2021年2月10日

ヴィーガニズムはエシカルか?

英国エシカルコンシューマー主筆 ロブ・ハリスン

イギリスはマンチェスターで1989年に雑誌「Ethical Consumer」(エシカル・コンシューマー)を創刊して以来、さまざまな商品・サービス・企業について独自の調査に基づく「エシカル度」を評価し、世界的なエシカル消費の潮流を牽引してきたロブ・ハリスンさんから、久しぶりのお手紙です。
今回は、ロブにある問いを投げかけてみました。それは、「ヴィーガニズムと呼ばれる完全菜食主義はエシカルなのか?」ということ。さて、ロブからはどんな答えが返ってくるのでしょうか。

ヴィーガニズムはエシカルか?

肉食を避ける食習慣は、古今東西、多くの文化において見られてきました。そこには宗教的な事情が関係していることが多く、中世ヨーロッパのキリスト教修道院のコミュニティや、インドのヒンズー教徒などはその好例と言えます。また、宗教でなくとも、倫理的な見地から肉食が忌避(きひ)されることもありました。古代ギリシャの哲学者アリストテレスやプルタルコスらの思想や言論が、人々に影響を与えていたようです。

現在、「肉を食べない」という食習慣には様々な種類がありますが、大きく分けると4つに分類することができます。

1. ヴィーガン:あらゆる動物性食品を食べない
2. ベジタリアン:肉類は食べないが、乳製品や卵は食べる
3. ペスカタリアン:肉類は食べないが、魚介類は食べる
4. フレキシタリアン:基本的には肉類を食べないが、時々は食べる

肉を食べない食習慣について概要を確認したところで、話を先に進めましょう。

ヴィーガニズムの隆盛

過去20年ほどの調査の結果では、インドなどの特別な事情を持つ例外を除けば、自身をベジタリアンまたはヴィーガンであると自認している人は、全世界の人口のうち2%5%ほどとされてきました。しかし、過去5年ほどの間でこの割合に大きな変化が生じており、ヴィーガニズムは各地で盛り上がりを見せています。

2018年の「エシカル・コンシューマー」誌の調査では、イギリス人のうち、自身がベジタリアンもしくはヴィーガンであると自認している人が、それぞれ11%3%もいることが明らかになりました。2016年の結果と比較すると、ベジタリアンは52%の増加、ヴィーガンは153%増加しています。別のある調査では、2018年初頭の時点で、イギリスにおけるヴィーガンの割合は総人口の7%にも上っていると報告されています。

もちろん、こうした調査では実態を正確に捉えきれない部分もありますが、近年、世界各地で同じような傾向が確認されています。例えば、米国でのある調査によると、ヴィーガンの消費者の割合は、2014年の1%から2017年には6%にまで増加しました。伸び率は600%以上です。スウェーデン、ドイツ、ポルトガルなどの他のヨーロッパ諸国でも同様の結果が報告されています。

特筆すべきは、アジアでも同じような変化が見られる点です。中国の保健省は、2030年までに国内の肉類消費量を50%削減する目標を発表しました。香港では全人口の22%にあたる人々が菜食中心の生活を送っているといわれています。

全世界的に見ると状況はどうなっているのでしょうか。英国の調査機関GlobalData2018年レポートでは、世界の人口のうち約70%が今後、肉類を食べる量を少なくするか、肉食をやめることになるだろうと指摘しています。さらに、これらの調査結果の多くで共通しているのが、ヴィーガンのほとんどが若い年齢層であるということなのです。

ヴィーガンはなぜ広がっているのか?

