2021年3月21日

羅臼の海は、昆布の森だった。「昆布のテロワールを訪ねて」①

料理研究家 松田真枝

日本人の食文化の原点ともいえる昆布。昆布の産地の95%は北海道ということを知っていますか。つまり和食の出汁は、北海道の海と自然があってこそ。昆布は海で育つ生きものなのです。当たり前だけど当たり前じゃない昆布のことを北海道の昆布大使、松田真枝さんに教えていただきます。ご案内いただいたのは、日本一の昆布産地、知床半島にある羅臼漁協。さあ、昆布の旅へごいっしょに。

【昆布のテロワールを訪ねて】
解説・松田真枝(昆布大使)
撮影・柿本礼子 編集・神吉佳奈子

羅臼昆布が育つ
知床半島へ

スクリーンショット 2021-03-21 10.12.07.png

羅臼漁協の山下公幸さん(右)と昆布漁師の井田一昭さん(左)の案内で漁場へ

お恥ずかしながら、羅臼の海を見るまで、いつも使っている昆布が海で育つ生きものだということをはっきりと意識したことがなかった。あまりにも身近すぎて、知らないことだらけの昆布のはなし。まずは、昆布の基礎知識を松田さんに教えてもらおう。

「羅臼の海で育つから羅臼昆布」

日本四大昆布といえば羅臼昆布、日高昆布、利尻昆布、真昆布。中でも羅臼昆布は、肉厚で濃厚な出汁を引き出す昆布の王様といわれています。昆布の味わいの決め手は、その土地に根付いた固有の品種や、気象条件、自然環境。品種や土壌で味わいが決まるワインと同じように、昆布にもテロワールがあるんです。(松田真枝さん)

利尻昆布と羅臼昆布では、そもそも種類が違うというわけ。羅臼昆布は、知床半島の羅臼沿岸でしか採れない『エナガオニコンブ』。そこで採れたものだけが羅臼昆布と名乗れる。他の産地に比べると漁獲範囲が狭く、その生産量は昆布全体のわずか1~2%。羅臼昆布は今や希少な海の資源となっているのだ。

世界自然遺産は、
昆布にとって最高の環境

スクリーンショット 2021-03-21 10.17.34.png

海に浮かぶブイの下で、昆布が2年もの歳月をかけて育てられている

北海道の東端、知床半島にある羅臼漁協へ訪ねたのは、昆布漁がはじまる直前の7月。羅臼昆布の漁場は、オホーツク海に面した世界最南端の流氷の接岸地であり、沖では海洋深層水が湧き出ているという。

乗り込んだ昆布漁の船から見渡すと、漁場のすぐ目の前に知床半島の山々が連なり、原生林が広がっていた。山と海がつながっていることを実感。

「1月下旬になるとこのあたりに流氷がやって来ます。この流氷が運ぶプランクトンが豊かな海をつくり、秋になると鮭が海から川に戻り遡上してきます。その鮭をクマやワシが食べ、その糞が山の土の栄養となって森をつくり、ミネラルたっぷりの湧き水が海に流れこむ。そうやって海と山の恵みが循環して、羅臼昆布が育つ風土をつくるのです」。そう教えてくれたのは、羅臼漁協・山下公幸さんだ。海と山が接近している知床半島は、生きものにとってまさに最高の環境なのだ。

天然昆布の
美しさに感動

スクリーンショット 2021-03-21 10.19.57.png

昆布漁の船から箱めがねを使って海中をのぞいた美しい景色

船は羅臼昆布の漁場へと向かう。昆布漁師の井田一昭さんの先導で、最初に着いたのは、岸に近い水深4メートルほどの天然昆布の漁場。井田さんに渡された箱めがねでのぞくと、海底の岩礁に張り付いた昆布の根が上に向かって大きく伸びて、ゆらゆらと揺れていた。そこはまるで昆布の森だった。

