2023年2月20日

温室効果ガスとごみ処理費を減らす 上勝町のゼロ・ウェイストアクションとは何か

食品ロス問題ジャーナリスト 井出留美

今や、多くの人が食品ロスの問題に関心を持っていることでしょう。食品ロスは「もったいない」だけではなく、環境問題としても重要です。では、食品ロスを減らすためには、一体どのような取り組みが社会に広がらなくてはならないのでしょうか。食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんのナビゲートで、我々がお手本とすべき食品ロス削減の"最前線"をご紹介します。

ごみゼロの町に誕生した
ゼロ・ウェイストなホテル

前回の記事では、2003年に日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言をした、徳島県上勝町(かみかつちょう)についてお伝えしました。「ゼロ・ウェイスト」とは「ごみゼロ」、ごみを出さない社会を目指すということです。

5月30日は「ごみゼロの日」。2020年のこの日、「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」に、新たな宿泊施設「HOTEL WHY(ホテル・ホワイ)」が創業しました。 

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フロントで説明を受ける筆者(株式会社office 3.11撮影)

HOTEL WHYは、「ゼロ・ウェイストアクション」をコンセプトにしています。受け身ではなく、能動的に行動を起こすということです。筆者も早速、上勝町まで足を運び、このゼロ・ウェイストアクションを体験してきました。

まずチェックインでは、フロントで「コーヒーとお茶、滞在中に何杯飲みますか?」と質問されます。コーヒーやお茶を飲むことは、コーヒーかすやお茶がらなど、ごみを出す行為でもあるからです。

洗面所に置くせっけんは、必要量を伝えて計り分けてもらいます。一般的なホテルであれば、ハンドソープは部屋に置いてあって好きなだけ使えるでしょう。場合によっては、コーヒーやお茶のパックも置いてあるかもしれません。でも、ここでは違います。

滞在中に出るごみは、部屋に用意された小さな6つのごみ箱に分別します。

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HOTEL WHY客室に用意されたごみ入れ(筆者撮影)

ホテルに宿泊する人は、上勝町のゼロ・ウェイストの歴史を職員が解説する「STUDY WHY」に参加することもできます。また、滞在中に出たごみをどのようにリサイクルするのかを体験することもできます。

処理費の効率化にも
上勝町のリサイクルの最前線

HOTEL WHY滞在中は、宿泊客も地元住民同様にごみをごみステーションまで持っていきます。

筆者もホテルに滞在中、食べたあとの食品のパッケージを洗って、ごみステーションまで持っていきました。どこに分別したらいいのか悩んでいると、HOTEL WHYで運営・管理を担当する大塚桃奈さんが「ここでは、濡れたプラスチック包装は洗濯物のようにハンガーに干すんです」と教えてくれました。

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(左)上勝町のゼロ・ウェイストの歴史を説明する大塚桃奈さん、(右)ごみステーションの紙コーナー(株式会社office 3.11撮影)

上勝町にはごみ収集車がありません。町民や事業者は、1カ所だけのごみステーションにごみを運び、自分で45種類に分別するのです。生ごみは、各家庭で堆肥化されます。古紙だけで9種類にも分類されます。

そして「ごみが資源としていくらの利益を生むのか」や「処理にいくらかかるのか」がごみの行き先とともに記載されています。

たとえば、紙パック(白)は10円/kgで売られ、徳島市で再生紙になります。白トレイは0.53円かけて広島県でリサイクルされます。茶色のびんは0.864円かけて徳島市で再び茶色のびんに生まれかわります。おむつや生理用品など「どうしても燃やさなければならないもの」は、徳島市で焼却・埋立処理されます。これは費用が高く、61円/kgもかかります。

持ち込まれるごみのうち、80%は資源として再利用されています。2022年4月に施行された「プラスチック資源循環促進法」で、自治体のリサイクルが努力義務とされたプラスチック製容器包装は、リサイクルするのに0.53円/kgの費用がかかります。

このように、上勝町はごみをリサイクルすることで利益を出しています。でも、全体的にみれば黒字にはなっていません。

2019年には資源ごみの販売で約180万円の利益を出しています。一方、ごみ処理費としては約680万円(リサイクル費用の300万円を含む)かかっており、支出の方が500万円多いです。

しかし、もしこれをリサイクルせず、焼却したり埋立てしたりした場合は経費が680万円では済まず、およそ2.5倍(約1,700万円)かかるそうです。

日本では、一般廃棄物のおよそ80%を焼却処分しています。燃やして済ませているほとんどの自治体に比べれば、上勝町はごみ処理費を大幅に抑えているのです。

日本は、OECD加盟国の中で、最もごみ焼却率が高い「ごみ焼却大国」です。年間で2兆1,290億円を一般廃棄物の処理費に費やしています。食品ロスを含めた生ごみは、その重さの80%が「水」です。燃えにくいものを、わざわざ膨大なエネルギーとコストをかけて燃やし、二酸化炭素を出しているわけです。

食品リサイクル業を営む関係者は、年間のごみ処理費2兆1,290億円のうち、40%は食べ物関連ではないかと推計しています。なぜなら、食品ロスをはじめとした生ごみは重くて燃えにくいからです。

このうちの少しでも減らすことができれば「世界第五位の温室効果ガス排出国」である日本も、少しは変わるのではないでしょうか。

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プロフィール
井出留美(いで・るみ)
食品ロス問題ジャーナリスト。2016年の国会議員向け講演会をきっかけに食品ロス削減推進法の成立に貢献。『賞味期限のウソ』(5刷)ほか著書多数。第二回食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。
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