2021年1月11日

2021年、ミートフリー運動は世界に広まるか?

「ワールド・エシカルフード・ニュース」担当 市村敏伸

エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が上がっているのでしょうか。
一橋大学在学中で、佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは「2021年、ミートフリー運動は世界に広まるか?」。ニュースのまとめ翻訳に興味がある方は、ぜひリンク先(※英語)をご覧ください。

2021年注目の食習慣?
フレキシタリアンとミートフリー

みなさま、新年明けましておめでとうございます。2021年も本連載では、世界のエシカルな食にまつわる様々な動向を読者の皆様にお届けしていく所存であります。今年もどうぞ、エシカルフードニュースをよろしくお願い致します。

さて、2021年最初となる今回のエシカルフードニュースでは、イギリスを拠点に今月から始まったミートフリー月間「Veganuary」に注目しながら、世界各地のミートフリー運動についてお伝えします。

歌手のポール・マッカートニー氏が提唱した「ミートフリーマンデー」をはじめ、時と場合によって肉類を意識的に摂取しない食生活は、世界的に浸透しつつあります。基本的には肉類を摂取しながら、時によっては菜食主義を採るこうした食習慣は、「柔軟(フレキシブル)な菜食主義者(ベジタリアン)」という意味で、"フレキシタリアン"とも呼ばれます。

英・BBCによると、現在、イギリスでは肉類を日常的に食べる人でも、39%が意識的に肉類の消費量を減らしており、代替肉商品の売上の約半分はこうしたフレキシタリアンによる購買が占めていると試算されます。そして、今月から始まったミートフリー月間「Veganuary」などのミートフリー運動は、フレキシタリアン層のさらなる拡大へとつながるでしょう。

ミートフリー運動や、フレキシタリアンという新たな食習慣は、2021年の世界で広がりを見せるのでしょうか?その可能性を探るべく、今回は世界各地のミートフリー運動についてお伝えします。

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ミートフリー月間への参加者
過去最大の50万人に

ミートフリー運動は、2009年に歌手のポール・マッカートニー氏らが立ち上げたキャンペーンである「ミートフリーマンデー」によって一躍その知名度を高めました。ミートフリーマンデーはその名の通り、週に一度、肉類を摂取しない日を設けることで、畜産業や漁業の環境への影響を認識しようというもの。現在では、日本の内閣府の食堂でも、ミートフリーマンデーの影響を受け、週に2回、肉類を使用しないプラントベースの食事が提供されています

そして、英国を拠点に今月から始まったVeganuaryは、このミートフリー運動を1ヶ月にわたり展開するというより大規模なキャンペーンです。Veganuaryというキャンペーン名は、Vegan(ヴィーガン)とJanuary(1月)をかけ合わせた造語で、2014年のスタート以来、毎年1月に実施されています。

このキャンペーンでは、参加者に1ヶ月間、動物性食品を摂取しないよう呼びかけており、牛乳や卵なども食べることができないという意味で、従来のミートフリー運動よりもさらに厳格な菜食主義を求めています。

しかし、このキャンペーンへの参加者は年々増加しており、昨年は約40万人が参加。さらに、今年は参加者が10万人増え、合計50万人に達する見込みであると英紙・ガーディアンは伝えています。また、今年のキャンペーンには、食品世界最大手のネスレをはじめ、大手会計事務所のPwCやアーンスト・アンド・ヤング(EY)、大手メディアのブルームバーグなど、世界的な大企業の経営陣も相次いで支持を表明しています。

キャンペーンの拠点となる英国では、コロナ禍によるロックダウンが今なお断続的に実施されています。こうしたロックダウンによって、自炊の機会が増えたことで消費者の間で健康的なイメージの強いプラントベースの食事への関心が高まっていることも、今回の参加者増加の背景として指摘されています。

反対の声が相次ぐ
政府によるミートフリー推進

日本を含め、世界各地に広がるミートフリー運動ですが、一部の国では、政府がミートフリー運動を推進しようとするのに対して、強い反対の声が上がるケースも出ています。

ニュージーランド政府は昨年1月、中学校のカリキュラムで、週に複数回、肉類の摂取を意識的に減らす「ミートレスデー」を設けるよう指導する方針を発表しました。この方針は畜産業による環境への影響等を念頭に置いたものですが、これに対して、ニュージーランドの基幹産業である農業界は強く反発しています。

ニュージーランドは、農産物が輸出品目の過半を占める農業大国で、特にグラスフェッドと呼ばれる牧草主体で育てた家畜の畜産物は中国などで高い人気を誇っています。ロイター通信は、農家や一部の政党などから教育の現場で畜産業に対するネガティブなイメージを植え付けることは将来の産業の衰退につながりかねないと懸念の声が上がっていると伝えています。

世界有数の養豚国であるデンマークでも、政府の推進するミートフリー運動をめぐって昨年、一悶着がありました。デンマーク政府は国内の企業や事業所の食堂に対して、週に2日、ミートフリーデーを設けることの義務化を計画。しかし、昨年11月、この計画を任意性に変更することを発表します

この計画は2030年までに温室効果ガスの排出量70%減を目指す政府の目標達成のための一環でしたが、労働組合からの反発が強く、計画のトーンダウンを余儀なくされた形です。また、デンマークで生産される豚肉など畜産品の多くは海外へ輸出されることから、専門家からは、国内の畜産品消費量を減らすことと温室効果ガスの排出削減との関連性に疑問の声も上がっていました。

2021年にますます盛り上がりを見せる可能性もあるミートフリー運動ですが、畜産業の持つ環境への影響についての関心を高め、フレキシタリアンを含めた多様な食習慣への理解を広めるためには、強制を伴わない自発的なキャンペーンなどによる地道な活動が不可欠となりそうです。

2021年17日執筆

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プロフィール
市村敏伸(いちむら・としのぶ)
一橋大学法学部在学中。生まれながらの食いしん坊で、佳い食あふれる世の中に寄与するための行政的アプローチに関心を持つ。大学在学中はこれまで農業系学生団体に所属し、主に農業現場の課題のリサーチを行なってきた。食べることをこよなく愛し、一日3食の充実に執念を燃やす。
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