エシカルな食について、いま世界ではどのような話題が上がっているのでしょうか。
一橋大学在学中で、佳い食のあり方を探究する市村敏伸が、海外のエシカルニュースをテーマごとにブリーフィングしてお届けします。今回のテーマは「認証マークのその先へ ――食の情報提供最前線」。食品の認証マークが普及した国々で進む、食のサステナビリティの新たな情報提供の形を目指す動きをお伝えします。ニュースのまとめ翻訳に興味がある方は、ぜひ記事タイトルをクリックして、リンク先(※英語)をご覧ください。
認証マークの一歩先へ
いま求められる情報とは
環境や地域、社会の持続可能性(サステナビリティ)に配慮してつくられた食べ物を買い支えることで、持続可能な食の在り方を目指すエシカルな消費。消費者がエシカルな食べ物を選ぶうえで欠かせないのが、その食べ物のサステナビリティについての情報です。特に、スーパーの店頭などで食料品を買い求めるにあたっては、その食べ物が環境などに配慮して生産されたものなのかどうか、商品のラベルをはじめとした表示を見て判断するほかありません。エシカルな食の普及において、その良さが分かりやすく伝わるパッケージ上の表示やラベルが担う役割はとても大きなものになっています。
これまでも、水産物のMSC認証マークをはじめ、一定の生産基準を満たした食品への認証マークによる、消費者への情報提供は欧米を中心に進んできました。また、今年発表されたミシュランガイドでは、レストランのサステナビリティへの取り組みを評価する「グリーン・クローバー・マーク」が導入され、持続可能性に関する情報を消費者に提供する動きは、もはやレストラン選びの世界にまで広がっています。
しかし、これだけ認証マークを用いた情報提供が進むなか、今月発表されたヨーロッパでの調査では、約60%の消費者が、食品のサステナビリティに関する情報提供が不十分と感じているという結果が発表されました。
認証マークによる情報提供では不十分だとすると、エシカル先進地ヨーロッパでいま求められている食べ物の情報とはどのようなものなのか。今回は、エシカルな食べ物を選ぶ上で欠かせない食の情報提供にまつわる最新の動向をお届けします。
ミシュランもついに導入
食における認証マーク
欧米では、食のサステナビリティへの関心の高まりを受け、食品の生産背景などに関する情報提供は日本など他の地域に先んじて、早くから取り入れられてきました。日本でも知られつつある水産物認証のMSCマークや、BIOマークがついた有機農産物。牛肉などであれば、飼育環境が明記されたパッケージなど、欧米のスーパーに足を運ぶと、日本とは桁違いの商品の情報量に驚かされます。
例として、昨年、筆者がイタリアを訪れた際に撮影したスーパーの商品の様子を少しご紹介しましょう。
これはイタリア最大のスーパーマーケットのひとつ「CONAD」で販売されていた鶏卵。CONADは一般的な大衆スーパーですが、緑色のユーロリーフが描かれたEUのオーガニック認証マーク(BIOマーク)が付された卵を取り扱っています。
また、日本でいうプライベートブランドであるCONADブランドのこちらのツナ缶。持続可能な方法で漁獲された水産物の認証であるMSC認証がきっちり付けられていました。
最後に、こちらはイタリア大手の有機食品スーパー「NaturaSi」で販売されていた牛ひき肉。BIOマークはもちろんのこと、パッケージのQRコードからは同社のオーガニックミートに関する調達ポリシーも確認できるようになっており、消費者への情報提供の充実度合いがよくわかります。
また、このサステナビリティに関する認証マークは、スーパーでの食材選びにとどまらず、いまやレストランチョイスの場面にまで広がりつつあります。
ミシュラン星付きは、新たなクローバー評価でより「グリーン」に
(2020年6月9日 euro news)
今年発表のフランス版ミシュランガイドから導入された「グリーン・クローバー・マーク」は、資源保護や生物多様性、再生可能エネルギーなどへの取り組みを評価されたレストランに与えられる新たな評価のひとつ。今年の発表ではフランス国内で50のレストランがこの評価を獲得し、四つ葉のクローバーをあしらったグリーン・クローバー・マークを冠されました。
このように、ヨーロッパを中心に欧米では当たり前となりつつある、認証マークなどを用いた消費者へのサステナビリティについての情報提供。しかし、今月発表された大規模なヨーロッパでの消費者の意識調査からは、食の情報提供について意外な声が消費者から上がっていることが明らかになりました。
認証マークからランク評価へ
