2019年12月24日

2万羽の幸せな鶏を育てる 一柳さんの卵 【丸一養鶏場 第1回】

スープ作家 有賀薫

丸一養鶏場の4代目・一柳憲隆さんは、幼いころから鶏がいつも身近にあり、鶏をこよなく愛する養鶏家。ヨーロッパ視察旅行で「鶏本来の行動欲求」に沿って設計された養鶏場を訪問。鶏舎の中で羽を広げて自由に走り回る鶏の姿に衝撃を受けたといいます。いつか自分も鶏が健康に育つ鶏舎をつくりたいと奔走。ついに2002年、アジアで初めての立体式平飼いシステムの鶏舎を新設しました。
そんな一柳さんが求める「いい卵」ってなんだろう。エシカルな卵の話を聞きに、有賀薫さんが丸一養鶏場を訪ねました。

文・有賀薫(スープ作家) 撮影・山本謙治 編集・神吉佳奈子

鶏だって、日光浴と砂浴びで
ストレスフリー!

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みなさん、小学校のころ、飼育委員をやった記憶ってありますか?
鶏小屋の掃除をしようと小屋に入ると、バタバタ逃げ回るイメージがありました。甲高い声がちょっと怖かったものです。

ところが、一柳さんに連れられてやってきた鶏舎の扉を開けると、数十羽の鶏たちが、足元にわーっと集まってきたのです! 私を怖がることもなく、いかにもリラックスした雰囲気で(鶏のリラックスがどういう状態かはうまく言葉にできないのですが)、コッコッコッと小さく喉を鳴らしながら、近寄ってきます。手を伸ばしても、逃げないのです。

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鶏は、一日の大半を餌を探して地面をつつく習性がある。そして好奇心が旺盛。

ストレスがないからでしょうか。鶏は私がイメージしていた耳ざわりな甲高い声ではなく、喉の奥で穏やかに声を鳴らして近づいてきます。そして、私ののばした手や指を何だろうとつっつきます。こちらをちっとも警戒していない、まるで子供のような鶏たちは、本当に可愛いのです。彼らがこの鶏舎で幸せに暮らしていることを体感しました。

創業100年の養鶏場が挑戦した
エシカルな飼育法

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丸一養鶏場の敷地内に新たに建てられた鶏舎は、緑に囲まれ、ナチュラルな雰囲気。

ここでは、「エイビアリー方式」という立体式平飼いの鶏舎を建て、2万羽の鶏を飼っています。1平米あたり8羽。一羽当たりのスペースは通常の鶏舎の3倍です。ということは、3分の1の鶏しか入らないわけです。

通常の鶏舎では、鶏は数羽ずつ小さなケージ(鳥かご)に入れられて、ケージの中で餌を食べて卵を産み、眠ります。でも、ここでは大きな鶏舎の中で放し飼いになっています。さらに、室内と明るいサンルームの運動エリアとを、自由に行き来することもできるのです。

鶏小屋として思い浮かべる臭いもまったくなく、清潔で気持ちいい空間です。

ヨーロッパで衝撃を受けた
アニマルウェルフェア

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一柳さんの経営理念は「アニマルウェルフェアの考えに基づき、鶏の健康を通じて、人の健康に貢献する」。

一柳さんは、1996年にスイスを視察で訪れ、アニマルウェルフェアがどういうものか、目の当たりにします。私が鶏舎に入ったときに感じた驚きを、ずっと養鶏の仕事をされていた一柳さんも感じたと言います。

「通常のケージ飼育鶏舎では人が入っていくと、鶏は落ち着きをなくすものです。でも、スイスで既に実践されていた立体式平飼い鶏舎に入ったら、鶏が自分から寄ってきた。そんな鶏は見たことがありません。衝撃でした」。

この視察から8年後の2002年。一柳さんは、敷地内にドイツ製の立体式平飼いシステムの鶏舎を建て、そこで4000羽の鶏を飼い始めました。

アニマルウェルフェア......

ヨーロッパで急速に法令化が進む飼育基準。畜産動物の5つの自由が確立された、Welfare(満たされて生きる)な飼育法で、日本では「動物福祉」や「家畜福祉」と訳される。5つの自由とは、①空腹と渇きからの自由 ②不快からの自由 ③痛みや傷、病気からの自由 ④正常な行動を発現する自由 ⑤恐怖や苦悩からの自由。つまり、動物がストレスから自由で健康的な生活ができ、動物と人間の幸せな関係を構築した畜産のあり方である。

これがヨーロッパのスタンダード
ケージフリーの平飼いシステム

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ドイツではケージ飼いは1割にまで減少しているという。EUでは2012年に農業法により、ケージ飼いが原則禁止となった。

鶏には、止まり木に止まりたい、シャワーがわりの砂遊びをしたい、羽をのばしたい、ついばみたい、飛びたい、そして産卵のときは暗がりに入りたいなど、もともと本能として持っている「行動欲求」があるのだそう。

そうした鶏の望みをかなえるため、室内には給餌飲水エリア、止まり木のある休息エリア、産卵をする巣箱エリア、砂遊びする運動エリアに大きく分かれています。

日中は電灯がついていますが、夜は灯りを少しずつ落とします。すると鶏も自然に眠り、また、朝日とともに起きるのです。

鶏の健康は人の健康
それが一柳さんのモットー

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一柳さんになついて、腕を出すとひょいっとのってくる。そして一柳さんのこの笑顔! 人と鶏の幸せ関係が築かれていることがよくわかる。

私が見た一柳さんの鶏舎は、これまでイメージしていた暗いじめじめした鶏小屋とは180度違い、明るさと活気にあふれていました。

代々鶏の飼育をしてきた一柳さんが、ヨーロッパのアニマルウェルフェアを見て、日本の飼育環境に疑問を感じ、これからの鶏舎を作り上げたことは、まっすぐな理想の形に思えました。

「この場所が一番好きですね。いつまでもここにいたい」。鶏たちに目を配りつつ、そう一柳さんは言います。

【第2回「ケージフリーの卵を選ぶということ」につづく】12月25日に配信します!

有限会社丸一養鶏場

http://maru1.com/
埼玉県大里郡寄居町大字赤浜2832
TEL:048-582-1135

オンラインショップで取り寄せ可。「放し飼いたまご ecocco (エコッコ)」30個入り¥2,470、小粒30個入り¥1,980 (税込・送料別)。養鶏場前の自動販売機で購入できる。
さいたま市浦和区の「分上野薮かねこ」の出汁巻たまごや、「SOYSTYLE SWEETS」のプリン、池袋の「COFFEE VALLEY」の卵サンドなど、近隣の飲食店で「エコッコ」を提供。

プロフィール
有賀薫(ありが・かおる)
受験生だった息子の朝食にスープを作りはじめたことをきっかけに、365日毎朝のスープをSNSに投稿。旬の野菜を使ったシンプルなレシピが反響を呼び、書籍化に。「スープ・レッスン」(プレジデント社)に続いて、『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(分響社)などのレシピ本を手掛け、ライター業から転身。スープ作家として、実験イベント「スープ・ラボ」のほか、テレビや雑誌などで活躍の場を広げている。
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