2020年9月28日

持続可能な有機畜産に挑戦する、釧路生まれ、釧路育ちのオーガニックビーフ

2020年9月、「釧路生まれ、釧路育ちのオーガニックビーフ」という新しい牛肉ブランドが産声を上げた。

牛肉ブランドといえば、松阪牛や米沢牛といった高級な黒毛和牛のブランドが有名だが、もちろんそれだけではない。和牛と呼ばれる特徴ある肉質の牛は黒毛以外にも褐毛和種、日本短角種、無角和種がいるし、また乳用種のホルスタインや、ホルスタインに黒毛和牛を掛け合わせた交雑種も生産されている。それぞれの牛に特徴的なブランドがある。

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ではこの釧路生まれ、釧路育ちのオーガニックビーフはどんな牛なのだろう?その答えはアンガス種。世界的に人気があり、特にアメリカではアンガス種の肉こそステーキにもっともよく合うということで愛されている品種だ。もともと角がないため、生産者からすると角に引っかけられたりして事故になることも少ないということから、飼いやすいとも言われている。ところがこのアンガス種、北米やヨーロッパで多く生産されているものの、日本で生産されるのは全肉用牛の1%にも満たない頭数なのだ。そういう意味では本当の意味での稀少な牛といっていいだろう。

釧路生まれ、釧路育ちのオーガニックビーフというのだから、一貫して釧路で育った牛と言うことはわかるだろうが、オーガニックビーフという言葉をみて「おお!」と思う人がいるかもしれない。そう、この釧路のアンガス牛は、オーガニックつまり有機畜産という生産方式を採っているのが最大の特徴だ。

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数年前、農林水産省がオーガニックつまり有機農業や有機畜産のあり方をみなおし、国連の持続的開発目標であるSDGsの推進に資するものと位置づけている。
具体的には、化学合成された肥料と化学合成された農薬の使用削減による水質汚染防止等が人々の健康や福祉につながること、有機食品の購入が持続可能な食料生産への貢献につながること、適切な土壌管理が気候変動の抑制につながること、生態系の維持・生物多様性に貢献できるということを挙げている。
(例えばこの資料をご参照:
https://www.maff.go.jp/primaff/koho/seminar/2019/attach/pdf/190726_01.pdf

これまでオーガニックまたは、有機農業のよさってなに?といっても、いまひとつ伝わりにくかった。有機農業は環境や人、そしていきものに配慮する生産方式であるということを国が位置づけたと言うことは大きな意義を持つと言っていいだろう。

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そのオーガニック、お米や野菜には取り組み事例も多いが、畜産物については難易度が高い。そのオーガニック畜産の中でも特に難しいのが牛肉と言っていいだろう。なぜ難しいかというと、オーガニックの牛肉という場合、牛に食べさせる餌が基本的に有機栽培されたものでなければならないということが第一に言える。有機農産物は一般品より高いのが普通だと言うことはご存じだろう。有機畜産の家畜に有機の飼料を与えると、飼料代が通常よりもおよそ2倍以上のコストになってしまう。

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第二に、オーガニックの牛というには、その家畜を産んだ母牛からしてオーガニックの基準で育てられていなければならないのだ。そうなると、生産者はまず2年かけて母牛をオーガニック基準で育て、子牛が産まれてからさらに2.5年くらいそだててようやく出荷できる。その間はずっとコストがかかるばかりで利益が出ない。そんなこともあって日本ではオーガニック認証を取得した牛肉は、長いこと2~3軒の生産者しか取り組んでいなかった。

そこに新たなオーガニックビーフが生まれたのが2年前のこと。北海道オーガニックビーフ振興協議会(略称:HOBA)という団体が後ろ盾となって取り組みをしてきた。

オーガニックの飼料を与えるのは大変に高くつく、と先に書いたが、この牛はその点に工夫をしている。たとえば日本で牛の餌といえば餌用のトウモロコシが主流だが、オーガニックの輸入トウモロコシは通常栽培されたトウモロコシの2~3倍程度の価格となる。もしこれを中心に与えて育てると、黒毛和牛よりも高く売らねばならなくなってしまうだろう。それはとても現実的ではない。

