2019年11月28日

土と水と生物の循環で作る エシカルな野菜  【久松農園 第1回】

スープ作家 有賀薫

有機農法、オーガニック農法、自然農法......。
野菜をつくる農法はいろいろありますが。
エシカルな野菜とはどんな野菜?

自然だけでなく、働く人にとっても負担のかからない
"エシカルな農業"をめざす
茨城県土浦市の久松農園を、
スープ作家の有賀薫さんが訪ねました。

文・有賀薫(スープ作家) 撮影・山本謙治 編集・神吉佳奈子

エシカルな農業の要は
微生物宿る土づくり

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農園主の久松達央さんは、脱サラ後に一年間の農業研修を経て、1999年に茨城県南部の土浦市で独立就農。ソーシャル時代の新しい農家として注目を集め、講演会やセミナーでも活躍。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)。

久松さんの畑を訪ねてぱっと目に入ってきたのは、ボコボコに掘り返された畑です。枯れたひまわりの花が、土から半分顔を出しています。植物を土壌にすき込む、緑肥(りょくひ)です。畑のあちこちには可愛いマリーゴールドの花が咲いていますが、これも緑肥になるのだそう。

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春から秋へと畑の衣替えシーズンの8月。右が緑肥を刈り取った後の畑で、左は緑肥をすき込んだ後の畑。野菜の収穫後の畑に、主にソルゴーやセスバニアなどマメ科の種をまき、次の種まきシーズン前に刈り取り、土にすき込む「生きた堆肥」となる。


久松農園では、こうして畑を耕して土を養う時期と、種を蒔いて野菜を育てる時期を組み合わせ、年間100種類以上もの種類の野菜を有機農法で作っています。

野菜は自然そのものですが、細やかに組み合わされたタイムテーブルの話を聞くと、なんだか工場の工程表のようです。久松さんは20年間かけて、どうやったら効率よく畑で作物を育てられるかというイメージを持ちながらやってきたと言います。

有機農法...
政府の定義では、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと、遺伝子組換え技術を利用しないことを基本に、環境への負荷をできる限り低減した農法とされている。有機農法の取組面積は緩やかに増加しているが、総面積は耕地面積のわずか0.5%(平成30年現在)。





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緑肥は、土壌の有機物が増えることで水はけや保水力が高まり、微生物のすみかが増えることで畑に特定の病害虫が大繁殖することを防ぐ役割がある。
緑肥の他にも、近隣の畜産農家がつくった良質な堆肥を入れて深く耕し、土の中の水や空気をバランス良く保ち、野菜が健やかに育つ環境を整える

野菜のおいしさは
品種選びからはじまる

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おいしさの決め手は「栽培の時期・鮮度・品種の三要素」。本当の旬に収穫すると舌だけでなく、香りや食感も感じることができる。自然のものを自然に食べる、それが久松さんの考えるエシカル野菜。

多品種の野菜を少しずつ育てることは、決して効率的とはいえません。それでも久松さんがさまざまな野菜にこだわる理由のひとつは、まずは自分が食べる野菜を好きにつくりたいから。野菜のおいしさの大きな要素である品種を自由に選びたいのです。

大きな流通では「病気に強いなど作りやすい野菜」「運びやすい野菜」「売れやすい野菜」が優先されるため、「おいしいけれど流通にのりにくい野菜」はなかなか栽培されません。久松さんはそうした、ちょっと個性ある野菜たちを、季節や自分の畑に合わせて選びながら作っています。

労働生産性をあげて
人にもやさしく

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ローラーで均して、にんじんの種まき準備をする農園スタッフ。畑チーム4人で6ヘクタールの野菜を栽培。データ分析とITを駆使して、「小さくて強い農業」をめざす。

取材の日は、にんじんの種を蒔く畑作りをしているところでした。食べた人たちからもっとも評判が高いのが、〝エロうま野菜″と呼ばれているこのにんじん。野菜のおいしさを標榜する久松農園を代表する野菜といえます。

