2020年1月 9日

エシカル度合いは国によって違う

英国エシカルコンシューマー主筆 ロブ・ハリスン

日本ではまだ、なじみの薄い「エシカル」という言葉を知るために。
イギリスのマンチェスターで1989年に雑誌Ethical Consumerを創刊し、さまざまな商品・サービス・企業について独自の調査に基づく「エシカル度」を数値化し、評価してきたロブ・ハリスンさんからの手紙です。
今回は、「エシカル」と一言でいっても、何に関心があるか、どういう行動を起こすかは、国によってばらつきがある、というお話です。

私はいま、1年で何度かはエシカル消費の問題が雑誌のメインタイトルを飾ることもあるイギリスで、この手紙を書いています。スーパーマーケットでは商品がエシカルに見えるように競い合い、多くの商品にはエシカル・ラベルが貼られています。

世界を見渡してみると、こんなケースはどの国でも起こっているわけでないことが分かります。とは言っても、私はエシカルなものが無かったり、この問題について議論されていない国には行ったことがないのですが。

なぜ国によって違いがあるのかを理解するのは簡単なことではありません。文化的、経済的、そして政治的な違いというものは、しばしば複雑だからです。また、多様な人々を型にはめて分類しないことも大切です。その上で、私が知っていることを話してみましょう。

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エシカルコンシューマー誌が提案するYES NOカード。店や企業に対し、倫理的によい点、悪い点を消費者が表明するためのカードだ。

1.一部の国が言い始めた
エシカル問題が広がるとき

我々が最初に海外のエシカル消費者について調べ始めたのは1995年ごろでした。一部の国ではイギリスの消費者があまり気にしない問題についてキャンペーンを行っていたことに気づいたからです。例えばドイツでは、遺伝子組み換え食品について消費者の間で意見が交わされ、イタリアでは大企業が租税を回避していることを懸念していました。また北ヨーロッパで高い関心を寄せていた農場の動物愛護(アニマル・ウェルフェア)は、南ヨーロッパの人々にはそれほど響いていないように見えました。

20年が経ち、これらの問題は皆、ヨーロッパ全土での関心事となっていますが、振り返ると単に一部の国でもともと抱えていた問題が表面化しただけなのかもしれません。解決すべき問題があれば、そこへの気づきがあり、活動が始まるものですから。

2.驚くことに貧国の消費者も
エシカル消費に関心がある

経済学者は、エシカルに選ばれるものは中流階級の消費者のみによって選ばれる「高級品」と考える人が多いです。しかしブラジル、中国、インドの消費者を調査すると、西欧諸国の消費者よりもエシカル問題について熱心なことがわかりました。2012年のGlobescanの調査結果を見てみましょう。

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次世代の環境改善のために
消費を減らすべきだと考えている。

ブラジル、インド、中国

76%

イギリス、アメリカ、ドイツ

57%

環境と社会のために良い商品を
買う責任があると考えている。

ブラジル、インド、中国

82%

イギリス、アメリカ、ドイツ

49%

社会的にも環境的にも責任ある企業から
商品を買うよう、よく周囲にすすめている。

ブラジル、インド、中国

70%

イギリス、アメリカ、ドイツ

34%

3.実際よりエシカルに見せる国?

ご存知の通り、調査に協力した人が実際にどんな商品をお店で購入するのか、予測できるわけではありません。下の表の濃い緑色の棒グラフは、各国で普段環境に良いものを買う人々のパーセンテージを示しています。薄緑の棒グラフは調査で環境に良いものを買っていると思っている人々の数を表しています。

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〔表 行動の隔たり―グリーン購買を心掛けている消費者とグリーン購買実践者―2012年Greenindexより〕

興味深いのは、各国でグリーン購買の実数値は少しずつしか違いが無いものの、グリーン購入をしていると考えている人々の数は国によってずいぶん違うということです。1つの調査から多くの結論を導いてはいけませんが、この調査では日本の人々は他国とくらべて正直者ということがうかがえますね。

4.宗教に影響される肉食の違い

近年、ベジタリアンまたはヴィーガンを自認する人が増えています。その理由は健康管理から動物愛護にいたるまで様々。多くの国では人口の2~5%の人々が該当しますが、インドは例外的に30%もの人々が肉を食べません。

インドでベジタリアンの率が高い理由の1つに、ヒンズー教や仏教という宗教による影響があります。また、貧困(倫理上の理由というより)や肉食できる(金銭的)余裕がないことも大きな理由といえるでしょう。

5.調査があらわす地域差
 ――興味深い販売レポート

下の表はヨーロッパ各国のフェアトレード商品の小売売上高を表したものです。フェアトレード製品の販売が少ない国々では人々がフェアトレードに興味がないと結論づけないことが大切です。製品の供給やキャンペーン・グループの活動など、他の要因も重要になるからです。

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〔表 国ごとの小売売上高の概算〕

6.遺伝子組み換え食品への考え方の違い

継続可能な消費について、ほとんどの国で消費者は似たような考え方をもちますが、いくつかの問題ではかなり異なる反応がみられます。遺伝子組み換え食品はこの良い例で、多く調査されてきました。もしかしたらより広く理解することで営利的な利害に影響するからかもしれません。下の表はバイオテクノロジーに関する幅広い質問とそれらに対する各国の様々な反応です。

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〔表 バイオテクノロジーの利益はリスクを上回るか〕

7.国によって大きく異なる不買運動とエシカル購入活動

この分野はあまり幅広く調査されていませんが、エシカル購入の実施においてヨーロッパ域内でも大きな違いを示すデータがあります。日本の皆さんは文化も政治も極めて似ているとお考えの方がいるかもしれませんね。

下の表は2002年のEUの調査の抜粋です。エシカル購買を政治的な行動としてみた場合の、不買運動と投票および請願書への署名を比較したものです。スウェーデンとイタリアの間ではエシカル購買に大きな違いがみられます。


スウェーデン (%)

イギリス (%)

イタリア(%)

ハンガリー (%)

投票

82

67

85

79

請願

41

40

17

4

エシカル購買

55

32

7

11

不買運動

33

26

8

5

2018年8月2日寄稿
翻訳:上原尚子

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プロフィール
ロブ・ハリスン(ロブ・ハリスン)
エシカルコンシューマー・リサーチアソシエーション 代表
Ethical Consumer Research Association(ECRA)
イギリスのマンチェスターで1989年に雑誌Ethical Consumerを創刊。さまざまな商品・サービス・企業について独自の調査に基づくEthic Soreという尺度でエシカル度を数値化し、評価してきた。オンライン主体のメディアとなった現在も同誌の主筆を務めつつ、エシカル度の向上に取り組む企業へのコンサルティングや、国際的NGO、または複数の政府機関の顧問を務める。
エシカル先進国であるイギリスにおいても、その発言が重要視されるキーパーソンである。著書として「The Ethical Consumer」Rob Harrison(編著)
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