そこで、日本国内でオーガニックの飼料となるものを集め、牛に与えているのだ。

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その餌となるものはなんだろう。まず、飼料全体の50%以上を占めるのは釧路産の有機牧草だ。牧草を育てる畑全体で有機認証を取得することで、そこで放牧をしたり、大きく成長した牧草をロールにしたものを与えたりするのだ。じつを言えば、肉牛の有機畜産を行う際に世界的にもっとも行われているのがこの「草地をオーガニックにして、牧草を育てて食べさせる」という方式だ。外からトウモロコシや麦などのオーガニック穀物を購入するより、コストが低減できるからである。

ただし牧草だけで育てると、基本的には赤身中心の肉質となる。ヨーロッパや南米ではそうした放牧で育てた赤身肉こそがよいという価値観が強く、マーケットも赤身肉を歓迎するのだが、日本はそうではない。そう、日本の牛肉マーケットは霜降り肉を評価する傾向が強い。そこで、北海道の釧路で育てるこのオーガニックビーフには、少し脂を入れたり、味わいに市場性を持たせることはできないか。

こうした課題に挑戦したのが、愛知県で畜産用飼料の問屋である青山商店の青山次郎さんだ。

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通常、飼料の問屋といえば輸入トウモロコシや麦類、フスマや米ぬかといった輸入穀物を仕入れて配合し、販売するというものだが、青山商店はそうしたことを生業としているわけではない。青山商店が得意とするのは、食品製造を行う際に出てくる残渣や規格外品などの未利用資源を餌にするということだ。

その中でも特にこのオーガニックビーフの取り組みでは、オーガニックの未利用資源を集めていることが最大の特徴といえるだろう。

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オーガニックの未利用資源とはなにか。例えば埼玉県で有機醤油を製造する弓削多醤油では、醤油を搾った粕が出る。醤油は大豆と小麦からできているのでたんぱく質含量の高いよい飼料となる。

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そして、有機の醤油を絞って出た絞り粕はオーガニック格付をすることでオーガニックの餌となるのだ。

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またオーガニックの豆乳を製造する工場からは、オーガニックのおからが出てくる。オーガニックの小麦粉やライ麦粉を扱う製粉業者さんからは、様々な理由で廃棄するものが出てくるので、これもオーガニックの餌となる。

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また、ドライフルーツやナッツのオーガニック製品は輸入されているが、国内で選別をすると商品にならないものが出てくる。レーズンやイチジク、アーモンドやピーカンナッツといった栄養価の高い未利用資源だ。

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こうしたものも全部、オーガニック飼料となるのだ。

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「オーガニックなのに人が利用できない食材というものが存在しています。これをそのまま廃棄するなんてもったいないことです。それを牛や豚、鶏がたべてくれることで、私たち人間にとってありがたいオーガニック食材ができます。そのために、全国からこうした未利用資源を集めていきたいと思っているんです。」

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今年、青山さんはオーガニック飼料を供給するだけではなく、年間に20頭生産されるアンガス牛のオーガニックビーフの販売をすべて引き受けることを決意した。先に書いたようにオーガニックで肉牛生産を行うことは、生産農家の負担がとても重くのしかかってくる。さまざまな理由から、このオーガニックビーフの販売が頓挫しそうになっていた。

それを横から観ていた青山さんは「このオーガニックビーフの存在は特別な意味を持っている。なくしてはいけない取り組みだ」と感じた。そして、最初は「数頭の販売を引き受けますよ」という申し入れをした。そこからさらにズブズブっと状況に分け入ることになり、とうとう生産される20頭を引き受けることになった。

そこで、新たに彼が冠したブランドネームが「釧路生まれ、釧路育ちのオーガニックビーフ」なのである。

■釧路生まれ、釧路育ちのオーガニックビーフ
https://organic-beef.jp/

もうご存じの方も多いかもしれないが、2020年9月29日に放送予定の「日経スペシャル ガイアの夜明け」にて、この取り組みのことが採り上げられる。

■2020年9月29日 牛肉 新時代 ~目指すは美味くて安い!~
https://youtu.be/POQLPM-tP_4

「エシカルはおいしい!!」でもこのオーガニックビーフの取り組みについて、数回に分けてお届けしたいと考えている。

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