
「我が家の冷蔵庫に卵がない日はありません。でも、卵が主役になることは実は少ない。魚や肉や野菜ほど"選ぶ"という意識が生まれない、というのが本音です」と語っていた有賀薫さん。丸一養鶏場の平飼い鶏舎を訪ねて初めて、卵を産む鶏のことを考えたといいます。ケージ飼いかケージフリーか。鶏の品種や餌だけでなく、飼育法で選ぶ卵について、有賀さんと考えました。
文・有賀薫(スープ作家) 撮影・山本謙治 編集・神吉佳奈子
エシカルな卵、
割ってみると驚いた!
さて、餌や育て方で卵の味がどのぐらい違うのか、みなさんそこが一番気になるところだと思います。鶏舎の中で自然のままに生み落された卵、いよいよ味わってみました。
おいしい卵は黄身の色が濃くて味が濃厚......なんの根拠もなく、そういうイメージが自分の中にありました。だから、正直なことを言うと、はじめてこの卵と普通の卵をゆで卵や目玉焼きにして食べ比べたときには、大きな差に気づかなかったのです。でも、実際に料理を作ってみると、決定的に違いがありました。
健康な鶏の産んだ卵は、白身が違います。試しに小さな器に割り入れてみましょう。卵が新鮮なせいもあるのですが、コシが強い。卵黄がもりっと、こちらに飛び出して見えます。
鶏の黄身の色はじつは餌の色と聞きました。パプリカ抽出液などを添加すれば、簡単にオレンジ色になるそうです。そして、一柳さんの鶏の卵は、黄身がことさら濃い黄色やオレンジにはなっていません。ごく自然な美しい卵色です。
また、白身も少し口に含んでみると、まったく雑味がありません。普通の卵では白身部分を生のまま口に含むと、生臭いのです。
卵の味は餌の配合と思われやすいのですが、大事なことは快適な鶏舎。鶏と糞が接触しない、清潔な鶏舎で卵を産むことで、きれいな香りと味わいになるそうです。
砂浴び場で自由に遊び
止まり木で眠る
エシカルという言葉は、頭で考えるとちょっと難しく感じます。エイビアリー方式と呼ばれる、立体式の平飼い鶏舎の話も、その歴史や仕組みを聞いただけではよくわからないところがあります。でも、卵を食べて、その雑味のない味、自然なコク、見た目の美しさなどを感じると、ぐっと近づいてくるのです。この卵がなぜそんなふうになるのか、知りたくなります。
エイビアリー方式......
ドイツやデンマークなどヨーロッパで進められている立体式のAviary(鶏舎)で飼育するシステム。止まり木を設置した休息エリア、巣箱を設置した産卵エリア、砂浴びのできる運動エリア等を備えた平飼い鶏舎のことで、鶏の行動がより多様になるようアニマルウェルフェアに配慮して開発された。丸一養鶏場は、2002年アジア圏で初めてこのシステムを導入した。
鶏は休息したり、眠ったりするときに止まり木が必要です。この写真のように、ちゃんと止まり木に止まれるのは、ヒナのときから平飼いしている何よりの証拠。育成期間にケージ飼いしていると、うまく止まり木を使えないのだそうです。この施設では、ひよこが生まれた翌日から、放し飼いにしているのです。
鶏小屋といえば、子供の頃からの記憶で、糞の臭いと深く結びついていました。でも、この鶏舎は清潔感があって、糞の臭いはほとんどしません。匂いのもととなる糞は週2回、ベルトコンベア式の床ごと回してそのまま糞を舎外に搬出し、衛生的に管理しています。
静かな場所で卵を産む
鶏も人も同じ!
昼間に活動するときは光をたっぷり浴びたいし、休んだり卵を産むときは落ち着いた場所がいい。それは人も鶏も同じです。このエイビアリー方式の鶏舎では、そうした鶏の快適さ、幸福感が仕組みとして満たされるようになっていることに感心しました。
産み落とされた卵は、糞と接触しないよう、新鮮なうちに回収されます。だからこそ、あのきれいな味わいにつながるのだということが、よくわかりました。
1個80円の卵を
買って食べて、考えた
四代目社長の一柳憲隆さんは、ヨーロッパでアニマルウェルフェアの精神にふれ、それをなんとか自分たちの養鶏場で実現させたいと、今こうして取り組まれています。とはいえ、基幹となる商売は、やはり慣行のケージ飼い鶏舎で成り立っています。
卵は、私たちにとって本当になじみの深い食材です。日々使うものだけに、あまり高額では買い続けることができません。それでもこの鶏たちが幸せに暮らす鶏舎を見て、卵を食べてみた後では、値段にも納得が生まれます。
海外ではできて、私たちができないということはないと思います。私たちの選択が、理想の鶏舎を増やす大きなカギなのです。食べて感じることもきっとあるはずです。

http://maru1.com/
埼玉県大里郡寄居町大字赤浜2832
TEL:048-582-1135
オンラインショップで取り寄せ可。「放し飼いたまご ecocco (エコッコ)」30個入り¥2,470、小粒30個入り¥1,980 (税込・送料別)。養鶏場前の自動販売機で購入できる。さいたま市浦和区の「分上野薮かねこ」の出汁巻たまごや、「SOYSTYLE SWEETS」のプリン、池袋の「COFFEE VALLEY」の卵サンドなど、近隣の飲食店で「エコッコ」を提供。
※本サイトに掲載の文章の部分的な引用を希望される場合は、サイト名・記事タイトル・著者を明記の上でご利用ください。また引用の範囲を超える文章の転載・写真の二次利用については編集部の許諾が必要です。
