2019年9月24日

幸せな牛のミルクでつくる にんじんスープ【磯沼牧場 第2回】

スープ作家 有賀薫

東京・八王子にある磯沼牧場を訪ねたスープ作家の有賀薫さん。
アニマルウェルフェアな飼育方法で
磯沼さんが健康的に育てた牛乳を使った
エシカルなミルクスープができました! 

文・有賀薫(スープ作家) 撮影・柿本礼子 編集・神吉佳奈子

【磯沼牧場 第1回はこちら】

自然な牛乳の味わいは、
驚くほどあっさりしていた

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磯沼牧場の「みるくの黄金律」900ml 972円。風味や濃さの異なるホルスタイン、ジャージー、ブラウンスイス、エアシャーの4種の乳牛をブレンドした低温殺菌牛乳。多様な品種を同時飼育し、快適な環境で牛乳を生産。乳量は少なくなるが、そのぶん甘みと複雑味のあるおいしさになる。

おいしい牛乳=濃厚な牛乳、とずっと思ってきました。だから、磯沼牧場の牛乳を飲んだとき、そのサラリとした味わいとのどごしに、えっ...と意表をつかれました。牛乳特有のクセがなく、喉の奥にすーっと吸い込まれていく。それでいて薄いわけではなく、飲みごたえのあるミルクです。

いつも牛乳を使ったスープを作るときに乳臭くなってしまうのが嫌で、なんとなく少なめの量にしていました。でも、こんな淡くきれいな味わいの牛乳ならば、たっぷり入れて作ってもおいしく食べられそうです。

低温殺菌牛乳......

搾りたての生乳は、雑菌が繁殖しやすいため、バルククーラーで4℃に冷却し保存する。その殺菌方法はいろいろあるが、スーパーに並ぶ牛乳の多くは、130℃で2秒程度殺菌する「高温短時間殺菌」。一方、「低温長時間殺菌」は63~65度で30分間、有害な菌のみを殺菌する方法。パスチャライズドとも呼ばれる。手間と時間がかかるため値段は高くなり、賞味期限が短くなるが、生乳本来の自然な風味をそのまま活かすことができる。

牛乳の本来の風味は
牛たちが食べる餌で決まる

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今日のメニューは、パイナップルとメロンの皮、キャベツと白菜の外葉、おから、そして干し草。「牛もおいしい餌から食べる。食べて舐めて確かめて、いい香りがしないと食べてくれないんです」と磯沼さん。

そういえば、食事中の牛たちが、干し草の中に鼻を突っ込んで何かを探すようにしていました。お目当ては、フルーツの皮。磯沼牧場では、東京近郊の食工場から食品副産物(エコフィード)を引き取ってきて、干し草に混ぜています。カットフルーツやジュースを作るときに出た果物の皮、アーモンドの粉、そして八丁味噌まで。

磯沼さんいわく「必要なミネラルやビタミン、塩分が入っていて、牛たちにとってもおいしいと感じられるもの」。乳量を増やすための高カロリーな栄養ではなく、あくまでもおいしく健康的な食事として、飼料は作られています。

アニマルウェルフェアから
発想したエシカル・スープとは?

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搾乳牛の主食となるのは、主にイネ科の「スーダングラス」と呼ばれる繊維の強い干し草。牧草はアメリカ、カナダ、オーストラリアのイネ科のものを主に選んでいる。

牛舎の中で放し飼いにしているので、牛たちは干し草をいつでも自由に食べることができます。そうやって自主性を尊重する環境で育てると、牛たちは自ら胃腸の調子をコントロールし、健康的に餌を食べるといいます。

初めて磯沼牧場の牛乳を口に含んだとき、ほのかにハーブのような青い香りが鼻に抜けました。牛はご存知のように草を食べて反芻し、食べたものを腹の中で発酵させ、その養分を取り込みます。だから、草の味がそのままお乳の味に出るわけではありません。もしかして牛乳の味に刺激され、私の脳内に漂ってきた香りなのでしょうか。でも、その香りが私のスープのイメージを広げてくれました。

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10頭の羊と仔牛たちは放牧地で共に生活しているので大の仲良し。仔牛小屋に立ち寄った散歩中の羊に、牛たちが寄ってきて鼻で頭を撫でる。これが磯沼牧場のいつもの光景だ。人間と牛と、そして羊との幸せな関係がここにはある。

