2020年9月 5日

コロナ時代の「エシカル・ショッピング」とは?

英国エシカルコンシューマー主筆 ロブ・ハリスン

イギリスはマンチェスターで1989年に雑誌「Ethical Consumer」(エシカル・コンシューマー)を創刊して以来、さまざまな商品・サービス・企業について独自の調査に基づく「エシカル度」を評価し、世界的なエシカル消費の潮流を牽引してきたロブ・ハリスンさんから、久しぶりのお手紙です。

コロナの感染拡大で厳しいロックダウンが敷かれたイギリスに暮らすロブ。エシカル消費の第一人者である彼は、コロナ禍による生活スタイルの変化がエシカル消費に与える影響をどう考えているのでしょう。

"たまたま"な、エシカル?

今年323日、イギリス政府は国民に対して、ステイホームによるコロナウィルスの感染拡大防止を呼びかけました。外出が許可されるのは1日1度の運動と、生活必需品の食料の買い物のみ。一部の規制は緩和されつつあるものの、レストランを含め生活維持に必要でない施設や店舗はシャッターを下ろしたままで、長距離の移動は7月まで禁止ということになりました。

この結果、私たちは慣れ親しんだ生活スタイルからの転換を余儀なくされましたが、新たな生活スタイルはこれまでよりはるかに持続可能(サステナブル)なものでした。たとえば旅客機によるCO2の排出は、一般消費者による行動としては地球環境への影響が最も深刻なものであったわけですが、これがピタッと止んだのです。メディアでは旅客機が地上滑走路にずらりと並ぶ様子を報じられ、空は静寂につつまれました。

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同時に、自転車の売り上げは60%増加。これは私たちが用いることを許される限られた移動手段から自転車を選んだ結果です。そして、衣類を買う機会も少なくなり、イギリスの大手衣類小売業者4社は、コロナの感染拡大以前から経営難にあったものの、この間に経営破綻の憂き目に遭いました。

さらに、有機野菜の直販を手掛ける農家をはじめとした約100の事業者を対象に行った調査によると、有機野菜セットの売上は、最高で昨年比2倍にも上ったそうです。スーパーマーケットの行列に並ぶことを敬遠する人々が、CSA(地元地域の農産品を買い支える仕組み)を利用するようになっているのです。

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大事なことは、彼らは自発的に"エシカル・コンシューマー"(倫理的な消費者)になろうとしたわけではないということ。彼らはこのご時世における適切な選択をしたに過ぎないのです。しかしそれが偶然にも、永きにわたって環境保護活動家たちが実践してきたライフスタイルと重なる結果となったということなのです。

格差の現実を知る

コロナの感染拡大によるもう一つの重要な帰結は、これまで隠され続けてきた、世界が抱える社会的格差の実態が明るみにでたことです。現代の消費社会を支える多くの労働者の賃金は非常に低く、彼らは適切な食料や住居をまかなう余裕すらないレベルにあります。例を挙げてみましょう。スペイン南部の農園では、コロナ禍のなかアフリカからの移民労働者が自分の部屋への"ロックダウン"を強いられますが、彼らへの食料の提供はなく、水道さえ通っていないような状態だったのです。私たち私たちは英国内で募金キャンペーンを実施し彼らへの支援に成功しましたが、こうした事例が浮き彫りにしたのは、先進国へ食料を供給する人々の生活がとても不安定であるという実態です。

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【スペイン南部の移民労働者】

こうしたコロナ禍における労働環境の問題では、ニュースで大きく取り上げられるような事例も発生しています。特に、劣悪な労働環境が感染者数の増加につながる、いわゆるクラスターとなるようなケースです。イギリスでは屠畜場や食肉加工場でのクラスターが相次いでますが、これは我が国に限ったことでなく米国やドイツでも同様の事態が発生しました。

イギリスでは衣類工場が高い感染率で衆目を集めており、さらにクラスター化した工場のなかには長年にわたって違法操業を続けていたものもあることが明るみに出ました。たとえばいまイギリスで成長著しいオンラインアパレル「Boohoo」(ブーフー)は、レスターの自社工場の劣悪な労働環境の実態が新聞やテレビで報道され続け、その結果、同社の株価は暴落しています。

コロナ禍によって浮き彫りとなった格差の問題はこうしたサプライチェーン上にとどまらず、現代社会に潜むさらに根深いレベルにまで及んでいます。米国での最近の統計によると、アフリカ系アメリカ人のコロナでの死亡率は白人の3倍にも上り、これが日本でも広く報道されているであろう、ブラック・ライブス・マター運動(BLM運動)にさらなる火をつけました。また、BLM運動は様々な消費者による運動を喚起することにもつながります。アフリカ系アメリカ人が経営する飲食店などへの消費を通じた支援や、ヘイトスピーチ対策を怠るフェイスブック社に対しての広告主によるボイコットなどがその好例でしょう。

ポストコロナの時代
エシカル・ショッピングは定着するのか?

いま私がここイギリスで頻繁に受ける質問が、このサステナブルな生活のあり方が一過性のものとならず、コロナ禍による種々の規制が撤廃された後も定着するのか?というもの。ある世論調査によれば、少なくとも40%もの方々がこの生活スタイルを続けていきたいと考えているそうです。
――なんとも嬉しい限りではありませんか!
また、8カ国で実施された国際的な調査によると、こうした消費者のサステナブルな行動の増加は我が国に限ったことでなく、世界的な傾向であるということも分かっています。

しかし、その一方で懸念があることも確かです。それはコロナ禍による不況と国際協調の足並みの乱れが、持続可能性への関心の芽を摘むことになりかねないということ。では、雑誌「エシカル・コンシューマー」を発刊する私たち自身どのような見立てを持っているのかといえば、コロナ禍により革新された生活スタイルの一部はこれからも定着すると期待しているというのが答えです。英国内のエシカル市場に関する私たち独自の調査によると、過去の不況がエシカル市場の成長に負の影響を与えたことは確認されていません。また、これも過去の調査から分かることですが、格差問題への関心はひとたび広まれば風化することがありません。そして、コロナの感染拡大が本格化する少し前の調査ではヨーロッパでの気候変動の問題への関心も非常に大きなものとなっていることが分かっています。気候変動への関心は特に若年層において高く、若き環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの行動が広く報じられたことも大きな影響を与えました。深刻な環境問題や社会問題に取り組もうとする意志はまさに倫理的な消費者による行動が志向するところであり、この社会に底流しつつある意識が消え去ることはありません。何より、消費者自身が主体的にこの問題意識を持ち続けていくことでしょう。

2020年7月31日 寄稿

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プロフィール
ロブ・ハリスン(ロブ・ハリスン)
エシカルコンシューマー・リサーチアソシエーション 代表
Ethical Consumer Research Association(ECRA)
イギリスのマンチェスターで1989年に雑誌Ethical Consumerを創刊。さまざまな商品・サービス・企業について独自の調査に基づくEthic Soreという尺度でエシカル度を数値化し、評価してきた。オンライン主体のメディアとなった現在も同誌の主筆を務めつつ、エシカル度の向上に取り組む企業へのコンサルティングや、国際的NGO、または複数の政府機関の顧問を務める。
エシカル先進国であるイギリスにおいても、その発言が重要視されるキーパーソンである。著書として「The Ethical Consumer」Rob Harrison(編著)
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