2019年12月25日

ケージフリーの卵を選ぶということ【丸一養鶏場 第2回】

スープ作家 有賀薫

「我が家の冷蔵庫に卵がない日はありません。でも、卵が主役になることは実は少ない。魚や肉や野菜ほど"選ぶ"という意識が生まれない、というのが本音です」と語っていた有賀薫さん。丸一養鶏場の平飼い鶏舎を訪ねて初めて、卵を産む鶏のことを考えたといいます。ケージ飼いかケージフリーか。鶏の品種や餌だけでなく、飼育法で選ぶ卵について、有賀さんと考えました。

文・有賀薫(スープ作家) 撮影・山本謙治 編集・神吉佳奈子

【第1回はこちら】

エシカルな卵、
割ってみると驚いた!

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さて、餌や育て方で卵の味がどのぐらい違うのか、みなさんそこが一番気になるところだと思います。鶏舎の中で自然のままに生み落された卵、いよいよ味わってみました。

おいしい卵は黄身の色が濃くて味が濃厚......なんの根拠もなく、そういうイメージが自分の中にありました。だから、正直なことを言うと、はじめてこの卵と普通の卵をゆで卵や目玉焼きにして食べ比べたときには、大きな差に気づかなかったのです。でも、実際に料理を作ってみると、決定的に違いがありました。

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白身はこんもり盛り上がった濃厚卵白とさらさらした水溶性卵白に分かれる。

健康な鶏の産んだ卵は、白身が違います。試しに小さな器に割り入れてみましょう。卵が新鮮なせいもあるのですが、コシが強い。卵黄がもりっと、こちらに飛び出して見えます。

鶏の黄身の色はじつは餌の色と聞きました。パプリカ抽出液などを添加すれば、簡単にオレンジ色になるそうです。そして、一柳さんの鶏の卵は、黄身がことさら濃い黄色やオレンジにはなっていません。ごく自然な美しい卵色です。

また、白身も少し口に含んでみると、まったく雑味がありません。普通の卵では白身部分を生のまま口に含むと、生臭いのです。

卵の味は餌の配合と思われやすいのですが、大事なことは快適な鶏舎。鶏と糞が接触しない、清潔な鶏舎で卵を産むことで、きれいな香りと味わいになるそうです。

砂浴び場で自由に遊び
止まり木で眠る

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室内の鶏舎の砂浴び場で、体に砂を浴びせかけたり、地面に体を擦り付けて体と羽毛を清潔に保つ。

エシカルという言葉は、頭で考えるとちょっと難しく感じます。エイビアリー方式と呼ばれる、立体式の平飼い鶏舎の話も、その歴史や仕組みを聞いただけではよくわからないところがあります。でも、卵を食べて、その雑味のない味、自然なコク、見た目の美しさなどを感じると、ぐっと近づいてくるのです。この卵がなぜそんなふうになるのか、知りたくなります。

エイビアリー方式......

ドイツやデンマークなどヨーロッパで進められている立体式のAviary(鶏舎)で飼育するシステム。止まり木を設置した休息エリア、巣箱を設置した産卵エリア、砂浴びのできる運動エリア等を備えた平飼い鶏舎のことで、鶏の行動がより多様になるようアニマルウェルフェアに配慮して開発された。丸一養鶏場は、2002年アジア圏で初めてこのシステムを導入した。

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鶏舎に止まり木を設置した休息エリア。鶏は本能的に高い所を好み、夜眠るときは止まり木で睡眠をとる。

鶏は休息したり、眠ったりするときに止まり木が必要です。この写真のように、ちゃんと止まり木に止まれるのは、ヒナのときから平飼いしている何よりの証拠。育成期間にケージ飼いしていると、うまく止まり木を使えないのだそうです。この施設では、ひよこが生まれた翌日から、放し飼いにしているのです。

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自動給餌に流れてくる餌。米、とうもろこし、大豆粕、飼料用米、魚粉、生米糠、ふすま、炭酸カルシウム、カキガラ、油脂、食塩など、季節や日齢によって配合内容を調整。

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床に落ちた糞はベルトコンベヤで回収。鶏と糞が接触することなく、いつも清潔に保たれることで、臭みのないクリーンな卵になる。

鶏小屋といえば、子供の頃からの記憶で、糞の臭いと深く結びついていました。でも、この鶏舎は清潔感があって、糞の臭いはほとんどしません。匂いのもととなる糞は週2回、ベルトコンベア式の床ごと回してそのまま糞を舎外に搬出し、衛生的に管理しています。

静かな場所で卵を産む
鶏も人も同じ!

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二段目と三段目に餌場と水場があり、オレンジ色のついたての奥が巣箱になっている。

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暗い中で卵を産む習性があるため、産卵期の鶏は自ら巣箱の中に入り卵を産む。

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巣箱は軽く斜面になっているので、卵は転がって外へ、ベルトコンベアにのって回収される。

昼間に活動するときは光をたっぷり浴びたいし、休んだり卵を産むときは落ち着いた場所がいい。それは人も鶏も同じです。このエイビアリー方式の鶏舎では、そうした鶏の快適さ、幸福感が仕組みとして満たされるようになっていることに感心しました。

産み落とされた卵は、糞と接触しないよう、新鮮なうちに回収されます。だからこそ、あのきれいな味わいにつながるのだということが、よくわかりました。

1個80円の卵を
買って食べて、考えた

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エイビアリーな鶏舎はまだ2棟しかないが、ゆくゆくは全棟にしたいと抱負を語る一柳さん。

四代目社長の一柳憲隆さんは、ヨーロッパでアニマルウェルフェアの精神にふれ、それをなんとか自分たちの養鶏場で実現させたいと、今こうして取り組まれています。とはいえ、基幹となる商売は、やはり慣行のケージ飼い鶏舎で成り立っています。

卵は、私たちにとって本当になじみの深い食材です。日々使うものだけに、あまり高額では買い続けることができません。それでもこの鶏たちが幸せに暮らす鶏舎を見て、卵を食べてみた後では、値段にも納得が生まれます。

海外ではできて、私たちができないということはないと思います。私たちの選択が、理想の鶏舎を増やす大きなカギなのです。食べて感じることもきっとあるはずです。

【第3回「ちゃんと混ぜない、かき玉みそ汁」に続く】

esoup3_maruichi_1_7.jpg有限会社丸一養鶏場
http://maru1.com/

埼玉県大里郡寄居町大字赤浜2832 
TEL
048-582-1135 
オンラインショップで取り寄せ可。「放し飼いたまご ecocco (エコッコ)」30個入り¥2,470、小粒30個入り¥1,980 (税込・送料別)。養鶏場前の自動販売機で購入できる。さいたま市浦和区の「分上野薮かねこ」の出汁巻たまごや、「SOYSTYLE SWEETS」のプリン、池袋の「COFFEE VALLEY」の卵サンドなど、近隣の飲食店で「エコッコ」を提供。

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プロフィール
有賀薫(ありが・かおる)
受験生だった息子の朝食にスープを作りはじめたことをきっかけに、365日毎朝のスープをSNSに投稿。旬の野菜を使ったシンプルなレシピが反響を呼び、書籍化に。「スープ・レッスン」(プレジデント社)に続いて、『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(分響社)などのレシピ本を手掛け、ライター業から転身。スープ作家として、実験イベント「スープ・ラボ」のほか、テレビや雑誌などで活躍の場を広げている。
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