2020年3月12日

短角牛は産地によって味わいが違う その2 久慈市山形町

グッドテーブルズ代表 山本謙治

久慈市山形町は、短角牛の産地の中でも国産度の高い餌を採用してきた経験が長い、特色ある飼い方をする産地だ。岩泉町と同じく山深い、その美しい風土でしか実現しえない短角牛生産の方法をみていただこう。

久慈市山形町は、沿岸部である久慈市の市街地から車で40分ほどかかる山間地にある。以前、まだこの地が久慈市と合併する前の「山形村」だった頃、村民のどなたかが「なにせ、電気が引かれたのが日本中でも最後の方だったらしいから」ときいたことがある。それが本当のことかはわからないが、そうであったとしても不思議ではないほど、山深い地である。

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山深いということは、つまり美しいということでもある。

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岩泉町と同じく綺麗な河川に恵まれ、清らかな水の流れと眼に優しい緑がどこまでいっても続いている。

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雪が積もる冬は、その山深さを実感することになる。

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このように雪に閉ざされると、保存食を食べていかねばならない。山形町には、米の餅を入れたお雑煮のかわりとなる「まめぶ汁」という郷土の汁物がある。

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まめぶとは地粉を捏ねた皮でオニグルミと黒砂糖を包んだおだんごのことだ。このまめぶを、干しシメジなどでとった出汁に根菜と共に入れた汁が、ご馳走として食べられてきた。

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また、この地域でよく食べられているのが、しっかりした食感の豆腐を幅広の串に刺し、囲炉裏で炙りながらニンニク味噌をつけて焼く豆腐田楽である。

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山間部の食はひなびた味わいだと思う人も多いだろうが、山形町ではニンニクの風味が利いた料理を好む人が多い。この田楽を一度食べると、ただ甘いだけの田楽味噌では物足りないと思ってしまう。

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また、この地域でも昭和の中頃までは米が穫れなかったこともあり、餅と言えば小麦粉を練って作った麦餅を食べていた。

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エゴマを摺ったタレやニンニク味噌で食べる麦餅の美味しさも格別だ。

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このように、沿岸部から遠く山に分け入ったところにある山形町だから、短角牛のルーツである南部牛が大活躍をして、人々の生活を支えていたに違いない。そしていま、山形町は規模的には岩手県内で最大級の短角牛の産地となっている。

町内に点在する牧野では、春から秋にかけては短角牛の母子がゆったり放牧されているのをみることができる。

山形町の短角牛は、オーガニック食品の宅配サービスとして有名な大地を守る会やレストラン、外食産業と取引をしている。

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山形町の短角牛も、夏の間に岩泉のように農家自身がデントコーンを栽培し、冬場はそれを発酵飼料として牛に与える、一般の黒毛和牛と比べると粗飼料割合の高い育て方をしている。

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山形町の生産者が自ら栽培するデントコーン。みためはスイートコーンのようだが、甘くなくデンプン質の多い飼料用のトウモロコシだ。

夏に山形町の生産者を訪れても、刈り取り時期は忙しく、一日中大型の農機に乗っていることも珍しくないため、話す時間がないこともあるくらいだ。それだけ、自分の牛に食べさせる飼料を自家生産することに力を入れているということだ。

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デントコーンの実が生ると茎や葉ごと刈り取ってロール状に巻き、デントコーンサイレージという冬に食べさせる発酵飼料にする。口にすると、古漬けのような酸味がして快い風味だ。

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山形町の短角牛は、肥育時に農家によってさまざまな餌を食べさせている。

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国産小麦とそのふすま(表皮と胚芽の部分)をベースにした、国産100%の飼料。

長年、国産100%で遺伝子組み換えもしていない特別な飼料を食べさせてきた生産者は、いまでも国産飼料を与え続け、レストランのシェフから評価されている。

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たんぱく質をしっかり補給するため、国産大豆の規格外品を茹でたものを食べさせる。この茹で大豆を一口食べさせてもらったが、当然のことながら、ひとが食べても美味しい煮豆だった。

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外食事業者との取引の中では、共同で餌の工夫をし、美味しさを追求した牛作りに取り組む農家もいる。

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どんな餌を与えるにしても、発酵飼料を食べさせることで、短角牛の体調がよくなるように気を配っているのが、山形町の短角牛生産の特色とも言えるだろう。

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また山形町の生産者たちは、料理人や食べるひととの交流を積極的に行っている。

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とくに料理人との交流によって、料理人の短角牛への理解を生み、美味しい短角牛料理を都市部の消費者に伝えることができる。

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岩手県内で最大の短角牛産地である久慈市山形町の短角牛生産は、生産者と料理人、消費者との固い絆の上に続いていくことだろう。

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プロフィール
山本謙治(やまもと・けんじ)
1971年愛媛県生まれ、埼玉県育ち。
学生時代にキャンパス内に畑を開墾し80種の野菜を栽培。大学院修士課程修了後、大手シンクタンクに就職し、電子商取引と農畜産関連の調査・コンサルティングに従事する。その後、花卉・青果流通のワイズシステム(現・シフラ)にて青果流通部門を立ち上げ。2004年グッドテーブルズを設立。農業・畜産分野での商品開発やマーケティングに従事。その傍ら、日本全国の佳い食を取材し、地域の食材や食文化、郷土料理を伝える活動を続けている。2009年より高知県スーパーバイザー・畜産振興アドバイザーを受任。2019年には土佐あかうし「柿衛門」のオーナーとなる。
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