2020年2月26日

めざすは、牡蠣と車海老の完全循環型養殖!【ファームスズキ 第4回(車海老ものがたり編)】

スープ作家 有賀薫

欧米式の牡蠣養殖で世界と勝負したいと塩田跡地を探し求めた鈴木さん。巡り合ったのは、先人の教えから学んだサスティナブルな車海老の養殖でした。よく耕して池の環境をつくり地下海水を入れたあと、車海老は砂底で、牡蠣は池の表面で育ちます。つまり広い養殖池の上下で行われる二毛作。牡蠣と同じくゆったりとした環境で、健康に育てられています。収穫された海老の水槽を覗くと、その姿の美しいことといったら!

文・有賀薫(スープ作家) 撮影・柿本礼子 編集・神吉佳奈子

先人が教えてくれた
1㎡7尾の車海老

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鈴木さんがこの土地にやってきたとき、大きな出会いがありました。堀江さんという車海老の養殖場をたった一人で営んでいた方です。堀江さんは鹿児島大学の水産学部を卒業し、大崎上島で商店を営んでいた女性と結婚。昭和30年代後半、まだ国内に車海老の養殖が確立していなかった時代です。当時は毎日トラックで車海老の餌になるアサリを買いにいき、つぶしては池にまいていたそうです。

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ファームスズキの裏で商店を営む堀江さんの奥さまと。堀江さん亡きあとも、鈴木さんのために毎朝塩田の神様にお参りしているという。

この島はもともと、車海老の養殖が盛んでした。昭和期、底引き網の会社が塩田を整備して車海老の養殖をはじめ、大企業の子会社が買い上げ、養殖技術を高めていきました。そして、大量養殖の時代へ。「海老は密度が上がると死ぬんです。単純です。ストレス受けるから。病気になると抗生物質を与える。一時的に病気はおさまるけれど、すぐにまた病気になる」池はみるみる弱くなっていきました。やがて海老がまったく育たなくなり、会社も撤退しました。

「そのとき、堀江さんは退職金をはたいて養殖場を借り受け、ひとりで養殖を続けていました。その養殖場が現在のファームスズキ。堀江さんはこうやれば車海老がうまく育つという答えを出していて、それが1㎡当たり78尾だった」。鈴木さんが養殖池で育てている車海老の数と同じです。

車海老の養殖は、通常1㎡当たり稚海老を2030尾、中には多いところで50100尾いれるところも。1㎡当たり78尾だと、通常の5分の1くらいの水揚げ量になります。

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海老は夜行性なので、夜に餌をまく。昼間は砂に潜っているのでなにも見えない。水温が14℃を切るころには餌を食べないでずっと砂にもぐったまま、車海老は冬眠状態に。

ときには反発し、ときに納得しつつも、堀江さんのアドバイスを受けながら、最初の数年間の池づくりに試行錯誤した鈴木さん。その半生を車海老と養殖池に捧げてきた堀江さんの存在は大きかったのだろうと感じられます。

作る量より食べる量
それが養殖業の現実

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養殖池の中のかご網に電気を流すと、砂にもぐっている海老を網の中に入る。電気ショックで砂から飛び出た車海老を網でまとめて引き上げる。

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鈴木さんの右腕、八木さんが時々メンテナンスしているかご網。この網に電気を流して引っ張る。

生物の育つ快適な環境だけでなく、サスティナブルな海洋生物の生態系にまで話を広げたとき、養殖産業の抱える課題は「作る量より食べる量のほうが多い」ということです。

「車海老を1kg作るのに、2.5kgのアジやイワシの小魚を食べる。養殖のマグロなんか2t、3tです。だったらアジやイワシを食べればいい。」。つまり養殖は地球にとってプラスじゃない。それを知ったときはショックだったと言いながら、鈴木さんは先を考えます。

牡蠣やアサリなどの二枚貝は、植物プランクトンを食べてたんぱく質を作ります。現在、ファームスズキの養殖池では、①車海老に餌をやる②それがバクテリアで分解される③植物性プランクトンが生まれる④牡蠣の餌になる。という流れができています。もし、牡蠣をたくさん育てて、それが海老の餌になれば、養殖池の中で生態系が円になります。

自然に負荷をかけない

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網から勢いよくはねる元気な車海老を見て、「いい海老だ。今年は色つや、肉のつきかたが完璧」と笑顔の鈴木さん。丹精こめて土づくりをしてきた苦労の甲斐が報われた瞬間だ。

「フランスに行ったら本当にやっている人がいて。1㎡当たり稚海老1尾を池にぽーんと投げるだけで、4か月5か月後に立派な海老になっている。彼らはなんにも餌をやらずに、自然のまま」

海老の好物はイソメやゴカイ。次が二枚貝。そしてその次がアジやイワシ。鈴木さんは土壌を改良してゴカイとかアオイソが繁殖するような土をつくり、自ら養殖したあさりや牡蠣の剥き身を稚海老の餌にして育てるという、自給自足の夢を持っています。

「それができたら最高ですよ。どれくらい海老の収穫があがるかはわからない。でもそれで従業員を雇用して、飯が食えていけたらベストです。そんなことをやっている人は養殖業界にいませんから」。

川釣り好き少年の
原点回帰

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収穫した海老はいったん水槽で様子を見る。暴れると海老は死んでしまうので、8℃の海水で海老を冷やし、おとなしくしてから出荷する。

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6月に池に放たれたわずか1gだった稚海老が半年かけてゆっくりと育ち、出荷前には36g。

今回の取材、牡蠣よりも海老よりも、牡蠣や海老を熱く語る鈴木さんが印象的でした。池を作る、牡蠣を育てる、牡蠣を売る。牡蠣養殖のスペシャリストであろうとする鈴木さんのほかに、もう一人の鈴木さんがいます。それは、魚が好き、釣りが好き、そして海や川が好きでたまらなかったという、少年時代の鈴木さんです。

前衛的な企業として急成長しながらも、サスティナブルな環境を追及し続けるその理由は、子どもの頃にふれあった水の生物たちを守りたいという気持ちの表れのように感じました。

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海老はおがくずに入れて仮死状態のまま常温で発送。梱包材も自然環境に配慮し、最近発泡スチロールから保冷段ボール箱にすべて切り替えた。

PC192038.jpgファームスズキ
広島県豊田郡大崎上島町東野垂水37-2
https://www.farmsuzuki.jp/
オンラインストアで取り寄せ可。活牡蠣の販売は3月末、活車海老は2月末まで。シーズンオフは、最先端の冷凍技術による瞬間凍結が一年中購入できる。「クレールオイスター(塩田熟成牡蠣)」124600円~、大粒124800円~。「塩田育ちの活車海老」350g1419尾)5500円~。いずれも内税・送料別。2019年、竹原港に併設された「たけはら海の駅」に直営のレストランをオープン。
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プロフィール
有賀薫(ありが・かおる)
受験生だった息子の朝食にスープを作りはじめたことをきっかけに、365日毎朝のスープをSNSに投稿。旬の野菜を使ったシンプルなレシピが反響を呼び、書籍化に。「スープ・レッスン」(プレジデント社)に続いて、『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(分響社)などのレシピ本を手掛け、ライター業から転身。スープ作家として、実験イベント「スープ・ラボ」のほか、テレビや雑誌などで活躍の場を広げている。
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