「天然昆布は絶滅危惧種」

天然の羅臼昆布の水揚げ高は、海温などの自然環境の変化を受けて毎年激減しています。流れ着く流氷は冬の恵みであると同時に油断ならないもの。流氷が溶けて天然昆布を根こそぎ引きずりとっていくのです。天然昆布は、今やまぐろと同じく絶滅危惧種となりつつあります。(松田真枝さん)

野菜を育てるように
海の畑で昆布を育てる

スクリーンショット 2021-03-21 10.22.02.png

ロープを引っ張り間引きや雑草とりをして、大きく育てるのが養殖昆布

次に向かったのは、水深20メートルほどの沖合いにある養殖昆布の漁場。天然昆布は海底の岩礁に自然に着生して海面に向かって育つが、養殖昆布の成長は真逆。種苗をロープに着床させて吊るし、海底へ向かって伸びるように育てる。そのため、流氷がやって来たらロープごと流氷の下に沈めて、根こそぎ引きずられるのを回避することができるのだ。

さらに大きく育ってきたら、船の上から間引きをしたり、昆布の間に生える雑草をとったり、太陽があたるようにロープの位置を調整したりと、まるで畑で丹念に野菜を育てるように昆布を育てるという。

サスティナブルな
昆布漁で海を守る

スクリーンショット 2021-03-21 10.23.47.png

2年かけて育てた羅臼昆布。乾燥する前の昆布の迫力たるや

漁期は7月中旬から8月下旬までの1ヶ月、1日に獲れる時間も厳格に定められおり、使う道具は箱メガネと昆布棹のみ。羅臼の昆布漁師は環境に負荷をかけないで、知床の自然を守る昆布漁を続けている。

「羅臼昆布は2年草。だから厚みがあり、濃い出汁がとれるんです。2年目の夏、昆布の両脇のヒレの部分の色が黄色っぽくなり、枯れてきたらやっと採り時。そりゃあずっと世話して採るんだもの、そのときはうれしいよー」と、井田さんは語る。

昆布が幅25cm、長さ3m近くにまで育ったらようやく採取。箱メガネで海底をのぞき込んで、2年ものの昆布を見分け、「マッカ」と呼ばれる昆布棹で巻いて、船に積み上げていく。目の前で井田さんが棹1本でねじりあげた昆布は、圧巻の迫力だった。

購入した昆布に‶天然″と書いていなければ養殖昆布。つまり、家庭で使う出汁昆布はほぼ養殖にもかかわらず、その手間を一度でも考えたことがなかった。

養殖昆布を育てることは、なんと手間のかかることなのかとため息をついていたら、「昆布漁師の仕事はこれからです」と井田さん。昆布を育てて採ったら終わりじゃないの!? →続きは後半へ

スクリーンショット 2021-03-21 10.25.35.png

海中から引きあげたばかりの昆布を見て、海で育つ生きものだと実感

羅臼漁業協同組合
北海道目梨郡羅臼町船見町2-13
0153-87-2131
http://www.jf-rausu.com/
オンラインショップで取り寄せ可。天然羅臼昆布5,054円(1等級430g)、養殖の特選羅臼昆布4514円(1等級430g)。カットされる端の部分を袋詰めしたお徳用のパックのだし昆布700円(150g)。そのままパスタや炊き込みご飯に使えるあらびき羅臼昆布495円やおつまみ昆布615円(50g)もあり。すべて税込み。

※本サイトに掲載の文章の部分的な引用を希望される場合は、サイト名・記事タイトル・著者を明記の上でご利用ください。また引用の範囲を超える文章の転載・写真の二次利用については編集部の許諾が必要です。

プロフィール
松田真枝(まつだ・まさえ)
北海道生まれ、北海道在住。料理研究家。札幌で北海道の食材を使ったイタリア料理教室「クチナイト」を主宰。2016年日本昆布協会昆布大使に任命されたことを機に、昆布の産地を巡り、さらに富山、大阪、沖縄など、北海道から昆布が運ばれた「昆布ロード」の中継地点を訪ね、各地の食文化と結びついた昆布食の聞き書きを続けている。
松田真枝の記事一覧

最新記事

人気記事