとって太陽の光はありがたい‶おてんとさま″なのだ。
「羅臼昆布が日本一の理由」
昆布産地の中でも、羅臼は加工の手間が多いことで知られています。日本一の昆布と名高いのは知床の自然環境だけでなく、その手間ゆえ。最初に昆布を天日に干して乾燥。その乾いた昆布に夜露を当てて湿らせてからくるくると玉状に巻きます。ひと晩おいたらほどたらシワを伸ばして広げます。一枚ずつ積み上げた昆布に重石をのせて、‶あんじょう″という熟成のプロセスへ。これを何度も繰り返し、23もの工程を経てようやく仕上がります。羅臼昆布は漁師の丁寧な手仕事によって最高級の出汁昆布になるのです。(松田真枝さん)
「昆布は海で出汁が出ないの何でだろう~」。以前話題になったこのフレーズ。答えは、出汁の旨味となるグルタミン酸は昆布の細胞膜の中にあるから。そのため海の中で生きている昆布から出汁は出ない。死んで乾燥させて細胞膜を壊すことで、グルタミン酸が外に出て、おいしい出汁がとれるというわけだ。
香り豊かな濃厚な出汁がとれると、とりわけ和食の料理人がこぞって使う羅臼昆布。最近では、海外でも最高級昆布として知られ、世界の料理人が使いはじめているという。
‶あんじょう=熟成″と‶日入れ=乾燥″を繰り返すことで、羅臼昆布ならではの色・艶を生み出し、旨味を凝縮させる。なんと気が遠くなるような手仕事の数々。料理人たちが最高級と認める理由は、昆布漁師が受け継いできた、その熟練した技にあるといえるだろう。
乾燥しても
昆布は生きている
仕上がった昆布は箱詰めされ、等級検査を受けた後、出荷まで羅臼漁協の備蓄倉庫で保管される。最新設備が整った倉庫の中では、昆布にとってベストな温度と湿度をキープ。水揚げから100日以上かけて旨味が引き出された昆布を、カビが生えないよう熟成させて、旨味をさらに引き出す。
「昆布は生き物、乾燥させても生き物」と井田さんが語るように、生の状態のときに飴色だった昆布は、熟成を経て次第に漆黒の色へと変化していく。
値段が高いのには
理由があった
井田さんに「かじってごらん」と渡された切れ端を噛みしめると、昆布の旨味と甘みがじわじわと口の中で広がった。羅臼昆布は加工の手間ひまゆえに噛み切れるほど柔らかく、そのまま齧ればおつまみ昆布になるのだ。
「羅臼昆布の出汁のすごいところ」
とにかく旨味と香りが強く、お湯をかけるだけで数秒で香りが立ってきます。旨味が強いので中華料理など昆布出汁のイメージから離れた料理にも幅広く使えます。出汁がらも食べられるので捨てないで。炒め物に足せばボリュームアップ。刻んでうどんやラーメンの具にするのもおすすめです(松田真枝)
羅臼昆布は旨味が強い分、小さく切って使えば少しの量で食材の味を引き出し、料理の味はまちがいなく底上げされる。出汁がら昆布だってそのまま食べられるから、捨てるなんてもったいない。そう、羅臼昆布はエシカルでおいしい。家庭料理にだって強い味方になるのだ。漁師の手仕事から生まれた昆布の旨味を、ぜひ一度味わってみませんか。
羅臼漁業協同組合
北海道目梨郡羅臼町船見町2-13
0153-87-2131
http://www.jf-rausu.com/
オンラインショップで取り寄せ可。天然羅臼昆布5,054円(1等級430g)、養殖の特選羅臼昆布4514円(1等級430g)。カットされる端の部分を袋詰めしたお徳用のパックのだし昆布700円(150g)。そのままパスタや炊き込みご飯に使えるあらびき羅臼昆布495円やおつまみ昆布615円(50g)もあり。すべて税込み。
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