2023年12月20日

ニューヨークの街中で見かける「オレンジの箱」 スマートコンポストとは一体なに?

食品ロス問題ジャーナリスト 井出留美

今や、多くの人が食品ロスの問題に関心を持っていることでしょう。食品ロスは「もったいない」だけではなく、環境問題としても重要です。では、食品ロスを減らすためには、一体どのような取り組みが社会に広がらなくてはならないのでしょうか。食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんのナビゲートで、我々がお手本とすべき食品ロス削減の"最前線"をご紹介します。

すでに270ヶ所以上に設置
NYで進むスマートコンポスト

2023年9月、食品ロスの国際会議に参加するため、ニューヨークへ行ってきました。昨年2022年9月に引き続き、二度目の渡航です。

今回、新たに街で見つけたのが「スマートコンポスト」でした。市民が生ごみを入れるためのごみ箱です。オレンジ色でポップなデザインが人の目を惹きつけます。

実はこのニューヨーク市の生ごみ対策のお手本とされたのは、前回の記事でお伝えした韓国の生ごみ政策でした。ニューヨーク市は長年、韓国の生ごみ政策について研究し、2023年6月8日に「ゼロ・ウェイスト法(The Zero Waste Act)」が可決されました。

834万人が生活するニューヨーク市では、毎日1万1000トンもの一般ごみが排出されています。そのうち、およそ3分の1を生ごみや落ち葉、剪定枝などの有機ごみが占めています。

そして、これらは埋め立てによって処分されており、二酸化炭素よりも温室効果が大きいメタンガスが放出されることが問題となっていました。そこで、生ごみ(food waste)や庭ごみ(yard waste、落ち葉や剪定した枝)などの有機ごみを分別回収するプログラムを段階的に導入してきたのです。2024年10月までにはニューヨーク市全体で展開することに決まっています。

2023年1月、ニューヨーク在住のジャーナリスト、黒部エリさんが、私のニュースレター「パル通信」でスマートコンポストのことを寄稿してくださいました

そこで、渡航したらぜひ自分の目で見てみたいと思っていたのです。

このスマートコンポストは、スマートフォンにアプリをダウンロードすれば扉の鍵を開けることができ、誰でも24時間利用することができます。入れてもいいのは「食べ残しなどの生ごみ」「食べ物で汚れた紙類」「落ち葉」など。スマートコンポストの側面にイラストで描かれています。

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スマートコンポストの側面に入れていいものがイラストで表示(筆者提供)

黒部エリさんによると、2022年12月までにスマートコンポストは市内275カ所に設置されました。私が渡航した2023年9月に15ヶ所を見てまわったところ、飲食店の前や、公園・学校の前など、食べ残しへの意識が高まる場所や、人が多く集まる場所に多く設置されていました。

アプリはGPSと連動しており、どこに設置されているかがスマートフォン上でわかります。
スマートコンポストの容量はアプリ上で色分けされていて、緑なら「余裕あり」、茶色は「もうすぐいっぱいになる」、赤は「満杯」の状態を示しています。ちなみに、スマートコンポストの上部には太陽光発電のパネルがついていて、コンポストの装置は再生可能エネルギーで駆動します。

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アプリの地図上に現時点でのごみ箱の受け入れ態勢が緑と茶色、赤で示される(筆者提供)

集めたごみは堆肥などにリサイクル
今こそ日本にもコンポストが必要

アプリをダウンロードして、コンポストの中をのぞいてみると、飲食店の紙袋をそのまま捨てている人もいましたし、生分解性の袋に入れて捨てている人も。袋の中にはオレンジの皮などが見えました。玉ねぎの皮がコンポストの扉にへばりついているものもありました。

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上部に設置された太陽光パネル(左)と捨てられたごみ(右)(筆者提供)

ここから回収された生ごみは、ブルックリンの下水処理施設や、スタテン島の堆肥化施設に送られ、再生可能エネルギーや堆肥になります。具体的には、下水処理施設に送られたものはメタンガスとして発電に利用され、施設内で電気として利用されます。また、周辺の約2500世帯に天然ガスとしても供給されています。また、スタテン島に送られたものは堆肥化され、造園業者向けに販売、もしくは公園・学校・教会・コミュニティガーデンなどに無償提供されます。

日本の全国紙のニューヨーク支局に勤める男性は、「普段からスマートコンポストを使っています」と話していました。家の前にあるのでとても便利だとか。

生ごみを資源化するというと、「地方ならできるけど大都市は無理」という声を聞きます。でも、世界の大都市ニューヨーク市やソウル市でも、こうして生ごみを資源として活用しているのです。日本でも、東京都渋谷区が生ごみ処理の実証実験を2021年から実施していて、2023年には3回目の実証実験をおこないました。

コロナ禍を経て、ロシアによるウクライナ軍事侵攻があり、飼料や肥料、燃料の価格が高騰しています。一方で、これらの原料となりうる生ごみを使わず、莫大なエネルギーとコストを費やして焼却処分しているのは、二重にもったいないといえるのではないでしょうか。

なにしろ、日本は一般廃棄物の80%近くを焼却処分しているのです。その焼却割合はOECD加盟国の中でもワースト1位。一般廃棄物の処理費用に、年間2兆1449億円もの税金を費やしています。ニューヨーク市やソウル市の取り組みを見習い、今こそ「資源」として活用すべきときです。

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プロフィール
井出留美(いで・るみ)
食品ロス問題ジャーナリスト。2016年の国会議員向け講演会をきっかけに食品ロス削減推進法の成立に貢献。『賞味期限のウソ』(5刷)ほか著書多数。第二回食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。
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