2021年3月24日

「食肉大国」中国で代替肉は根付くのか?

北海道大学大学院 市村敏伸

エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が上がっているのでしょうか。
一橋大学在学中で、佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは「『食肉大国』中国で代替肉は根付くのか?」。ニュースのまとめ翻訳に興味がある方は、ぜひリンク先(※英語)をご覧ください。

代替肉は一過性のブーム?
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食肉大国"の代替肉事情

世界最大の14億人以上の人口を抱える中国は、世界最大の食肉消費国でもあります。OECDの統計によると、全世界の食肉消費量のうち、中国での消費はその28%を占め、とりわけ豚肉消費量に占める割合は50%にも上ります。

この連載では世界各地で進む代替肉の開発や市場拡大の動向を繰り返し取り上げていますが、代替肉隆盛の波は「食肉消費大国」中国にも確実に押し寄せています。

その背景を見ていくと、畜産業による環境問題への懸念や、コロナ禍による健康意識の高まりなど、欧米に共通する要素も多く見られますが、中国特有の事情も存在します。それが、2018年頃から中国で流行しているアフリカ豚熱(ASF)の問題です。

ASFは豚やイノシシの間で感染が広がる致死率の高い感染症で、中国では家畜の豚の間でASFの流行が続いています。中国当局の統計によると、2019年から2020年の1年間で豚肉の卸売価格は倍以上に高騰しており、食肉価格の高騰も代替肉の台頭を後押しする要因となっています。

しかし、米国農務省が今年1月に発表した報告書によると、中国における"畜肉"の消費量は今後も増加の一途を辿ることが予想されています。

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出典:USDA Foreign Agricultural Service

このグラフによれば、ASFの流行によって2019年から2020年にかけて一時的に中国での食肉消費量は減少したものの、2021年にはそれ以前と同じ水準に戻ると予測されており、中国における代替肉の台頭は一過性のブームに過ぎないのでは?という疑問も出てきます。

中国はその巨大な市場ゆえに、代替肉産業にとっては極めて重要な地域です。しかし、果たして中国で代替肉は根付くのでしょうか?

相次ぐ大手メーカーの中国進出
背景に高まる健康意識と環境配慮

中国では代替肉や代替卵などのメーカーの進出競争が激しさを増しています。

米大手代替肉メーカーのビヨンド・ミートは、大手コーヒーチェーンのスターバックスと提携して、昨年4月から中国国内のスターバックス店舗で自社の代替肉を使用したメニューの提供を開始。さらに、中国のIT大手アリババが展開するスーパーマーケットでも自社商品の販売をスタートさせ、昨年11月には豚肉が人気の中国市場向けにビヨンド・ポークの販売を新たに開始しました

また、緑豆を原料とした代替卵液「ジャスト・エッグ」を販売する米メーカーのイート・ジャストも、中国の大手ファストフードチェーンのDicosと提携。ジャスト・エッグを使用したメニューの販売をDicosの店舗で開始しました。

中国国内のメーカーによる代替肉開発も活発で、香港に拠点を置くオムニ・ポークは豚肉の代替商品を生産しており、日本でも昨年5月から販売が始まっています。

代替肉台頭の背景には、ASFの流行による豚肉価格の高騰のほかに、環境問題への関心や健康意識の高まりも要因として指摘されています。

大手シンクタンクのマッキンゼー&カンパニーは昨年5月に中国で消費者意識調査を実施。その結果によると、70%の消費者が今後は地球環境により配慮した商品を購買したいと回答。さらに約75%の消費者がコロナ禍以後は健康的な食生活を送りたいと回答していることが分かりました。

また、中国の政府系英字紙チャイナ・デイリーも、昨年9月中国での代替肉市場の動向を伝える記事のなかで「健康的で栄養価の高い食品への消費者の関心が高まるなかで植物性食品市場が成長している」と言及しており、中国では健康意識の高まりが代替肉を強く後押ししていることが分かります。

このように中国で台頭著しい代替肉ですが、この食文化は果たして中国に今後も根付くのでしょうか?

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「肉は"富の象徴"」
問われる環境問題への責任

英紙タイムによると、中国の1人当たりの年間食肉消費量は、1960年代には5kg未満だったのが、改革開放路線による経済改革をへた1980年代後半には20kgまで増加。そして、現在では1人当たり63kgの食肉を1年間で消費するまでになりました。

このように経済成長にしたがって肉類の消費量が増加してきた中国での意識として、英紙ガーディアンは、「豊かな生活とは肉を食べること」という中国の地方出身の男性の言葉を引用。また、この男性は、「都市部では代替肉が流行しているが、経済成長が遅れていた地方では今でも肉類への憧れが強い」とも語っています。

中国における肉類の根強い人気は肉類の輸入データからも明らかとなっています。

中国ではASFの流行で代替肉が人気を博す一方で、海外からの肉類の輸入量も大幅に増加しました。下のグラフは米国農務省が発表した中国の肉類輸入量の推移で、ASFの流行が深刻となった2018年以降、輸入量が急増していることが分かります。

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出典:USDA Foreign Agricultural Service

こうした海外からの輸入も活用しながら、中国では今後も肉類の消費が増加していくことが予想されますが、ここで懸念されるのが、中国による肉類の輸入と環境問題とのつながりです。

英紙ガーディアンによると、2020年の中国による肉類輸入量のうち43%はブラジルからの輸入でした。ブラジルは世界最大の牛肉輸出国でありますが、国内での過剰な家畜の飼育がアマゾンの森林破壊の原因となっていることが近年ヨーロッパなどから強く批判されています。

ブラジルから中国に輸出される肉類のうち、およそ70%は森林破壊の進行が懸念されるブラジルのアマゾン地帯やサバンナ地帯で生産されたもので、中国における肉類の消費拡大は世界規模で環境問題の深刻化をもたらす危険性があります。

中国は昨年9月、2060年までに二酸化炭素排出量をゼロにする「カーボン・ニュートラル」を達成する目標を掲げました。この背景には、トランプ政権下でパリ協定から離脱し気候変動問題における国際的なリーダーシップから後退したアメリカに代わって、主導権をにぎりたい中国政府の思惑も指摘されています

環境問題対策について国際的にも存在感を強めるなか、中国はブラジルにおける森林破壊との関連が指摘される肉類の消費にどのような対策をとるのか。2016年には政府が発表した食事摂取ガイドラインのなかで、肉類の消費を抑制することが推奨されましたが、都市部と地方ではこの問題への関心の差が大きいのが現状です。

こうした状況を踏まえ、今後の中国における代替肉の動向に注目が集まります。

2021年318日執筆

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プロフィール
市村敏伸(いちむら・としのぶ)
1997年生まれ、一橋大学法学部卒業。大学在学中にライター活動を開始し、現在は北海道大学大学院農学院に在籍中。専門は農業政策の形成過程に関する研究。
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