今や、多くの人が食品ロスの問題に関心を持っていることでしょう。食品ロスは「もったいない」だけではなく、環境問題としても重要です。では、食品ロスを減らすためには、一体どのような取り組みが社会に広がらなくてはならないのでしょうか。食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんのナビゲートで、我々がお手本とすべき食品ロス削減の"最前線"をご紹介します。
生ごみリサイクル率が3%から100%へ
韓国で起きた変化の理由
以前、食品企業に勤めていたとき、米国本社から「日本も韓国も同じ国」のように扱われたことがありました。でも、当事者から見ればまったく違いますよね。最近では、映画や音楽の世界における韓国の躍進はめざましいものがあります。
そして、生ごみを「ごみ」として扱わず、資源として活用する面においても、韓国は日本よりも格段に進んでいるのです。1996年の韓国では、生ごみのリサイクル率は2.6%に過ぎませんでした。それが2011年には97.1%になり、今ではほぼ100%に近い状態になっています。
廃棄物行政に詳しい山谷修作先生の著作(下記、参考書籍)によると、韓国では1990年代から、生ごみの埋め立てによる悪臭や地下水汚染などの問題が発生してきました。国は焼却処分を計画しましたが、市民団体は激しく反対し、ごみそのものの減量、資源化を促進、生ごみの再利用化を要求しました。
一方、1990年代後半の韓国では、通貨のウォンが暴落し、畜産農家が大きな打撃を受けました。輸入の飼料に頼っていたからです。
そこで、韓国では生ごみを資源として活かして飼料や肥料を生産し、酪農家や農家を支援する動きが広がりました。つまり、韓国にとって生ごみを資源として活用することは、ごみ問題を解決すると同時に、飼料や肥料を輸入せずとも自分の国で自給する方法となったのです。
その後、韓国は、2005年から生ごみの埋め立てを禁止し、2013年からは生ごみを専用の黄色い袋に入れて出すことが義務付けられました。つまり、生ごみを、資源としてリサイクルすることになったのです。
ソウル市や釜山市には、生ごみを入れるポストがあります。電子式のもので、生ごみを入れる量によって料金が異なります。ごみの袋も有料で、市はごみ袋で得た財源をごみ処理に充当することができます。集めた生ごみは飼料や肥料にしていますが、最近では、バイオガス化も進んでいます。
実は、千葉県市川市が、これと同じような形のポストを市役所の職員の間で実証実験したことがありました。東京新聞が報じ、「日本の首都圏でも生ごみが活用できるようになるんだ」とうれしくなりましたが、その後、機械の調子がおもわしくなくなったようで、途中で止まってしまったようです。
NYでも街中にコンポストが!
日本はどうする?
生ゴミを回収するコンポストが設置されているのは、韓国だけではありません。今年9月、私が食品ロスの会議に出席するために訪れたアメリカ・ニューヨークでも、歩道にたくさんのスマートコンポストが設置されています。
NYで設置されているコンポストはオレンジ色で、スマートフォンのアプリをダウンロードした人だけが、この扉の鍵を開けることができます。GPS機能で、どこにスマートコンポストがあるかもわかります。また、韓国とは違い、料金を払う必要はありません。
NYに滞在中、15か所のスマートコンポストをまわり、外観や中の写真を撮ってみました。ちゃんと生ごみが入れられているようで、扉の内側に玉ねぎの皮やオレンジの皮のようなものも見えました。ちなみに、コンポストを動かすのに必要な電力はコンポストの上に設置されている太陽光パネルでまかなっているようです。
ニューヨーク市では、このようなfood waste(生ごみ)や、yard waste(落ち葉や剪定した枝)を、ごみとして処分せず資源として活用することを目指しています。
イタリアやデンマーク、スウェーデンに出張した時も、ごみ箱の分類には「Organic(オーガニック)」と書いてあるものがありました。この中に、りんごの芯やバナナの皮などの生ごみ、落ち葉、剪定枝を入れればいいのです。資源として活用されます。
日本では、秋が落ち葉のシーズンです。自治体のごみ収集車がまわって、剪定枝や落ち葉をごみ袋たくさんに詰めているのを見ると「もったいないなあ。資源として使えるのに」と残念に思います。私自身も「せめてできることを」と思い、近くの公園で落ち葉を集めてきて、家のコンポストに入れてみました。
韓国では、1990年代後半に飼料を輸入している畜産農家が打撃を受けたことをきっかけに、生ごみを資源として活用する取り組みが広がりました。これは今、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降、飼料や肥料が値上がりして廃業せざるを得ない酪農家や農家が出ている日本の状況を彷彿とさせます。韓国は、政府が政策として生ごみの資源化を進めてきました。そして、10年以上が経って成果を生み出し、今では諸外国がお手本にするくらいになりました。さて、日本はこれからどうするのでしょうか。
参考資料:『ごみゼロへの挑戦 ゼロウェイスト最前線』山谷修作著、丸善出版
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