複雑な社会的な変化、特に地球規模での変化が、一つの原因で引き起こされることはめったにありません。つまり、このヴィーガニズムの隆盛には非常に多くの要因があるといってよいでしょう。メディアなどでよく指摘されているのは、以下のような背景です。

1. Netflix制作のドキュメンタリー「Cowspiracy」をはじめとする、効率を最重要視した工場的畜産の現状を訴えるドキュメンタリーや映画の影響
2. ヴィーガンインフルエンサーのInstagramでの活動
3. ヴィーガンスポーツ選手たちの成功
4. YouTubeやイベントなどの影響

編集部注)
Cowspiracy: サステイナビリティ(持続可能性)の秘密 (2014)
地球の資源を破壊する工場式農業。地球環境保護を唱える環境団体がこの深刻な問題に触れない理由とは? 環境問題のタブーに鋭く切り込むドキュメンタリー。
- Netflixより

各国での調査結果などを見てみると、こうした要因について、もう少し科学的に考察することができます。

たとえば、ニュージーランドのヴィーガンたちに、ヴィーガンになった理由についてアンケートしたところ、次のような結果となりました。

-動物の権利(93.3%)
-環境(62.5%)
-健康(55.5%)

一方、米国では、同じ質問への回答の結果はわずかに異なり、次のような結果となっています。

-健康69
-動物保護68
-環境への懸念59
-味の好み52
-社会正義/世界の飢餓29
-宗教的信念22
-価格21

ここで「ヴィーガニズムはエシカルか?」という、冒頭の問いについて考えてみましょう。上のアンケート結果を見ると、個人の健康や価格というのは倫理的なこととは言えませんが、他の理由はまさに倫理性に関わる問題ですね。

ということで、「ヴィーガニズムはエシカルか?」と聞かれたら、「大体、そうです!」と答えるのが適切かもしれません(笑)。

もちろん、ほとんどのヴィーガンにとって、ヴィーガンになった理由をひとつの要因で説明することはできないでしょう。しかし、とりわけ、最近のヴィーガンの増加に大きな影響を与えているのが、気候変動の問題です。

環境問題への関心の高まり

私は以前の記事で、気候危機によって「どの食品が生産段階で最も多くCO2を生み出すか」、そして「それをどのように減らすことができるか」ということが重要になっていると説明しました。下のチャートはその際にも示した、食品ごとのCO2の排出量を示したものです。

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出典:http//shrinkthatfootprint.com/food-carbon-footprint-diet

2013年のイギリスでの調査では、こうした食品によるCO2排出の問題について、消費者の間で関心が高まっていることが明らかになりました。その調査結果によると、肉食による環境への影響を意識する消費者は、2007年の14%から2013年には31%にまで増加。特に、若者ではこの割合が8%から40%に急増しています。さらに、若者の​うち17%は肉をまったく食べていないそうです。

この問題には消費者だけでなく、多くの企業も関心を持っており、責任感を持って独自の行動を起こしている企業も出てきています。

その一例として、かつてベンチャー企業が中心だったヴィーガン食品の開発には、現在、大企業が数多く参入しています。英国で顕著な例は、スーパーマーケットのマークス&スペンサー、テスコ、セインズベリー、そして食料品店のプレタマンジェ、ワガママ、ピザ・エクスプレスなど。これでもほんの一部です。

こうした多くの企業の参入によって、イギリスでは高品質でリーズナブルな価格のヴィーガン商品があらゆる分野で発売されるようになりました。とりわけ、近年の植物性ミルクの分野での商品の充実度合いには目を見張るものがあります。

雑誌「エシカル・コンシューマー」で私たちが常に強調してきたのは、倫理的な市場を成長させるためには、メーカーや小売業者などの供給サイドが需要にきちんと応えることが重要だということです。なぜなら、これまでの歴史が示しているように、エシカルな食品が簡単に購入できて、かつおいしいのであれば、そこには必ずその商品を買い求める消費者の列ができるのですから。

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プロフィール
ロブ・ハリスン(ロブ・ハリスン)
エシカルコンシューマー・リサーチアソシエーション 代表
Ethical Consumer Research Association(ECRA)
イギリスのマンチェスターで1989年に雑誌Ethical Consumerを創刊。さまざまな商品・サービス・企業について独自の調査に基づくEthic Soreという尺度でエシカル度を数値化し、評価してきた。オンライン主体のメディアとなった現在も同誌の主筆を務めつつ、エシカル度の向上に取り組む企業へのコンサルティングや、国際的NGO、または複数の政府機関の顧問を務める。
エシカル先進国であるイギリスにおいても、その発言が重要視されるキーパーソンである。著書として「The Ethical Consumer」Rob Harrison(編著)
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