持続的な水産物を表すサステナブル・シーフードという言葉もゆっくりとだが、日本に浸透しつつある。今後は飲食店、それも若い世代がカジュアルに出かけることのできる業態の店での利用が進むことが望まれる。その有力な候補が東京・原宿にオープンした。
「エシカルはおいしい!!」でサステナブルシーフードについて書いてくれている佐々木ひろこさんが立ち上げたChefs for the Blue(シェフス・フォー・ザ・ブルー)をご存じだろうか。そうそうたる顔ぶれの料理人30名が、持続的な水産物の利用を推進するためにさまざまな取り組みをするグループだ。
Chefs for the Blue(シェフス・フォー・ザ・ブルー)
https://www.facebook.com/ChefsfortheBlue
その一員である、Sincere(シンシア)の石井真介シェフが原宿に拓いた新業態であるSincere BLUE(シンシアブルー)のオープニングレセプションにお招きいただいたので行ってきた。
シンシアといえば「たい焼き」が有名だ。魚のパイ包みというフレンチの古典的料理は、今日の日本において必ずしも大歓迎される料理というわけではない。それがたい焼きの装いになることでいきなり「わあっ」と歓声の上がる料理に変化した。
そのシンシア、予約困難店となっているわけだが、そのカジュアルラインとして新しく出店したのがシンシアブルーだ。ブルーは通常、海の意味で使われる。この新店は持続的な水産物つまりサステナブルシーフードを積極的に使っていくというコンセプトなのだ。場所はJR原宿駅の竹下口から歩いて5分かからない商業施設、JINGUMAE COMICHIの二階にある。
この日はプレス向けだったので、あちこちに識っている顔が!ていうか右隣は柴田書店の専門料理チームだし、左隣は料理通信の君島大先生ですよ。その斜め向かいには、日本の食やお酒のことを海外に発信してくれているメリンダ・ジョー女史も。
この店のコンセプトメイキングにもしっかり協力されたのだろう、佐々木ひろこさんが石井さんとともに立ち、まずは日本の水産物を巡る現状の説明を。
日本の総漁獲量は1984年の1282万トンをピークに減少を続け、2019年には1/3となる416万トンにまで落ち込んでいる。
この状況を改善するには水産物を利用する側、特に料理人の意識が変わらなければならない。それこそがChefs for the Blueの目的とするところだ。
持続的な水産物利用をするために有効な手段のひとつとして、エコラベルと呼ばれる認証が表示された水産物を選ぶということが挙げられる。世界的には持続的な漁獲をされた天然魚の認証であるMSC、養殖魚を対象とするASCがある。世界的にMSCとASCの利用は広がっているものの、日本ではこのMSC、ASC認証の取得は拡がっていない。そこで、MSCの予備軍的な位置づけとしてFIP(漁業改善プロジェクト)という取り組みをしているものも対象とする流れがある。
石井シェフのSincere BLUEでは、このMSC・ASC認証製品と、FIPに取り組む製品を積極的に取り入れたメニューを提供するというのがコンセプトだ。
ちなみにMSCまたはASC認証品を扱うことを公式に打ち出すためには、認証品を使用するだけではなく、その店舗自体も認証(COC認証という)を取得しなければならない。その手間とコストをきらって、そこまで徹底した取り組みをしていない店舗が日本では多いのだが、Sincere BLUEはCOC認証もちゃんと取得している。これは評価したいところだ。
さて、そのSincere BLUEの提供メニューだが、その内容だけではなく提供方法もなかなか興味深いものだった。というのも、本家シンシアにはなかなか気軽に行けないという人も、ここなら大丈夫、フレンチブッフェ4900円という価格なのだ。また、ブッフェと銘打ちつつ、希望する料理はサービスの人が都度持って来てくれるという仕組みになっている。
その圧巻の内容がこちらだ。
オードブル:
FIPビンチョウマグロと根セロリ
MSCホタテと岩海苔のクロケット
ASCパンガシウスのベニエ
ASCブラックタイガーのカダイフ
ASC燻製銀鮭とカリフラワーのムース
ASC牡蠣のムニエルごはん
オアカムロと春菊のソース
カルパッチョ
トウモロコシのスープ
ローストビーフ
うさぎの最中
バーニャカウダ蟹味噌のソース
これに特製ブリオッシュ(おいしかった!)がついてこの威容だ!
これらのオードブルで、おかわりしたいものを言えば持って来てもらえるというわけだが、、、いや、もうこのオードブル群でお腹いっぱいになるでしょう(笑)
しかも一品一品がちゃんとおいしい!当たり前だけど、シンシアクオリティ。厨房には「えっこんなに?」と思うスタッフが常駐し、手を動かしている。
そして、、、オードブルを堪能したあとのメインディッシュには、当然ながらアレが出てくるのだ!
メインディッシュ:
FIP瞬〆スズキのたい焼き
デセールも気を抜かない。
カモミールのスフレとフロマージュブランのアイス
このブッフェコースが4900円(税抜+サービス料5%)。ちなみに小学生以下は2000円、未就学児は無料(ただし土日祝日のみ)となっているので、本当に気軽に行くことが出来る店と言えるだろう。
ちなみに僕は石井シェフにこんな質問をした。
「現状ではMSCやASCの製品の多くは海外産ということもあって、生ではなく冷凍で販売されているものが多いはずです。冷凍品をレストランで使うということをどう考えますか。また、通常の冷凍品に比べるとコストも高くつくことをどうクリアしていますか。」
石井シェフはこう返してくれた。
「たしかに、一定以上のレベルのレストランでは冷凍を使用することはほとんど無いと思います。ただ、冷凍技術もレベルは高くなっているので一昔前のような『冷凍はまずくて使えない』ということではありません。むしろ意識の点で使いにくいということかもしれません。でも、この店のような業態でならまったく問題がありませんし、むしろ品質的に安定していますし、価格的にもちょうど納得できるラインにあるといえます。」
うちの会社では8年ほど前に、愛媛大学の野崎賢也教授を手伝ってサステナブルシーフード研究会という、料理人向けの勉強会をしていたわけだが、そこから状況は少しずつだが、前進しているなと感じた瞬間だった。
おいしくて楽しくて、持続的な水産物の利用を推進できるお店。Sincere BLUEはそういえるだろう。ぜひ足を運んでみて欲しい。
※本サイトに掲載の文章の部分的な引用を希望される場合は、サイト名・記事タイトル・著者を明記の上でご利用ください。また引用の範囲を超える文章の転載・写真の二次利用については編集部の許諾が必要です。