2020年7月 6日

「Withコロナ」のエシカル畜産

「ワールド・エシカルフード・ニュース」担当 市村敏伸

エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が上がっているのでしょうか。
一橋大学在学中で、佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは、「Withコロナ」感染症共存時代のエシカル畜産。いま新型コロナウィルスをはじめ世界的な感染症の拡大の背景に、現代の畜産業のあり方が深く関係しているのではないかと世界で議論が広がっています。今回はそんな畜産業と感染症の関係を見ていきながら、感染症との共存が求められる「Withコロナ」時代の食のあり方を考えます。
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畜産はパンデミックの原因か?
必要なのは冷静な議論

早くも上半期が終了した2020年。本来であればオリンピックイヤーとなるはずであった今年、世界の関心を独占した新型コロナウィルスはいまだその原因が明らかとなっていないものの、中国で食肉などを販売する市場からの感染拡大が有力視されています。そんななか、先週、中国で新型の豚インフルエンザウィルスが発見されたとのニュースが世界を駆け巡りました。

中国 パンデミックの可能性を持つ新型豚インフルエンザ発見
202071CNN

このほど中国で発見された新型豚インフルエンザウィルス「G4」は、2009年に世界的に大流行した「H1N1」と呼ばれる豚由来の新型インフルエンザウィルスと類似しており、中国では2016年ごろから家畜の豚の間で感染が拡大。最近では、豚の飼育頭数の多い河北省や山東省で畜産従事者への感染が確認されており、ヒトからヒトへ感染する可能性もあると報告されています。したがって新たな世界的パンデミックの原因となることもあり得るのではと世界では警戒感が高まっていますが、現時点ではG4ウィルスの危険性について結論は出ていません。

今回のG4ウィルスをはじめ、世界的なパンデミックを引き起こす感染症には、人間が飼育する家畜からヒトへと感染が拡大していくものが数多くあります。新型コロナウィルスは感染源が明らかになっていませんが、2009年にパンデミックを引き起こした新型インフルエンザはメキシコとアメリカの家畜の豚に由来したと考えられており、家畜の大量飼育によるヒトの間での感染症流行の危険性はこれまでも強く指摘されていました。

そして、新型コロナウィルスの感染拡大が広がるいま、世界では畜産、さらには肉類の消費を感染症と紐付け、パンデミックを防止するために動物性食品の摂取を控えるヴィーガンを推奨する動きがにわかに活発になりつつあります。

ヴィーガンは未来のパンデミックを防ぐ最適な方法だ
202042 euro news

これまでも畜産が環境問題に与える影響からヴィーガンを推奨する動きは欧米を中心に広がりを見せていたものの、畜産と感染症を結びつける新たなヴィーガニズムの視点はまさに「Withコロナ」の時代ならでは。しかし、いまだ畜産と感染症の関係については十分な議論がされているとは言えず、一概に家畜の飼育が感染症の危険性を増すものと断定できるわけでもありません。畜産と感染症の関係を整理し、冷静な議論を交わすことがいま必要とされています。

では、畜産と近年の感染症の拡大には一体どのような関係があるのか。そこからはエシカルな畜産こそが、「Withコロナ」とも言われ感染症との共存が求められるこれからの時代に求められることが見えてきます。

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大規模畜産と
感染症との関係性

工業的畜産はコロナウィルスの原因なのか?
2020328 The Guardian

人類史上初めてのインフルエンザは、約4000年前に中国で家畜されたアヒルから発生したと言われており、畜産の歴史とヒトへの感染症は常に隣り合わせであったと言えます。しかし、近年の畜産の大規模化はこれまで以上に家畜からヒトへの感染症の危険を高めています。英紙ガーディアンは、近年の感染症の深刻化と工業的な畜産との関係について大きく2つの観点から分析を試みています。

まず、工業的で多くの土地を必要とする大規模な畜産が普及したことで、これまで人間との接触がなかった生態系を持つ地域にまで農業が拡大したことが挙げられます。特に中国では、巨大な資本による畜産の普及で小規模農家が辺境の地域で野生動物を狩猟して市場で販売するケースが増加していることが野生動物からの感染症がよりヒトへと影響を与えやすくなっていると考えられます。

また、大規模畜産での家畜の品種や飼育の方法の特徴も、感染症の拡大との関係を指摘されるところ。品種改良の結果として均一な遺伝情報を持つ家畜が飼育されている環境では、抵抗力を持たない感染症がひとたび集団の一部に感染すると急速に感染が拡大することが確認されています。また、狭いスペースで大量の家畜を飼育し、抗生物質を飼料などから投与する大規模な畜産の集約的な慣行も感染症の温床となる大きな要因です。

感染症との共存
必要なのはエシカルな畜産

専門家が警鐘 工業的畜産こそが新たな感染症によるパンデミックを引き起こす
202068INDEPENDENT

英紙インデペンデントである専門家は、健康的な環境で家畜を飼育する「アニマル・ウェルフェア」を確保することによって、動物のストレスは軽減され、感染症が流行するリスクも減らすことができると主張。また、こうした畜産のあり方は土壌侵食や水質汚染、さらには生物多様性や森林減少への効果的な対策でもあると述べており、まさにエシカルな畜産こそが感染症と畜産が共存するために求められるものです。

しかし、ガーディアンが指摘するように広大な土地を必要とする畜産業の拡大は人間にとって未知の生態系との接触を増加させ、未知の感染症へのリスクが高まるのみならず、自然環境の破壊にも繋がります。畜産のあり方をエシカルな方向へと移行させながら、一方で植物性肉など、動物性食品を代替するものをうまく活用させることでゆるやかに動物性食品の消費を減らしていくことが、感染症との共存が必要な「Withコロナ」における食のあり方なのかもしれません。

2020年76日執筆

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プロフィール
市村敏伸(いちむら・としのぶ)
一橋大学法学部在学中。生まれながらの食いしん坊で、佳い食あふれる世の中に寄与するための行政的アプローチに関心を持つ。大学在学中はこれまで農業系学生団体に所属し、主に農業現場の課題のリサーチを行なってきた。食べることをこよなく愛し、一日3食の充実に執念を燃やす。
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