2020年2月22日

自然の生態系を守り、育てる牡蠣 【ファームスズキ 第1回】

スープ作家 有賀薫

持続可能な養殖業に挑戦する養殖場があります。瀬戸内海に浮かぶ離島の塩田跡地を利用した、日本で唯一のクレールオイスター(塩田熟成牡蠣)をつくるファームスズキです。
フランス・ブルターニュなど海外で牡蠣の養殖法を学んだ鈴木隆さんが、塩田跡の池に海水を引き込み、さまざまな生き物が共存する生態系を守りながら牡蠣と車海老を育てています。
「環境に負荷をかけない養殖法で、生でも安心して食べられる牡蠣をつくりたい」。そんな理想を掲げてエシカルな養殖に挑戦する鈴木さんに会いに、いざ大崎上島へ!

文・有賀薫(スープ作家) 撮影・柿本礼子 編集・神吉佳奈子

広島県内最大の離島、
人口約8000人の大崎上島へ

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広島・竹原港からフェリーで20分。ここは瀬戸内海に浮かぶ大崎上島、という島です。船着き場から海を左手に見ながら車で走ると、島の最北端に「ファームスズキ」の養殖池が現れます。降り立ってみると、想像以上に広い、広い!

ここはかつて塩田でした。昭和20年代で塩の生産は終了し、跡地で盛んにおこなわれていた車海老の養殖も、途絶えてしまいました。放置されていたその場所に今、牡蠣の養殖事業で新しい風が吹いているといいます。みかん畑の点在する山々を背に、ゆったりと海水をかかえこんだ静かな池に、何が起こっているのか。楽しみです。

養殖池の広さは約10万㎡
東京ドーム2個分!

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池といってもこんなにでっかい! 9か所連なる養殖池で、年間40万個の牡蠣と車海老7tを養殖している。

冬の風ですが、それほど冷たくはありません。底が見えるほど透明な水をたたえた養殖池のほとりに、ウッドデッキのテラスが印象的な白い建物。錨がデザインされたブルーのロゴが目に飛び込んできます。山と海に挟まれたおだやかな日本の風景でありつつも、ファームスズキにはさわやかな若々しさが漂っています。

数珠つなぎに水面に並んで浮かぶ黒いバスケットには、緑の藻がうっすらついています。牡蠣はバスケットの中で、養殖池に繁殖した植物プランクトンを食べて育つのです。

この育て方は、海に浮かべた牡蠣養殖いかだとは全く違うやり方です。鈴木さんがフランス・ブルターニュやアメリカ・シアトルなど、クレールオイスター(塩田熟成牡蠣)の本場へ何度も足を運び、現場から学んできたやり方です。

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養殖池に併設しているファームスズキのオフィス。白とブルーのシンボルカラーは、どこか海外の養殖場のような明るい雰囲気。

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塩田熟成牡蠣、小粒のクレールオイスター。朝獲りの牡蠣は空輸で翌日の夕方にはアジアのオイスターバーに並ぶ。今では売上の8割を海外が占める。

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ブルターニュやシアトルではこれが当たり前。育成した稚貝をバスケットに入れ、池に浮かべて育てる養殖法。

目まぐるしい忙しさの中、鈴木さんは何度も池の辺で膝をつき、冷たい水に手を入れカゴを覗き込んで、水や牡蠣をチェックしています。

「牡蠣というより池が生き物。池の環境を作るのが大きな仕事です」

エシカルな養殖業で
島と自然の営みを守る

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手慣れた手つきで車海老の籠を引き上げる、商船高等専門学校の生徒たち。ほかにも中学生の体験学習の受け入れをしている。

取材中、養殖池に島の高専生がやってきました。牡蠣と一緒に養殖されている車海老の収穫を手伝いに来ているのです。寒さの中で黙々と作業に取り組む若者たちの姿が印象的です。

「海外の養殖事業は成長産業だから、人がどんどん入ってくる。大崎上島で、意欲ある若い人たちが育つ事業を目指したい」と、鈴木さんは池に目をやります。

過疎化が進む離島、そして衰退する日本の養殖事業の中にあって、右肩上がりに伸び続け、ファームスズキは島民たちの希望でもあります。

めざすは、社会に貢献できる
持続可能な水産ビジネス

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鈴木さんは埼玉県育ち。山口県の水産大学校を卒業後、東京の水産物卸商社で商社マンとして働く。世界で勝負できる安全な生牡蠣を作りたいと起業し、理想の塩田跡地を探しあて大崎上島へ。2011年冷凍牡蠣の輸出と塩田跡での養殖事業をスタート。2015年に株式会社ファームスズキを設立する。

子供の頃から釣りばかりしていたという鈴木さん。魚やザリガニを小さな水槽で飼っていた少年の好奇心そのままに、日本の水産業を改革するビジネスマンとして、商売と社会貢献を両立させようとしています。

「誰もやったことのない、持続可能な水産ビジネスをめざしています」。鈴木さんの掲げるビジョンはスケールが大きそうです。その方法と目指すところを余すところなく聞きたいと思いました。

PC192038.jpgファームスズキ
広島県豊田郡大崎上島町東野垂水37-2
https://www.farmsuzuki.jp/
オンラインストアで取り寄せ可。活牡蠣の販売は3月末、活車海老は2月末まで。シーズンオフは、最先端の冷凍技術による瞬間凍結が一年中購入できる。「クレールオイスター(塩田熟成牡蠣)」12個4600円~、大粒12個4800円~。「塩田育ちの活車海老」350g(14~19尾)5500円~。いずれも内税・送料別。2019年、竹原港に併設された「たけはら海の駅」に直営のレストランをオープン。

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プロフィール
有賀薫(ありが・かおる)
受験生だった息子の朝食にスープを作りはじめたことをきっかけに、365日毎朝のスープをSNSに投稿。旬の野菜を使ったシンプルなレシピが反響を呼び、書籍化に。「スープ・レッスン」(プレジデント社)に続いて、『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(分響社)などのレシピ本を手掛け、ライター業から転身。スープ作家として、実験イベント「スープ・ラボ」のほか、テレビや雑誌などで活躍の場を広げている。
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