重要とされるより細かい分類
EUの消費者 サステナブルな食料品を求める一方、不足する情報提供
(2020年6月4日 EURACTIV)
今月初めに結果が公表された、ヨーロッパでの食のサステナビリティについての消費者の意識調査。これは、EUにおける消費者代表団体である欧州消費者機関(BEUC)がヨーロッパ11ヶ国を対象に行った調査で、70%近くの消費者が環境問題などを理由として食習慣を変化させることに意欲的であるという結果が出る一方、価格の問題など、実際に行動に移す上でのいくつかの障壁の存在も明らかとなりました。
特に注目されているのが、商品に関する情報が不足しており、どの食べ物を買えばサステナビリティに貢献できるのか分からないという消費者の声。今回の調査では、実に57%の消費者が、食品のラベル上でのサステナビリティに関する情報表示の義務化を求めていることが明らかとなったのです。認証マークが付された食品へのアクセスがすでに普及しているヨーロッパにおいて、この先、どのような情報提供が求められているのでしょうか。
このヒントになるのが、Nutri-score(ニュートリ・スコア)と呼ばれる、いまEU各国で採用されつつある食品の栄養価の表示フォーマットです。
ニュートリ・スコアはフランス発の栄養価表示フォーマットで、食物繊維、糖分、塩分などの項目で食品を評価し、食物繊維が多く含まれるなど摂取が推奨される食品はA評価、逆に糖分などを多く含む食品はE評価となるように設定。AからEの統一したランク評価や、カラフルな表示をする工夫が消費者にとって分かりやすいと好評で、フランスから広まり、ドイツ、ベルギー、オランダ、スペインなど各国で導入が進んでいる表示方法です。
この色分けされたランク評価を用いて、食のサステナビリティに関する情報を提供しようとする動きがヨーロッパでは徐々に見られるようになっています。特に、この評価方式での情報提供の動きが進んでいる分野が、動物性食品におけるアニマル・ウェルフェア(AW)。つまり、生産工程での家畜の取扱に関する情報の提供です。
アニマル・ウェルフェアラベル 消費者はいかに意思を表明するか
(2020年3月10日 Food Navigator)
AWのラベル表示開発でリードしている国のひとつが、ニュートリ・スコアと同じくフランスです。フランスの大手スーパー「Casino」と国内の4つのAW推進団体とが協力して開発した、ブロイラー(食用若鶏)に関する独自のAWラベルは、飼育環境での動物の密度や自然光の度合い、屠殺場でのストレス軽減の工夫など、230項目の基準を総合的に判断して、商品のAWレベルをAからEまでの5段階で評価。2018年2月から運用が始まったばかりですが、分かりやすいランク評価とラベルの見やすさからフランス国内では支持を得ています。
フランスのブロイラーのAW表示の例
(運営者の公式サイトより)
この5段階評価で、栄養価やサステナビリティの観点から食品を評価する方式は、前回のエシカルフードニュースでお伝えしたファーム・トゥ・フォーク・ストラテジーを発表したEUでも有力な食品ラベルの表示形式として議論されており、今後、EUではサステナビリティや栄養価の情報を反映した統一のラベル方式を策定される予定です。こうした動きから、認証マークが普及したなかで消費者が求めているのは、一律に与えられる認証マークから、生産工程での取り組みレベルごとに商品の分類をさらに細分化していくことにあると言えるでしょう。
食の国際化に向け
情報提供を急ぐ日本
エシカルな消費を広める上で欠かすことのできない食のサステナビリティについての情報提供。残念ながら、日本では認証マークの普及や制度整備が不十分であるのが現状です。
しかし、東京オリンピック・パラリンピックでの食料調達基準に国際的なサステナビリティの認証を取得していることが盛り込まれたことなどを契機に、水産物のMSC認証や、農産物の生産工程基準であるGAP認証などが国内でも普及しつつあり、今後、認証マーク等を用いた情報提供が充実していくことが期待されます。
一方、日本の食の認証制度は、都道府県ごとに独自の基準を持つGAP認証をはじめ、国際標準化も含めた制度の統一化が課題として指摘されています。日本人のみならず、外国人への情報提供が今後必要とされるなかで、ヨーロッパの先進的な食品ラベル動向などを参考にしながら、食品の情報提供の国際的なスタンダードへの対応が課題となるでしょう。
2020年6月15日執筆
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