磯沼牧場の牛乳ならば、こってり濃厚なクリーム系のスープではなく、さわやかな草の香りを効かせた、野菜中心のスープがいい。アスパラ、キャベツ、セロリ......いや、にんじんだけのシンプルなスープにして、ミルクとハーブを使おう。にんじんの葉や、フェンネル、ディルなどのすっきりしたハーブが、素直な甘みとコクのある牛乳に合うはず。そんなイメージがつぎつぎと沸いて、出来上がったのが「にんじんとミルクのスープ」です。

やさしい甘みが広がる
にんじんとミルクのスープ

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最初に口に含んだときの牛乳の青い香りがインスピレーション。ニンジンとアクセントのハーブの香りと合わさって、爽やかな風味に仕上がった。

▼材料(2人分)
にんじん 2本(300g)
サラダ油 大さじ1
牛乳 200mL
水 200mL
塩 小さじ1弱
にんじんの葉、またはフェンネル 少々

▼作り方
1)にんじんはしりしり器でおろす。

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しりしり器は、千切りのためのスライサーです。刃が粗く、切った野菜の表面がざらつくのが特長で、味の染み込みがよくなります。普通のスライサーや、スライサーがなければ手切りで千切りにしても構いません。にんじんの皮はむいてもむかなくても構いませんが、皮をつけたままだと色が黒ずんでしまうので、色を美しく仕上げたい人は、皮をむいた方がいいでしょう。

2)フライパンににんじんとサラダ油を入れ、甘みが出るまで炒める。

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あっさりとした牛乳の味わいを生かしたいので、オリーブオイルやバターよりも、クセのないサラダ油を使います。にんじんは焦げやすいので、よく混ぜながら炒めます。最初はにんじんが油を吸ってしまいますが、炒めていくうちに落ち着きます。火は中火ですが、最後の方は少し火を弱くして、焦げ付かないように気をつけながら、にんじんのかさが減りしっとりとするまで炒めてください。食べてみて甘さがあるようならOKです。

3)鍋ににんじんと水を入れて温めてから、牛乳を注いでゆっくりと温めて、塩で味をつける。

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鍋ににんじんと水を入れて温めてから、牛乳を注いでゆっくりと温めて、塩で味をつけます。牛乳は煮立たせると分離してしまうので、この作業は食べる直前にやりましょう。強すぎない火で、ゆっくりと混ぜながら温めてください。牛乳が温まったところで、塩を加え、味を見て調節します。作ってすぐに食べない場合は、にんじんを炒めたところで作業を止めておきます。冷蔵庫に入れておけば1両日ぐらいは大丈夫です。

3)にんじんの葉、またはフェンネルを飾る。

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にんじんのスープを銘々のお皿に盛り付けたら、ハーブを散らします。にんじんに、もし葉っぱがついていたら、綺麗な部分を少し刻んで使いましょう。なければハーブを。軽く、爽快感のあるハーブが合うと思います。今回はフェンネルを刻んで使っていますが、ディルもよいです。

【磯沼牧場 第3回につづく】

esoup_6211298P6211298_isonuma1_3.jpg磯沼ミルクファーム(磯沼牧場)
東京都八王子市小比企町1625
TEL
042-637-6086
京王高尾線山田駅から徒歩10
http://isonuma-farm.com/

※毎週日曜日は牧場案内ツアーと牛乳の試飲付き乳搾り(700円)体験教室を開催(要予約)。週末は、ハムやチーズ作り、バーベキューなど、都会の牧場ライフを楽しむ参加型イベントを企画している。売店では、牛乳やヨーグルトのほか、アイスクリームも販売。

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プロフィール
有賀薫(ありが・かおる)
受験生だった息子の朝食にスープを作りはじめたことをきっかけに、365日毎朝のスープをSNSに投稿。旬の野菜を使ったシンプルなレシピが反響を呼び、書籍化に。「スープ・レッスン」(プレジデント社)に続いて、『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(分響社)などのレシピ本を手掛け、ライター業から転身。スープ作家として、実験イベント「スープ・ラボ」のほか、テレビや雑誌などで活躍の場を広げている。
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