ローラーで土をプレスしています。「靴が汚れるのが嫌でなければ、畑に入ってもいいですよ」と言われ、一足、畑に入ったら、うわっ、柔らかい!足が土の中にぐっと沈みます。ここは、まだプレスしていない場所。

「にんじんは、下に向かって伸びるので、土は柔らかい方がいいんです。でも、種を播く表層部分はある程度締まっていないと、水分がまばらで発芽が揃わない。だから土の奥はやわらかく、土の表面は固めるわけです」。改良をここ数年続けてきて、発芽率がぐっと高まったそうです。

「発芽率が高まれば同じ面積から収益が上がる。効率が上がれば、休みもとれる」。有機農法といえば、生産者が額に汗して働くイメージも強いですが、より経営的な視点を持っているのが久松農園の、というより久松さんの特長です。

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にんじんは春と夏の2回出荷。写真は6月の収穫期。健康や安全ばかりでなく、よだれが出るくらい食べたいと本能が欲する有機野菜の味わいをめざす。久松さんはそれを〝エロうま野菜″と表現している。




エシカルな有機農業で
自然を次世代に受け渡す

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「僕たちは環境を間借りしている仕事だから、それを次世代により豊かにして返したい」と語る久松さん。

久松さんは有機農法という点をことさら強調しません。「慣行農法にもおいしいものがある」と言います。でも、ご自身は有機で育てることを貫いている。それはどうしてなのか、聞いてみました。

慣行農法...
日本全国で慣行的に行われている、化学的に合成された肥料及び農薬を使った農法。環境に負荷がかからないよう投入量や散布回数を削減した環境保全型農業や、減農薬や特別栽培なども含まれる。

「有機で育てると野菜の顔色がよく見える」と久松さんは言います。「農薬を使って虫や病気を防ぐことはできますが、症状こそ出ていないものの,本当は病気にかかりやすい野菜だったかもしれない。風邪をひいて高熱が出たときに薬で熱を下げると、それは熱が下がっただけで本当に風邪が治ったわけではないのと似ています」。

本質的なことに目を向けざるを得ないので、「有機農法は人も育つ」と続けます。多様な作物を目で見て手で触って育て、微生物を含めた畑の生き物の種類と数を増やし、環境を豊かにしていく過程を肌で感じることができることは、生産者の大きな財産ではないでしょうか。

とはいえ、ただ汗を流して有機農法をするという方法は好まないといいます。「農業の合理的なやりかたは一つとは限らない。昔からやってきた中にプラスしていくとすれば、それが科学的なアプローチでなければ次に受け渡すことができないですから」。

話の中でふと「美しい仕事をしたい」と久松さんがおっしゃった言葉が印象的でした。シンプルに合理的に、また少し遠くにある風景を見ながら、野菜のおいしさを追求していく久松さんらしいと思ったからです。

美しい仕事が結果的に人を育て、畑を育て、野菜を育てる。そんなメッセージに聞こえました。

【久松農園 第2回につづく】

久松農園
http://hisamatsufarm.com/
●定期便はSサイズ2000円、Mサイズ2500円、Lサイズ3000円(送料別)。単発のお試しセットもあり。そのほかにんじんジュース、トマトジュースも人気。トマトジュースは、旨味の強いクッキング用の品種を使い、農園で一番おいしい時期の完熟トマトだけでつくる。注文はインターネットのみ。電話やファックスの受付はしていない。

プロフィール
有賀薫(ありが・かおる)
受験生だった息子の朝食にスープを作りはじめたことをきっかけに、365日毎朝のスープをSNSに投稿。旬の野菜を使ったシンプルなレシピが反響を呼び、書籍化に。「スープ・レッスン」(プレジデント社)に続いて、『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(分響社)などのレシピ本を手掛け、ライター業から転身。スープ作家として、実験イベント「スープ・ラボ」のほか、テレビや雑誌などで活躍の場を広げている。
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