2019年10月23日

母さん牛のやさしい味わい トマトとヨーグルトのスープ【磯沼牧場 第3回】

スープ作家 有賀薫

スープ作家の有賀薫さんが磯沼牧場で
出会ったしあわせな母さん牛。
ジャージー牛一頭分のミルクだけで
つくったヨーグルトは、
磯沼さんのかあさん牛への愛情が
たっぷりつまっていました。

文・有賀薫(スープ作家) 撮影・柿本礼子 編集・神吉佳奈子

【磯沼牧場 第2回はこちら】

ひとりひとりが違うように
牛にだって個性がある

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磯沼ミルクファームの中にある「日本で一番小さなヨーグルト工房」。1991年からヨーグルト製造をスタート。年間14000リットルのヨーグルトを製造し、直売所やインターネット通販で販売。

磯沼ミルクファームには、ジャージー種の牛乳だけで作った「プレミアムヨーグルト」があります。瓶のふたを開けると、クリーム色の脂肪分が、まるで中ぶたのように固まっているのに驚きます。触ってみると冷えたバターのような感じ。ナイフでとって、パンに塗って食べてみると、クロテッドクリームにも似た濃厚なクリームです。

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ジャージー牛一頭一日分の牛乳だけでつくる「かあさん牛のプレミアムヨーグルト」500ml 1512円。日本で唯一の牛の名前入りヨーグルト。上部はクリームヨーグルトでバターのような脂肪分の塊でおおわれている。

これは、ヨーグルトがホモジナイズされていない(ノンホモジナイズ)ことによるもの。磯沼ミルクファームではこのホモジナイズを行わず、生乳に乳酸菌を加えるだけの最もシンプルかつ自然な製法で、ヨーグルトに生乳のおいしさをそのまま残すことを選んでいます。

ノンホモナイズ......

ホモジナイズとは「均一化」。しぼりたての生乳はそのまま置くと、通常脂肪分が分離しクリームが浮いてくる。見た目と口当たりが悪くなるので、流通しているほとんどのヨーグルトは生乳に圧力をかけ、脂肪球を細かく砕いて均一にしている。

ヨーグルトに使われているのは、濃厚さが特徴のジャージー牛のミルクです。でも実はそれだけではありません。このヨーグルト、蓋を見ると牛の名前が印刷されているんです。ヨーグルトを作るためのミルクを1頭の牛に限定しているという、文字通り、かあさん牛のヨーグルト! ヨーグルトの質感や甘味、酸味に牛の個体による微妙な違いが出るそうです。クリームの硬さの違いや甘味、酸味の違いがあります。こんなヨーグルトはどこを探してもありません。牧場の牛たちと出会ったあとは、なおさらおいしく感じるのでした。

鶏肉の野菜煮込みに
ヨーグルトをのせるだけ

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育成舎ですやすやと眠っているのは生まれたばかりのジャージー牛の赤ちゃん。磯沼牧場では、生まれてから1週間、仔牛に栄養と免疫を与えるため、母牛の初乳を与えている。

このヨーグルトで作ったのは、鶏肉とトマトをベースにし、季節野菜を入れて煮込んだ、シチューのようなスープです。具として加えた野菜は夏野菜の代表、なす。色が悪くならないよう皮をむき、炒めてから煮込みます。

普段は塩と胡椒だけで仕上げますが、ヨーグルトを入れるスープにはスパイシーさが似合うと思い、クミンを使いました。異国情緒漂うスープがヨーグルトのトッピングで、軽やかに、それでいてうまみの深まる一皿となりました。

かあさん牛に会いに
磯沼牧場へ行こう

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かあさん牛は、出産後1〜2ヶ月は乳量が多く疲れ気味に。3〜4ヶ月すると体力が回復し、乳量が少しずつ下り成分が高くなる。ミルクがおいしくなるのは、かあさん牛に余裕が出てくる5〜6ヶ月後くらいから。

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発酵させた後、4か月ほど熟成して作った完熟コーヒー牛糞堆肥の「牛の助」。磯沼牧場の牛糞はすべて堆肥化して肥料として販売。八王子以外の農家や大学、学校農園などで使われている。

ストレスなく健康に牛を育て、そこから獲れたミルクを、なるべくありのままのかたちで消費者まで届ける。おいしい牛乳を飲んだり料理に使ったりして、私たち消費者もまた健康に幸せになる。磯沼牧場で一日過ごしてスープを作って、わずかな時間でしたが幸せの連鎖に参加させてもらった気分でした。

チキンとトマト、
なすのヨーグルトスープ

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トマトの酸味にスプーン一杯のヨーグルト。ヨーグルトにクミンの風味がなんと合うこと! 爽やかさとコクが加わり、軽やかな食べ心地に一変。冷たいスープにしてもよし。

▼材料(2人分)
鶏もも肉 300 g
トマト 大2個(600g)
なす 2本
たまねぎ 1/4個
塩小さじ1
クミンシード 小さじ1
オリーブ油 大さじ2
ヨーグルト 大さじ1
ブイヨン 400mL

▼作り方

  1. 鶏肉は食べやすい大きさにカットする。玉ねぎはみじん切り。トマトはへたをとりざく切り。なすは皮をむいて、コロコロにカットする。
  2. 鍋にオリーブ油大さじ1を入れ、なすを炒めて取り出す。続いてオリーブオイル大さじ1/2で鶏肉を炒め、取り出す。残りのオリーブ油でたまねぎ、塩小さじ1/2を入れて炒め、クミンシードも入れて炒める。
  3. 鶏肉、トマトを合わせ、ブイヨン400mLと塩小さじ1/2を加えてよく煮込み、塩で味を調節する。盛り付けるときに、ヨーグルトをトッピングする。

esoup_6211298P6211298_isonuma1_3.jpg磯沼ミルクファーム(磯沼牧場)
東京都八王子市小比企町1625
TEL
042-637-6086
京王高尾線山田駅から徒歩10
http://isonuma-farm.com/

※毎週日曜日は牧場案内ツアーと牛乳の試飲付き乳搾り(700円)体験教室を開催(要予約)。週末は、ハムやチーズ作り、バーベキューなど、都会の牧場ライフを楽しむ参加型イベントを企画している。売店では、牛乳やヨーグルトのほか、アイスクリームも販売。

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プロフィール
有賀薫(ありが・かおる)
受験生だった息子の朝食にスープを作りはじめたことをきっかけに、365日毎朝のスープをSNSに投稿。旬の野菜を使ったシンプルなレシピが反響を呼び、書籍化に。「スープ・レッスン」(プレジデント社)に続いて、『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(分響社)などのレシピ本を手掛け、ライター業から転身。スープ作家として、実験イベント「スープ・ラボ」のほか、テレビや雑誌などで活躍の場を広げている。
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